日本の医療と医薬品等の未来を考える会

第22回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

第22回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

第22回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」を開催いたしました。
2018年3月28日(水)、17:00~18:30、参議院議員会館の101号室にて、「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」の第22回勉強会を開催いたしました。詳細は、月刊誌『集中』2018年5月号にて、事後報告記事を掲載いたします。

まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より、挨拶させていただきました。

「この勉強会を始めてから丸2年が経過しました。毎月開催してきたわけですが、継続は力なりと感じています。新年度もますますホットな話題を取りあげていきたいと考えています。今回は『日本の医療の構造改革』がテーマです。講師は、厚生労働省に医務技監という新しいポストができたのですが、初代医務技監に就任された鈴木康裕氏にお願いしました」

続いて、当会国会議員団の冨岡勉・衆議院議員からご挨拶いただきました。

「雑誌『集中』が創刊10年を迎え、この勉強会が2年とのことです。これまでにも何度も参加ささせていただきましたが、世の中の情勢に機敏に反応して、関心の高いテーマで勉強会を継続してきたことが貴重だと思っております。本日は、私が尊敬する鈴木医務技監のお話を聞けるということで、楽しみにしてきました」

今回の講演は、厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏による『日本の医療の構造改革 変わるのは、今だっ!』と題するものでした。以下はその要約です。


『日本の医療の構造改革 変わるのは、今だっ!』
講師・厚生労働省医務技監 鈴木康裕氏
■なぜ変わらなければいけないのか?

 これから20年くらいのうちに、日本の医療には大きな構造改革が起こります。ところが、現場の医師は非常に忙しいので、目先の診療にとらわれがちです。このままでいると、5年後、10年後には、現場と大きなミスマッチが起きてしまいます。今のタイミングで立ち位置を見直し、変わっていかなければならない、というのが私の考えです。

 変わらなければならない理由が2つあります。1つは人口構造と医療ニーズの変化です。2025年に1950年以前生まれの人が75歳以上になり、医療・介護を必要とする人口が増えます。特にこれからの高齢化は、高齢者人口の増え方は大きくないのですが、生産年齢人口が減るため、生産年齢人口に対する高齢者人口の割合が高くなるのが特徴です。病床規制が始まる1990年以前は、増加する高齢者を病院の病床に収容していました。2000年に介護保険が始まり、それ以降は老健施設や特養ホームなどの介護施設が増え、そこが高齢者を収容してきました。最近の10年間は、サ高住と有料老人ホームで対応しています。人々がどこで亡くなるかも大きな問題です。2006年に108万人だった年間死亡者数が、2040年には160万人になると予想されています。病床規制があるため病院で亡くなる人は増えません。自宅で亡くなる人も、1人暮らしや夫婦のみの家庭が増えたことで、なかなか増えません。増えるのが有料老人ホームとサ高住で、これらの増加分が50万人になります。こうした人口構造と医療ニーズの変化から、医療も変わらなければならないのです。

 変わらなければならない2つ目の理由は、財政問題です。社会保障関係費は伸び続けていて、平成12年を100とすると、平成29年は194でした。医療が社会保障費の伸びの原因のように思われていますが、医療も年金もさほどではなく、急激に伸びているのは介護です。平成29年に239になっていました。財源となるのは税収ですが、税収のうち所得税や法人税は景気の動向で大きく変動します。リーマンショック後に法人税と所得税は大幅に減りました。だからといって、医療費を大幅に減らすことはできません。その点、消費税には逆進性の問題などもありますが、安定性という点から考えると、社会保障費の財源として最も適切だと言えます。

■日本の医療の特徴

 変わらなければならない日本の医療には、どのような特徴があるのでしょうか。日本では、患者の約半分が、高血圧、糖尿病、高脂血症という3つの病気で医療を受けています。いずれも放置すると大変なことになる病気ですが、初期段階では数値の異常が見られるだけで自覚症状はありません。これらの病気を早期の段階で捉え、早く介入して進行させないことが、今後の医療に大きく関わっています。

 病院の開設者にも特徴があり、日本には国公立病院が約2割しかなく、多くが民間病院です。日本の病院構造を大きく変えようというとき、公的病院なら知事や大臣が決断すれば、改革を進めることができます。ところが、大部分が民間病院ですから、なぜ変わらなければならないかを理解してもらわなければなりません。

 CTやMRIの台数が多いのも日本の医療の特徴です。人口当たりのCTやMRIの台数は、世界中でも群を抜いて多く、OECDの平均値と比べても4倍ほどになっています。病院にすべて任せると、このようなことになってしまいます。

