日本の医療と医薬品等の未来を考える会

第29回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

第29回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

第29回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」を開催いたしました。
2018年11月28日(水)、16:50~18:30、衆議院第一議員会館の国際会議室にて、「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」の第29回勉強会を開催いたしました。詳細は、月刊誌『集中』2019年1月号にて、事後報告記事を掲載いたします。

まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より、挨拶させていただきました。
「この勉強会は、医療を通じて日中友好をはかることも目的の1つとしています。本日は中国からたくさんの医療関係の方々にご参加いただきました。ありがとうございます。今回は日本の最先端技術を駆使したスマート治療室について講演していただくことになっています」

当会国会議員団会長の原田義昭・衆議院議員(環境大臣)と、国会議員団の冨岡勉・衆議院議員からご挨拶いただきました。

原田義昭・衆議院議員:「この勉強会は、医療に関わる民間の皆さんがフリーにディスカッションできる場を作ろうということでスタートしました。これだけ充実した内容で続けられていることに敬意を表します。私自身もしっかり勉強させていただきたいと思っています。皆さんも立場を越えて、日本の医療のために発言し、行動していただければと期待しております」

冨岡勉・衆議院議員:「現在、国ではファイブセンスセンターを作ろうということになっています。医療分野でも、センシングを基礎とした、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚をつなぐような新しい医療機器を開発していただきたいと期待しています」

今回の講演は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)産学連携部長の高見牧人氏による『AMEDが進める医療機器開発への取り組みについて』と、東京女子医科大学先端生命医科学研究所先端工学外科学分野教授の村垣善浩氏による『スマート治療室SCOT—IoTを活用した次世代手術室』と題するものでした。以下はその要約です。

『AMEDが進める医療機器開発への取り組みについて』

講師・高見牧人氏

 AMED(日本医療研究開発機構)は、医療機器の開発、医療技術の開発、薬剤の開発、医療の基礎研究などを、国として支援するために作られました。文部科学省、厚生労働省、経済産業省が力を合わせ、日本の医療をもっとよくしようということで設置された組織です。AMEDが誕生したことにより、役所がばらばらに支援するのではなく、基礎から臨床試験、実用化まで、一貫して支援できるようになっています。

 医療機器開発について、AMEDがどのような支援を行っているかというと、最も大きいのは補助金などによる資金援助です。それ以外に、大学と企業が一緒に医療機器開発に取り組めるようにするため、インフラ作りや人材育成なども行っています。

 AMEDが支援している医療機器開発の中で最も大きいプロジェクトが、「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発」です。ロボット技術やITなどを応用し、医療現場のニーズに応えた日本発の国際競争力の高い医療機器やシステムを開発実用化することを目指しています。少し将来を見て、最先端の医療機器を開発していこうということで、スマート治療室以外にも、手術ロボットシステム、ニューロリハビリシステム、高精度放射線治療機器など、さまざまな先端医療機器の開発を支援しています。

 具体的にどのような開発を支援しているか、2つの開発例を紹介しておきます。「認知症早期診断MRI」は、認知症を早期に診断するための撮影法の開発です。MRIは多くの病院にあるので、実現すれば、認知症を比較的早期に発見できるようになる可能性があります。「次世代乳がん画像診断機器」は、マンモグラフィーのようにX線を使うのではなく、マイクロ波を使って画像化します。マンモグラフィーで映りにくい高濃度乳房でも、この方法なら画像化することができます。これらの開発もAMEDは支援しています。

『スマート治療室SCOT――IoTを活用した次世代手術室』

講師・村垣善浩

■医工連携・産学連携

 スマート治療室SCOT(Smart Cyber Operating Theater)の開発プロジェクトには、5校の大学と11社の企業が参加し、関わっている研究者は100人を超えています。ライバル関係の企業もあるため、知財合意書を作成するのに1年ほどかかりました。その後は協力して開発に取り組んでいます。

