日本の医療と医薬品等の未来を考える会

第26回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

第26回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

第26回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」を開催いたしました。
2018年7月25日(水)、16:30~18:00、衆議院第二議員会館の多目的会議室にて、「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」の第26回勉強会を開催いたしました。詳細は、月刊誌『集中』2018年9月号にて、事後報告記事を掲載いたします。

まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より、挨拶させていただきました。

「今回のテーマは『医師の働き方改革』です。平成28年度に労働基準監督署の監督業務が入ったのは、全国で約16万事業所。その中には病院などの医療機関も多数含まれていました。医師の働き方改革が注目されている今、厚生労働省の労働基準局監督課長の増田嗣郎氏にお越しいただきました。ざっくばらんにお話いただきたいとお願いしています

続いて、当会国会議員団会長の原田義昭・衆議院議員からご挨拶いただきました。

「このたび閉会した国会では、働き方改革が最重要視されていました。その中でも医師の働き方改革は難しい問題をはらんでいます。医師の仕事の特殊性に合わせ、今回通った法律をどのように調性していくかが問題だと思います

今回の講演は、厚生労働省労働基準局監督課長の増田嗣郎氏による『医師の働き方改革について』と題するものでした。以下はその要約です。

『医師の働き方改革について』
講師・増田嗣郎氏
■医療従事者の勤務等に関するデータについて

 4年毎の就業構造基本調査では、労働時間が週60時間を超えている人の割合を職種別に調べています。それによると、平成24年度に41.8%で全職種中最も高い割合だった「医師」は、平成29年度には37.5%でした。減少傾向は見られるものの、やはり全職種の中で最も高い割合でした。

医師の働き方に関する調査では、次のようなことが明らかになっています。時間外労働の主な理由は、「緊急対応」「手術や外来対応等の延長」「記録・報告書作成や書類の整理」「会議・勉強会・研修会等への参加」など。月の最長連続勤務時間は、平成28年度は13.9時間で、平成27年度の15.4時間から減少しています。宿直1回当たりの拘束時間は15.1時間で、かなり長いことがわかります。宿直1回当たりの実労働時間は、平均は5.5時間ですが非常に幅があり、2時間以下の人が3割ほどいますが、12時間超の人も約1割います。宿直明け勤務は「通常勤務で業務内容の軽減はない」が72%を占めています。

厚生労働省では、過労死等の労災補償状況を発表しています。全職種で見ると、「脳・心臓疾患」では、平成29年度の請求件数は840件、支給決定件数(労災として認められた件数)は253件、その内死亡が92件でした(請求から認定までに6~8ヵ月ほどかかるので、決定件数の中には前年度に請求されたものも含まれます)。「精神障害」では、請求件数が1732件、支給決定件数が506件、その内98件が自殺(未遂を含む)でした。つまり、「脳・心臓疾患」と「精神障害」で約200人の過労死が認定されているのです。医師についてみると、「脳・心臓疾患」では、平成29年度には支給決定はありませんでした。「精神障害」では8件が認定され、その内2件が自殺または自殺未遂となっています。

■労働時間制度について

 労働時間については、労働基準法第32条に、「1週間に40時間を超えて労働させてはならない」「1日に8時間を超えて労働させてはならない」と規定されています。ただし、労使協定を締結して労働基準監督署に届け出た場合は協定の範囲内で労働させることができる、と第36条に定められています。これがいわゆる「36協定」です。

36協定による延長時間は、原則として1ヵ月45時間、1年360時間という限度時間が決められています。ただし、特別条項を結べば、年間6ヵ月までは例外的に限度時間を超えることができるという規定があります。この部分について、過労死などの問題を踏まえて議論が行われ、上限規制を定めた法律の成立につながったと考えています。

何を労働時間とするかについては、古くからいろいろな見解があり、裁判でも争われています。基本的な考え方が示されているのは「三菱重工長崎造船所事件」の判決で、「労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」としています。

宿直については、一般的に外来診療が行っていない時間帯に入院患者の病状の急変に対処するために待機している状態で、このような待機時間も一般的には労働時間とみなされます。しかし、これには特例があり、断続的な労働と判断される場合については、労働基準監督署長の許可を得て、労働時間規制から外すことができます。ただし、「医師、看護師等の宿直許可基準」を満たす必要があります。

自己研鑽の時間については、使用者の指示や就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる強制がなく、あくまで研修医が自主的に取り組むものであるなど、使用者の指揮命令下に置かれていると評価されない時間であれば、労働時間には該当しないとされています。

労働基準監督署の監督業務は、定期監督と申告監督を含め、全国412万事業場のうち年間約16万事業場に対して行われています。定期監督は約13万6000件で、その内約7割の事業場で違反が認められています。労働者の申告によって行われる申告監督は、約2万5000件でした。病院を含む医療保健業に対する監督は、平成28年度に1613件行われ、その内の585件(36.3%)で労働時間に関する違反が認められています。他の業種に比べると、労働時間に関わる違反が少し多い状況にあります。