 今後、日本の医療を取り巻く環境はどのように変化していくのでしょうか。1つの例として、千葉医療圏における入院患者数の将来推計があります。2010年を100%として、2040年の入院患者数を推計すると、妊娠・分娩による入院は約40%減りますが、脳血管疾患は約40%増え、肺炎は約50%増えます。もし、一般消費財の市場であれば、20年後に消費がこれだけ拡大するとわかっていれば、工場を作り、マーケティングを行い、その市場を最大限獲得しようとするでしょう。しかし、医療ではそのようになっていません。このままの状態で20年後を迎えると、ギャップが大きく、大変な思いをすることになるでしょう。私は、常々「茹でガエルになってはいけない」と言っています。カエルを熱い湯に入れると、すぐに飛び出すので茹りませんが、水にカエルを入れて少しずつ温めていくと、熱くなっていることに気づかず茹ってしまうという逸話があります。日々の変化は小さいため気づきませんが、5年、10年たって気づいたときには、現場のニーズから大きくかけ離れていて驚くことになります。そうならないために、今変わる必要があるのです。

■医薬品産業に対する私の意見

 医薬品産業について、厚生労働省の意見というのではなく、私の意見を述べたいと思います。日本で法人税をどれだけ払っているかを業種別に調べたデータがあります。2011年に最も多かったのは医薬品産業でした。自動車、電機、鉄鋼、情報通信などを上回っているのです。好不況による変動が少ないのも、医薬品産業の特徴です。リーマンショックにより、自動車、電機などの法人税が大幅に低下したときも、医薬品産業はほとんど変わりませんでした。好不況に左右されない安定した産業なのです。

ただし、今後、日本の医療費が大幅に増えることは期待できませんし、医療費に占める医薬品の割合が大幅に増えることも考えられません。必要なのは、新しい革新的な医薬品を生み出すことです。ところが、アメリカの企業1社あたりの研究開発費と、日本企業1社あたりの研究開発費を比較すると、5倍くらいアメリカ企業のほうが多くなっています。日本企業は規模が小さいことがネックになっているのです。また、医薬品の貿易収支は赤字で、年々拡大しています。そのため、日本の製薬企業は研究開発の力が弱く、外国企業に負けていると考えられがちです。しかし、そうではありません。パテント料などの収益をみる技術貿易収支は、かなりの黒字になっていて、外国から入ってくるお金がかなりあるのです。基礎医学が強い日本は、製造部門では治験の速いところに持って行かれますが、開発力がないわけではありません。

世界のGDPに占める各国の割合の変遷を見ると、19世紀初頭は世界のGDPの約7割を中国とインドが占めていました。この時代のGDPは農業生産で決まり、農業生産は人口で決まったので、人口の多かった両国が大部分を占めていたのです。産業革命後は、それにうまく乗れた国と乗れなかった国で差がつきました。1970年にはアメリカと日本の占める割合が大きくなり、中国とインドは辺縁化しました。今、それと同じことがAIによって起ころうとしています。AIをうまく取り入れて産業化できた国は、先進国になっていきます。それに乗り遅れた国は、一時の中国やインドのように辺縁化するでしょう。

■変わらなければならない2つの問題

 薬剤耐性(AMR)が今後大きな問題に発展する可能性があります。抗生物質に耐性を持つ細菌が増え、その感染で死亡するケースが増えるのです。今後何も対策をとらなかった場合、2050年には、がんによる死亡者数よりも、薬剤耐性菌による死亡者数のほうが多くなると予測されています。現在でも、新しい耐性菌はどんどん登場していますが、新しい抗生物質はあまり作られなくなっています。製薬企業はがんや認知症の薬の開発には熱心ですが、抗生物質には力を入れていないからです。日本では、人間に投与されている抗生物質は33%に過ぎず、それ以外は動物用医薬品、農薬、飼料添加物として使われています。こうした点についても、変わる必要があります。

 もう1つは医師の働き方です。過労死水準とされる週20時間以上、月80時間以上の残業を、医師の41.8%が行っています。これを改善すると、かなりの病院で救急ができなくなってしまいます。医師の勤務時間を改善するためには、医師でなくてもできる仕事を他の人が行うようにし、さらにシフト制の導入も考えるべきでしょう。看護師で過労死水準に達している人が5.4%と少ないのは、シフト制によるものと考えられます。特に救急のような分野では、医師もシフト制の導入を考えるべきでしょう。

「医療の構造改革」「医薬品産業」「AMR」「医師の働き方」について話しました。このような現状を見てくると、いろいろな面で変わらなければならないことがわかります。厚生労働省は現場の方々のご意見をよく聞いて、現場に大きな混乱を起こさないように形で、日本の医療のよい面を伸ばしていきたいと考えています。