 薬の開発については専門の薬学部がありますが、医療機器開発を行う医療機器学部はありません。そこで必要となるのが医工連携です。東京女子医科大学は早稲田大学と共同大学院を作っていて、さまざまなサイエンスを社会に実装するためのレギュラトリーサイエンスを行っています。我々の教室は先端工学外科といい、2001年にできた新しい教室です。脳外科医が6人、工学研究者が5人いて、ラボの中で医工連携が行われています。また、企業から大学院生がきているため、ラボの中で産学連携も行われています。ここでは、さまざまな職種の人たちが、外科学をテクノロジーで進歩させようとしているのです。外科医の新しい目と手と脳を作って、それによる精密誘導手術を実現させたい。これら我々のmoonshot(遠い目標)です。

■スマート治療室SCOT

 スマート治療室SCOTは、治療の効果向上とリスク低減のために情報統合が行える単体の医療機器です。内視鏡は、1つの医療機器が体の中に入っていき、診断をして、ポリープの切除などの治療を行います。SCOTにはいろいろな機器がありますが、その部屋自体が1つの医療機器です。患者さんがそこに入っていき、診断と治療を受けます。

 SCOTの開発は医療機器をつなぐことから始まりました。手術室には多くの医療機器がありますが、すべてが単体で存在し、情報交換をしていません。そこで、まず必要な機器をパッケージ化することにしました。手術の種類に応じて、必要な機器をパッケージしてみたのです。

SCOTの前身となるインテリジェント手術室は、術中MRIを撮れるように、MRI対応機器でパッケージしました。術中MRIは治療効果も安全性も向上させることにつながりました。この段階では、解剖学的情報(術中MRI、ナビ)も、機能的情報(覚醒下手術、運動誘発電位)も、組織学的情報(術中組織診断、迅速フローサイトメトリー)も、すべてデジタル化できています。ただ、それらの情報がネットワークでつながっていなかったのです。

 次の段階として、デジタルデータをネットワーク化する必要がありました。そこで使われたのが、工場で多種類のロボットを使うために開発された「ORiN」という支援システムでした。これを活用して、医療機器をネットワーク化する「OPeLiNK」を開発しました。この支援システムは、医療機器の内部を変える必要はないので、医療機器さえあればつなぐことができます。すでに国内外の40種類の医療機器が接続できるようになっています。OPeLiNKで接続したSCOTなら、すべての情報がつながるので、将来的には手術データベースや電子カルテとつなぐことで、ロボットを動かすことまでできると考えられます。

 SCOTは、リアルな空間とサイバーな空間をつないで最適な治療を行います。私たちはこれを「Medicine 4.0(第4次医療革命)」と呼んでいます。将来はAI(人工知能)と組み合わせることで、「Medicine 5.0」も可能ではないかと考えています。

 医療革命は海外でも進んでいます。日本のSCOTの他に、米国では「MD PnP」、ドイツでは「OR.NET」の開発が進められています。先行しているSCOTですが、重要なのは国際標準化だと考えています。

■スマート治療室のmoonshot

 SCOTのようにOPeLiNKで医療機器をつなぐと、すべての情報がネットワーク化され、時間が同期され、空間の位置確認ができるようになります。現在の普通の手術はまだアナログですが、アナログデータをデジタルデータや構造データにしていくと、それを使ってAIの機械学習や深層学習ができるようになります。その先にAIの活用があると考えています。これがSCOTの目指しているAI化です。

 現在、医療機器をパッケージ化した「ベーシックSCOT」が広島大学に入っており、すでに30例を超える手術を行っています。手術室の17の医療機器がすべてネットワークでつながった「スタンダードSCOT」は、信州大学に入りました。2018年3月に完成し、7月に手術が行われています。そして、ロボット化した「ハイパーSCOT」を東京女子医科大学に建設中です。そのプロトタイプは2年前に入り、実績を積んでいます。

 SCOTは、現在の段階では術中MRIを撮ることができるので、主に脳腫瘍の治療に使われています。今後は血管撮影の装置や内視鏡撮影の装置などと連携させることも可能です。できることを増やしていき、最終的にはすべての侵襲的な治療を、SCOTで行えるようにしたいと考えています。

 ネットワーク化したスタンダードSCOTは、2020年に販売を開始する予定です。日立製作所を中心として、300億円を売り上げるという目標を立てています。ハイパーSCOTは海外でも強い関心を持って見られています。スマート治療室の新しいmoonshotとして、ロボット化した国産新治療を実装し、輸出の切り札となる治療室産業を創出し、世界の健康福祉に貢献することを考えています。