■産業保健制度について

 50人以上の事業場には「産業医」の専任が義務づけられていて、人数の多い事業場では専属であることが義務づけられています。また、産業医とは別に、「衛生管理者」や「安全衛生委員会」という制度もあります。産業医は、健康診断の実施を含め、健康に関することについて、その役割は非常に大きくなっています。平成27年度に始まったストレスチェックについても協力をいただいています。衛生委員会は、健康障害の防止、健康の保持増進、労災の防止などの観点から、その対策について議論していただく場です。

 労働時間が一定程度を超えた場合には、医師による面接指導を行わなければならない、と労働安全衛生法第66条の8で定められています。過労死を防止する必要があるということで改正された法律です。

 産業医や産業保健機能の強化が行われています。産業医が勧告を行っても、事業者が必要な改善などを実施しないという状況があるため、事業者は衛生委員会に産業医の勧告の内容を報告しなければならず、それを事業所全体で考えるという仕組みを作っています。また、事業者は労働者が安心して健康相談を受けられるように、必要な体制整備を講じなければなりません。せっかくの産業保健体制が、きちんと利用されるようにするための措置です。

■働き方改革法と医師の働き方改革に関する検討会について

 注目されている労働時間の上限規制ですが、36協定の限度時間は、原則が月45時間、年360時間です。特例として、年720時間、1ヵ月100時間未満と定められています。医師の働き方については、医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要ということで、具体的には改正法施行5年後を目途に規制を適用することとし、2年後を目途に規制の具体的なあり方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得ることになっています。これを踏まえて「医師の働き方改革に関する検討会」が検討を行っています。医療関係者や労働組合の方にも加わっていただき、多様なメンバーで、いろいろな現場の実態を踏まえながら議論を進めています。

 その中から、医師の勤務実態の改善のため、個々の医療機関がすぐに取り組むべき事項として「緊急的な取り組み」がまとめられています。それを受けてどうしたかについて、調査が行われています。院内での検討や具体的な取り組みを「実施した」「今後実施を予定」している病院が60.5%でした。具体的な内容について見ていくと、医師の労働時間短縮に向けた取り組みとして、当直明け勤務負担の緩和に関しては、「実施を開始」と「実施を予定または検討中」で、ほぼ5割に達しています。勤務間インターバルについても、「実施を予定または検討中」が4割近くあります。全国医学部長病院長会議の調査では、緊急対策のとりまとめを受け、86.0%の病院が、院内での検討や具体的な取り組みを「実施した」「今後実施を予定」していると回答しています。

 医師の働き方改革に関する検討会では、今後具体的な論点についてさらに検討を進めていきます。また、いろいろな形で皆様の意見を拝聴させていただきながら、この検討会の結論を出すべく、厚生労働省の医政局と労働基準局が連携して進めていきたいと考えています。

質疑応答では次のような発言がありました。

尾尻:「労働基準局が医療機関に監督に入ることがありますが、どのようなことがきっかけになるのでしょうか」

増田:「具体的にお答えすることはできませんが、申告という制度がありますので、それがきっかけとなることはあります。労働基準監督署には、労働者、事業者、ご家族などから、いろいろな形で情報が寄せられます。そういった情報を含め、必要があると判断された事業場には監督にうかがいます。長時間労働を削減していかなければならないという政府の方針がありますので、長時間労働が疑われる事業場とか、過労死等の労災申請があった事業場については、監督を徹底することになっています」

 

篠原裕樹(医療法人篠原湘南クリニックグループ理事長):「勤務環境改善支援センターは、ほとんど知られていないのが現実で、県の職員ですら、その存在を知らなかったりします。これは神奈川県だけではないと思いますが、問題ではありませんか。もう1つ、質の高い医療を提供するという医師法の問題と、医師の健康を守るという労働基準法の問題は、相反する問題だと思います。この相反する問題に取り組みながら、医師不足を解消することはできるでしょうか」

増田:「勤務環境改善支援センターについてはご指摘の通りで、検討会の中でも厳しいご意見をいただいております。緊急的なとりまとめを進めて行くに当たって都道府県を集めた会議を開きましたので、それが浸透を図る1つの方法かと思います。もっと知っていただくために、国として取り組んで行く必要があると思っています。医師の需給に関しては、検討会の中でも話が出ています。計画的に需給の差を埋めて行く方策は取られていて、医学部の定員増についてはすでに実績があります。今後、さらに医師養成の拡大に取り組んだとしても、実際に働ける医師が増えるのはかなり後になります。全体的にどのように考えるのかは難しいところですが、今回の医師の働き方改革検討会には、全体が見える先生方に入っていただいています」

