第14回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」開催リポート

第14回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」開催リポート

2017年4月26日(水)17:00~18:30参議院議員会館会議室号にて、「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」の第回勉強会を開催いたしました。 詳細は、月刊誌『集中』月号にて、事後報告記事を掲載いたします。

まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より、挨拶させていただきました。
14回目の開催を迎えました。最近では、当会のホームページも、集中出版のホームページも、大変多くの検索を頂いています。この会から、しっかり情報発信できていることを、喜んでいます。今回は『量子メス』について、量子科学技術研究開発機構の平野俊夫理事長に講演していただきます」

続いて、当会国会議員団の冨岡勉・衆議院議員にご挨拶いただきました。
20年ほど前まで、長崎大学の消化器外科にいまして、肝胆膵を専門にしていました。膵臓がんは手術してもなかなか救命できません。年生存率は7%ほどです。ところが、重粒子線を照射した後に手術すると、年生存率が50%程度になるというのです。最初は数字の間違いかと思いました。重粒子線治療については、この医療機器自体が、日本の医療水準を示すよい指標になっているのではないかと注目しています。国としても、こういう技術を後押ししていきます。メーカーの方々には、ぜひ一丸となって取り組んでほしいと期待しています」

当会国会議員団代表の原田義昭・衆議院議員からもご挨拶いただきました。
「かつて知人が重粒子線の治療を受けたことがあるのですが、顔のがんを完全に治すことができました。この分野は日進月歩で技術が進歩しているようです。また、開発に関しては、産業政策に通じる観点が必要になります。どのような方法でやっていくべきなのか、企業の方々にも考えていただくといいでしょう」

今回の講演は、平野俊夫氏(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構理事長)による『第5世代重粒子線がん治療装置「量子メス」研究開発プロジェクト~「量子メス」の実用化計画、治療向上の可能性、今後の展開について~』と題するものでした。
以下はその要約です。


QST誕生と「未来戦略2016」
量子科学技術研究開発機構(QST)は、放射線医学総合研究所と、日本原子力研究開発機構の核融合部門と量子部門が再編統合され、昨年月に発足しました。究極のエネルギーである核融合研究開発、量子材料・物質科学による新産業創成イノベーション、重粒子線など放射線医学に関する研究開発といったことを、量子科学技術を基盤に行っている研究機関です。公共指定機関としての役割もあり、放射線の人と環境への影響の研究、福島復興支援、緊急被ばく医療支援チーム(REMAT)の活動にも従事しています。

昨年、未来戦略箇条」を作りました。簡単に言えば、「量子科学技術による『調和ある多様性の創造』により、平和で心豊かな人類社会の発展に貢献する」という理念のもと、「QSTの強みをさらに強化しつつ、拠点や研究分野の壁を乗り越えて、研究開発における『調和ある多様性の創造』をQST内に実現する。『量子エネルギー理工学』『量子材料・物質科学』『量子生命科学』『量子医学・医療』そして安全・安心を支える『放射線影響研究』等の分野で世界を先導し、世界トップクラスの量子科学技術研究開発プラットフォーム構築を志す」といった内容になっています。量子医学・医療分野では、次世代重粒子線装置である「量子メス」等の研究開発を推進し、健康長寿社会に貢献していくことになります。

◎重粒子線がん治療の歩みと実績
日本では1984年に「第1次対がん10ヵ年総合戦略」の一環として、重粒子線がん治療装置HIMACの建設計画がスタートし、年に完成、94年から臨床研究が始まっています。現在までに1万人を超える患者さんを治療してきました。さまざまな種類のがんの治療を行ってきた実績があります。

現在、日本では施設で重粒子線による治療を行っています。従来の治療法では治せなかったがんを治せたという例もあります。また、手術できない局所進行膵臓がんの治療では、2年生存率が約60%という優れた実績をあげています。もうつ素晴らしいのは、他の放射線治療に比べ、照射回数が少ない点です。Ⅰ期の肺がんに対しては、たった1回の照射で手術と同等以上の成績をあげています。前立腺がんに対しても、照射回数を減らしてきて、現在は12回まで減っています。

少ない回数の照射で優れた成績をあげることができるのは、重粒子線による治療が、腫瘍への効果が高く、正常組織の被ばく量が少ない治療法だからです。そのため、少ない回数で多くの線量を腫瘍に照射することができます。通常の放射線治療に使われるエックス腺やガンマ線は、体表近くで線量が最大になり、深くなるほど線量が低下してしまいます。ところが重粒子線は、特定の深さに線量のピークを作ることができます。また、重粒子線は進行方向から横への散乱が非常に少ないという特徴もあります。この2つの物理学的特性により、線量が腫瘍に集中し、正常組織の被ばく量が少なくなるのです。さらに、重粒子線はを複雑に切断するため、エックス線や陽子線と比べても、がん細胞を死滅させる生物学的効果が大きいという特徴もあります。そのため、放射線治療が効きにくい放射線抵抗性腫瘍にも治療効果を発揮します。平成27年月に、肝がん、早期肺がん、局所進行膵がん、前立腺がんが「先進医療Bの適用となり、平成28年4月に非切除骨軟部肉腫が保険収載されました。

◎がん死ゼロ健康長寿社会実現のための6条件
がん死ゼロのために必要なのは、「原発腫瘍塊制御」と「転移巣制御」です。これを完全に行うことができれば、がんで死亡することはなくなります。ただ、その治療のために、副作用で体がガタガタになってしまったり、会社に行けなくなったりしたのでは、健康長寿とはいえません。健康長寿を実現するには、「QOL維持」が必要になります。健康長寿社会を実現するには、いくらよい治療でも、一部の人しか受けられないような治療ではいけません。社会に普及させるための「経済性」も必要です。これらを満たして、初めて「がん死ゼロ健康長寿社会」を実現できると考えられます。

最近、免疫チェックポイントがん治療が注目を集めていますが、これについても考える必要があります。免疫チェックポイントがん治療は、免疫のブレーキを抑制することにより、結果的にアクセル全開の状態にする治療法です。この治療法の登場により、がん治療において免疫が重要であるということがわかってきました。すなわち、「免疫機能温存」あるいは「免疫機能活性化」する治療の組み合わせが、がん治療の主流になると考えられるのです。つまり、「原発腫瘍塊制御」「転移巣制御」「免疫機能温存」「免疫機能活性化」により、がん死ゼロを達成し、さらに「QOL維持」「経済性」が加わることで、「がん死ゼロの健康長寿社会」が実現することになります。

重粒子線治療は、免疫を活性化する可能性もあると考えられています。上行結腸がん術後腹部再発例に対し、腹部再発部位に重粒子線を照射したところ、その部位のがんが縮小するだけでなく、重粒子線を照射していない肺転移巣も縮小したのです。おそらく免疫が活性化されたことで起きた現象だと考えられます。QSTが目指しているのは、次世代重粒子線治療の「量子メス」で原発腫瘍塊を治療し、転移巣に対しては分子標的薬や標的アイソトープ治療を行い、さらに免疫制御治療を併用するというものです。次のような例がありました。膵がんの術後腹部再発で、オプジーボによる免疫チェックポイント治療で改善が認められなかった患者に対し、腹部再発部位への重粒子線治療を行ったところ、腹部の腫瘍が縮小しただけでなく、肺の転移巣も縮小したのです。これは、活性化された免疫とオプジーボの両方が効いているのだと推測できます。

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