質疑応答では次のような発言がありました。

尾尻:「スマート治療室は医工連携で生まれたわけですが、いろいろな人が加わることでトラブルはありませんでしたか」

村垣:「企業が加わることで、生み出された知財を誰がどうやって受け取るのか、という問題がありました。それでもうまくいった理由が3つあります。1つは、先端工学外科を作られた先生方と企業との関係がベースにあったこと。2つ目は、1年間かけて知財に関する細かな取り決めを行ったこと。もう1つは飲み会です」

高久史麿(公益社団法人地域医療振興協会会長):「主に脳腫瘍をやっておられるようですが、他の分野にも広げていく予定でしょうか」

村垣:「広島大学で骨腫瘍の手術も行っていただきました。術中MRIで取り残しを発見できたので、現在は骨腫瘍の全例に使っているそうです。肝がん、子宮がんなどにも広がりを見せています。術中MRIは全例で行ってもいいのではないかと思っています」

荏原太(医療法人すこやか高田中央病院院長):「SCOTは次の段階としてどのように進化していくのでしょうか」

村垣:「リアル空間とサイバー空間を結ぶことの次に目指すのは、やはりAIを加えた「Medicine 5.0」だと思っています。そこに行く前に、ハード的には機械をワイヤレス化したり、モバイル化したりすることがあります。データの統一化も必要です」

服部智任(社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス海老名総合病院院長):「医師が司令塔となって指示を出すわけですが、データが多いので、術者がすべてを見て判断するのは難しいということでしょうか。また、どのように効率化が実現しているのでしょうか」

村垣:「スタンダードSCOTの戦略デスクは手術の監督ができます。いくつかの手術室を統合して見てもいいでしょう。将来的には、そこにいなくてもアドバイスできる時代になるかもしれません。たとえば、新幹線の中から術者にアドバイスできるようになる可能性もあると考えています。効率化については、アメリカのデータですが、スマート治療室で手術を行うと、1つの手術につき手術時間を平均5分短縮でき、合併症率を10%低下させることができます。1手術室当たり4000万円の削減になるというデータもあります。

川上正舒(練馬光が丘病院院長):「現在、病院を建て直しています。すでに完成している手術室をスマート治療室に転用することは可能ですか」

村垣:「MRIが17トンほどあるので、梁を加えなくてはいけないなど、改築が必要になる場合がありますが、現在の建築業界の技術からすれば、入らないところはないと思います。ただ、資金に関しては、それ用に建築した新しい建物に入れたほうが明らかに安くなります」

土屋了介(公益財団法人ときわ会顧問):「MRIが中心になるので、SCOTにはMRI対応機器がパッケージされているのですか」

村垣:「初期は部屋が狭かったので、そういう機器をパッケージしました。現在、MRI対応のものが必要なのは、ベッド、麻酔器、モニターだけです。それ以外のものは、一般的な機器が使えるようになっています」


中国からの参加者:
「SCOTは全体で1つの医療機器としてPMDAの承認を得るのですか」

村垣:「2つの考え方があります。それぞれの機器は単体では承認が取れているので、全体で1つの医療機器とする必要はない、という考え方があります。一方で、日本の健康保険制度のもとで保険収載を目指すのであれば、1つの医療機器として承認を受けなければなりません。どちらの戦略をとるか、まだ検討中です。できることなら保険収載され、スマート加算などがつく形で普及させたいと考えています」

中国からの参加者:「ネットワークはデンソーが中心になってやっていますが、ずっとデンソーでやるのですか」

村垣:「基盤となっているのはORiNですが、これは川崎重工、ファナック、デンソー、パナソニックのロボットをつなぐことができます。実社会で練られていて、セキュリティもしっかりしているので、この上にOPeLiNKが成り立つのです。現在、医療機器の相互運用情報協議会を作ろうとしています。こうした仕組みを作り、どの企業でもOPeLiNKを使えばプロバイダーにつながるという状況を作るためです。その活動が始まろうとしています」

 

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