日本の医療と医薬品等の未来を考える会

第23回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

第23回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

『化学テロ対策、生物テロ対策について』
講師・浅沼一成氏

■政府における役割と対応
 戦争は国と国が明確な目的を持って戦います。殺人事件も、犯人が何か理由があって殺人を犯します。しかしテロは、必ずしも何か目的があるとは限りません。単に騒ぎを起こしたくてテロを行うこともあります。だから対策を取るのが難しいのです。そこで、国を挙げて対策をとる必要があります。各省庁が一丸となって、テロ対策を進めて行かなければなりません。

 医療の世界には一次予防、二次予防という概念がありますが、テロ対策においては、未然防止、早期検出、事態対処、国民保護という段階を踏んで対策を立てます。まず大切なのは未然防止で、外交努力、国際協力、検疫、入国管理などに力を注ぎます。何か起きたときには、早期検出することが大事です。健康危険情報などを収集し、速やかに事態を認定していきます。いざテロが起きたときには、事態対処が求められます。テロリストの制圧、被害発生源の制圧、国民退避などに取り組みます。それと同時に、救援や救助など国民保護が必要になります。こういったことに、国を挙げて取り組んでいくことになります。

 厚生労働省がどのように健康危険情報を入手しているかというと、大臣官房厚生科学課の健康危機管理・災害対策室が窓口となり、そこに日夜情報が入ってくる仕組みになっています。感染症の情報もあれば、研究者からの情報もあります。こうして入ってきた情報を、専門家を加えた健康危機管理調整会議で審議し、情報にランク付けを行います。そして、それに従って対応していくことになります。

■医療および医薬品に関する備えと対応
 NBC(核・生物・化学)災害やテロに対しては、医師やコメディカルに対応してもらうため、毎年研修を行っています。また、そこで学んだことを活かすため、化学防護服・表面汚染測定器・除染設備の整備も行っています。救命救急センターにこういったものを購入していただくための予算も、しっかりと準備しています。

 化学テロに対しては、「化学テロリズム対策についての提言」をいただいており、厚生労働省では解毒剤などの備蓄をするために、予算を組んで進めています。民間医療機関では備蓄するのが難しい薬品を中心に、種類を決めて備蓄していきます。どのような薬品をどこに備蓄するのかについては明らかにできませんが、有機リン酸中毒に使用する薬剤などは、しっかり備蓄しています。備蓄する場所が1か所だけだと、そこが攻撃されたときに困るので、全国に分散して備蓄を進めています。

■生物テロに対する備えと対応
 生物テロ対策では、情報収集が非常に大事です。WHO(世界保健機関)の情報はもちろん、CDC(米国疾病予防管理センター)やPHE(英国公衆衛生庁)の情報も収集しています。また、IDES(感染症危機管理専門家養成プログラム)で人材養成を行っています。

 具体的な備えとしては、通常の感染症医療では対応しきれない感染症に対して、ワクチンなどの備蓄を行っています。その1つが天然痘です。ただ、若い医師は天然痘のことをよく知りませんし、ワクチン接種の経験もありません。天然痘ワクチンはかなり備蓄していますが、接種の方法などについて、しっかり研修を行っていく必要があります。ボツリヌス菌も生物テロでよく使われます。それに対応するため、ボツリヌス神経毒素に対する抗毒素の備蓄を進めています。

 東京オリンピック・パラリンピックに向けて、厚生労働省では健康危機管理に関する取り組みを進めています。医療関係者には、患者の治療に当たるのに加え、早期検知の一翼を担っていただきたいと考えています。正しい情報を発信していくリスクコミュニケーションも大事と考え、厚生労働省ではツイッターなどで情報発信も行えるようにしています。

『わが国の新興・再興感染症対策について』
講師・三宅邦明氏

■感染症サーベイランス
 バイオテロにしろ、訪日外国人により感染症が持ち込まれることにしろ、対策の始まりはサーベイランス(監視)です。日本は島国で、国境はすべて海で仕切られているので、検疫所でなるべく感染に侵入を防ぐことが重要です。サーモグラフィで体温を監視し、発熱している人を排除できるようにしています。ただ、感染症には潜伏期間があるので、感染していても発症していない場合には、検疫所を潜り抜けてしまうこともあります。そこで、必要がある場合には、停留という方法が取られます。停留は、感染の疑いはあるが発症していない人を国内に入れないための措置です。

国内に入った感染症に関しては、医療機関からの届け出が端緒となる可能性が高く、その情報は保健所に入ることになっています。多くの感染症について、医師の届け出が義務化されています。その情報を都道府県の感染症情報センターで集約し、都道府県庁を経て、国立感染症研究所において一元的に集約して分析しています。

■感染症に対する主な措置
感染症法の対象となる感染症は、一類から五類に分けられています。一類はエボラ出血熱など。二類はポリオ、ジフテリア、SARS、MERS、結核など。三類はコレラやO-157感染症など、経口感染するものです。四類は動物から感染するもの。五類はインフルエンザなどです。一類から五類に分けたのは、サーベイランスの仕方や可能な措置と密接にからんでいるからです。

現在は感染症法ですが、昔は伝染病予防法という法律がありました。道路の封鎖ができるなど、非常に強い権限を持つ法律でした。ところが、エイズやハンセン病などの差別の話もあり、新しい法律が10年前にできたわけです。公衆衛生上の強い措置と人権とのバランスをどうとるか、ということに力点が置かれた法律です。建物の立ち入り制限や封鎖などもできることになっていますが、その対象となるのは一類感染症のみです。二類の結核、SARS、MERSなどではできません。三類のO-157感染症やコレラなどでは、強制的な入院もさせることができません。ただ、就労制限、たとえばレストランなどで働くことなどは制限できます。このように、感染症の種類に従って対策を講じることになっています。

感染症患者の入院先としては、特定感染症指定医療機関、第一類感染症指定医療機関、第二類感染症指定医療機関の3種類があります。特定感染症指定医療機関に指定されているのは、国際空港に近い4病院で、全部で10床あります。この医療機関は、一類・二類感染症に加え、未知の感染症にも対応します。第一類感染症指定医療機関は、一類・二類感染症に対応します。各都道府県に1か所指定することを目指していて、この1~2年ですべての都道府県で指定されることになります。

■結核について
 結核の罹患率(人口10万人当たりの患者数)が10以下の国は低蔓延国とされます。日本の現在の罹患率は13.9で、順調に下がってきていますが、まだ中蔓延国です。2020年までには10を切りたいと頑張っています。

 結核は過去の病気のように思われていますが、現在でも最も重要な感染症の一つです。平成28年でも1889人が結核で死亡しています。どういう方が死亡しているかというと、60歳以上が72%、80歳以上が40%を占めています。結核は罹患してもすべてがすぐに発症するわけではなく、数十年たってから発症することも多いのです。つまり、まだ結核が多かった時代に罹患した人が、高齢になって発症しているケースが多いのです。この方たちに積極的に健康診断を受けてもらい、早めに発見して対処することが大切です。自分のためだけでなく、周りの人に感染させないために健康診断を受けてほしいというメッセージを届ける必要があります。また、世界にはまだ結核が蔓延している国が多く、外国からの流入も増えています。特に20代の結核患者は、約6割が外国生まれの人です。そこで、高齢者と外国生まれの若者を2つのターゲットとして、取り組んで行くことになります。

 風疹については、妊娠中の女性が感染すると、子供に先天性風疹症候群が出現することがあります。そのため、風疹対策は重要です。どうにか排除に持ち込むことができ、持ち込みがない状況になっています。

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