神野正博(社会医療法人財団菫仙会恵寿総合病院理事長):「医師の需給、人材、働き方、診療報酬というのは一体のものであり、バラバラに話していると不幸なことになると思います。これらを一緒に話すような仕組みが必要だということを、強く申し上げておきたいと思います。もう1つ、医師を十把一絡げにして、皆同じであると見るのも問題です。研修中の医師に対しては、アメリカのACGME(米国大学院医学教育認定評議会)のような長時間勤務が容認される仕組みが必要でしょう。研修を終えた医師には、一生懸命やりたい人もいるし、それなりにやりたい人もいます。それに同じ基準に当てはめるのは、やはり難しいのではないかと思います」

増田:「医師の皆さんも多様化していて、診療科によっても違いますし、地域偏在の問題もあります。省令で新たに定めることについては、1つに定めなければならないと決まっているわけではありません。もっとメリハリをつけた定め方もできます。ただ、メリハリをつけた定め方をすると、それはそれで問題はないのか、ということを検討する必要はあると思います。いろいろな病院でもっと治療経験を積みたいということができなくなるのか、それが医療の質の向上を妨げることになるのではないか、といった議論が行われています。イギリスにはオフトアウトという制度があります。労働時間規制から外れたいという申告があれば、規制にとらわれずに自主的に働けるという制度です。日本には過労死という問題がありますし、『自主的』と『やむを得ず』の区別がつきにくいこともあり、そこが問題として残ります。私も働きたい人がきちんと働ける世の中を作ることが大事だと思っています」

原田:「先生のご指摘はきわめて本質的な問題だと思います。今回の働き方改革では、裁量労働制が大きな焦点になりましたが、労働者本人の自由度をどこまで認めるか、雇用者がどこまで自由なものとして認めるかが問題になります。結果的に、あまり自由度を認めると、無理な残業が増えて過労死などにつながるということで、一般的にやるのではなく、高度プロフェッショナル制度で限定的に認めようということになったわけです」

土屋了介(公益財団法人ときわ会顧問):「2点お願いがあります。タスクシフティングのためには、看護師、薬剤師、技師、事務職員に仕事をしてもらわなければなりません。彼らも暇ではないので、人数を増やす必要があり、当然人件費が増えます。患者数が増えれば理想的ですが、それだけではカバーできないとなると、診療報酬でカバーするか、自己負担を増やすか、といったことがなければ問題は解決しません。厚生労働省の中で、保険局と医政局で組織横断的なブレーンストーミングを行ってもらい、財源をどうするか、いい案を出していただく必要があると思います。もう1つは、大学病院が働き方改革を進める際に、かつての臨床研修のときのように、市中の病院から医師を引き揚げるようなことが起きると困ります。この点については、ぜひ気を付けて進めていただきたいと思います」

増田:「保険局、医政局とも連携して、検討させていただきます」

井手口直子(帝京平成大学薬学部教授):「高プロについてうかがいます。大学教員は裁量労働制で、何時間働いても残業がついたりすることはありませんが、大学病院の医師はどうなのでしょうか。同じ職場に自由裁量制の医師と、そうでない医師がいたとき、仕事に偏りが生じてしまいます。そのあたり、慎重に議論していただいたほうがいいかな、と思います」

増田:「高度プロフェッショナル制度というのは、今回の法改正で新しくできる制度でして、これについては、大学病院を含めて、そうではないと認識されています。裁量労働制は、たとえば企業マネジメントなどをやる企画業務型と、専門職である弁護士などの専門業務型があります。研究者については、専門業務型として認められています。授業時間が全労働時間の半分以下の場合で、授業をメインに行っている先生は、時間が決まっているので自由裁量とは言えません。研究中心の先生は、裁量労働制が認められています。大学の先生方については、このような基準に沿って、裁量労働制が認められている人もいます」

本田宏(NPO法人医療制度研究会副理事長):「医師の働き方改革検討会を何度か傍聴しました。メンバーを見ると、若手の医師もいることはいますが、働く医師を代表しているかというと微妙です。傍聴した限りでは、経営側の人の意見が多く通っているように感じられました。労働組合の方も入っていますが、医師ではありません。全国医師ユニオンという組織がありますから、追加できるのであれば、若手の医師を代表するような人たちを加えていただいたほうがよいと思います」

増田:「若い先生方の中にいろいろな考え方があることは、いろいろな機会に伺っています。先輩医師の先生方が働いていた時代とは、異なる考えを持った医師もいると思います。ただ、それは医療界だけでなく、日本全体がそういう状況に置かれているわけです。いろいろ変わっているということを、一方ではしっかり頭に入れつつ、医療の質や安全を含め、全体を考えて行く必要があると思っています」

 


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