質疑応答では次のような発言がありました。

尾尻:「薬価の決め方は積み上げ方式とのことです。企業から出てきた数字を精査する必要があると思いますが、どのようにするのですか」

鈴木:「薬の価格の決め方には、大きく分けて2つの方法があります。1つは、原価積み上げ方式。もう1つは類似薬効比較方式です。同じような薬効があるときに、それを引いてきて価格をつける方法です。原価積み上げ方式は、個別品の各社のデータに基づいて決めるのではありません。すべての企業のすべての医薬品の平均的な研究開発費、マーケティング費用、その他の費用を平均して計算するのです。そのため、実際より多くなる場合も少なくなる場合もあります。薬の価格のつけ方は国によって違いますが、日本のように厳格に薬価を決めている国は他にありません。日本の薬価制度には、良い面も悪い面もありますが、安定していることは確かだと思います」

冨岡:「人口10万人あたりの医師数が、日本は250人くらいだったと思います。OECDの平均が290人で、このままいくと10年後に290人に達すると予測されています。地域偏在と診療科の偏在を補正すれば、トータルの医師数は十分になり、そのまま進めば医師が余る時代を迎えることになります。今ブレーキを踏んでも、6~7年は医師数が増え続けるので、ちょうどいい時期になっているのではないかと思います。医師過剰を防ぐため、いつから検討を始め、どのような数字が出たらブレーキを踏むのでしょうか。省内で検討しているようなことがあれば、教えていただいたいのですが」

鈴木:「医師数の問題については、厚生労働省だけでなく、文部科学省と一緒にやる必要があります。これからは高齢者が増え、急性期の重症の患者が減っていくので、医師数は昔ほど必要ないかもしれません。しかし、残業規制をどこに引くかで、必要な医師数は変わってきます。厳しく引けば、医師数を増やさないと足りなくなります。そういうことを含めて、文部科学省と検討していくことになります。ブレーキを踏んだら元に戻れないので、踏む前によく考える必要があると思っています」

本田宏(NPO法人医療制度研究会 副理事長):「ナースプラクティショナーは、日本では看護協会や医師会があまり賛成していないようです。そこで、私は日本ではフィジシャンアシスタントを導入すべきだと思っているのですが、いかがでしょうか」

鈴木:「フィジシャンアシスタントは、いくつか使い道があると思います。その1つが手術場です。外科の先生でこれに反対する人はあまりいません。手術を助ける人がいると、看護師もある程度楽になります。難しいのが、生活習慣病などの一般的な治療の場面です。ここで医師を助けるとなると、医師会とのせめぎ合いになるでしょう。しかし、最終的に責任を取るのは医師だとしても、毎回医師が診るのがよいかというと、糖尿病の生活指導などを考えれば、必ずしもそうではありません。医師の管理のもと、管理栄養士や保健師を含め、どのようなチームで医療を行うかということを考える必要があると思います」

長堀薫(国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院 病院長):「神奈川県の病院協会でも、罰則付きの残業規制はホットな話題になっています。他の産業と同じように、これをまともに行ったら、夜間の救急は崩壊すると私たちは考えています。アンケート調査によると、外科医の90%以上は、当直の翌日も普通に働いています。次の日に手術ができないということになれば、病院機能が麻痺する可能性が高いでしょう。医師の生活を守るために労働時間の規制は必要だと思いますが、それを厳格にやると、病院の機能が麻痺するのではないかと思います。その点、どうお考えですか」

鈴木:「過労死は避けたいし、労働の無理強いも避けなければなりません。しかし、地域医療に大混乱が起きることも避けなければなりません。私は単一の解決策はないと思っています。タスクシフトをして、医師でなくてもできる仕事は医師以外にやってもらう必要があります。もう1つは、たとえば医局で学会に向けた準備をしているような場合、それが院長に命じられた労働かというと、そうではないと考えることができます。つまり、本当の労働と、それ以外を分けるようにするのです。さらに私は、個人的には、オフトアウトという制度が必要だと思っています。たとえば、仕事が規定の時間内に収まりそうもない場合、定期的に産業医のチェックを受け、何か異常があったら休む、ということを労使できちんと申し合わせておき、労働基準監督署にも届けておくのです。こういう部分を残しておかず、パシっと切ってしまうのは難しいと思います」

荏原太(医療法人すこやか 高田中央病院 院長):「日本の医療のよいところを残そうという考えがあるとのことでしたが、具体的にどのような点でしょうか」

鈴木:「日本の医療のよい点の1つは、コストパフォーマンスが高い点です。医療関係者の努力によっているところはありますが、そんなに費用をかけずに、ある程度以上のクオリティを保った医療を受けることができます。もう1つは、アクセスがよい点です。過剰になっている部分もありますが、そういう部分は調整しながら残していきたいと思っています。チーム医療も残し、かつパフォーマンスを上げていく。このような「いいとこ取り」をしていくことが、これからの課題だと思っています」


【情報交換の懇親会】

 

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