日本の医療と医薬品等の未来を考える会

第33回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

第33回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」リポート

2019年3月27日(水)、17:00~18:30、衆議院第一議員会館の国際会議室にて、「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」の第33回勉強会を開催致しました。詳細は、月刊誌『集中』2019年5月号にて、事後報告記事を掲載致します。

まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より、挨拶させて頂きました。
「医療の指導や監査というと、かつては『医療Gメン』などという言葉も使われましたし、医療機関に対して厳しい監査・指導が行われているという印象がありました。最近はソフトな指導になったとも聞きます。現在の状況を勉強したいと思っています」

当会国会議員団会長の原田義昭・衆議院議員(環境大臣)からご挨拶を頂きました。
「この勉強会が33回を迎えましたが、いささかでも医療行政に貢献出来ているとしたら、素晴らしいことだと思います。今後も、皆さんから医療に関するご意見を頂き、それを具体化していくために、私たちも大いに努力するつもりです」


当会国会議員団の冨岡勉・衆議院議員からもご挨拶頂きました。
「厚生労働委員会の委員長を務めておりますが、医療をテーマとしたこうした勉強会が開かれているのは貴重です。現場の医療界の方たち、役人の方たち、それから国会議員も参加して、日本の医療に一石を投じることが出来ればと期待しております」

今回の講演は、厚生労働省保険局医療課医療指導監査室長の山内和志氏による『平成29年度の指導、監査等の実施状況について』と、東京医科大学病院医療保険室室長/国際診療部部長・保険指導医(関東信越厚生局)の葦沢龍人氏による『保険診療のルール-安全で良質な医療の提供を目指して-』と題するものでした。以下はその要約です。

『平成29年度の指導、監査豆の実施状況について』
講師・山内和志氏
■指導と監査について

 指導は、保険医療機関や保険医に対して、保険診療・保険調剤の質的向上および適正化を図ることを目的として、療養担当規則等に定められている診療方針、診療報酬、調剤報酬の請求方法、保険医療の事務取扱等について周知徹底するために行います。保険医療機関を一定の場所に集めて行う「集団指導」と、個別に面接懇談方式で行う「個別指導」があります。個別指導後の措置には、概ね妥当、経過観察、再始動、要監査があります。

 監査は、保険医療機関等の診療内容または診療報酬の請求について、不正または著しい不当が疑われる場合に、的確に事実関係を把握するために行われます。監査終了後に必要な措置が取られますが、重い順に、取消処分、戒告、注意となっています。取消処分は、故意に不正または不当な診療、診療報酬の請求を行った場合、重大な過失により不正または不当な診療、診療報酬の申請をしばしば行った場合が対象となります。取消処分は公表され、原則として5年間、保険医療機関の再指定、保険医の再登録を受けることが出来ません。

 その他に適時調査があります。施設基準を届け出ている保険医療機関について、施設基準の充足状況を確認するために行う調査です。施設基準とは、一定の人員要件や設備要件を充足している場合に、届け出を行うことにより、診療報酬の算定において通常よりも高い点数が算定可能となるものです。

 不当請求と不正請求という言葉が使われます。不当請求とは、診療報酬の請求のうち、算定要件を満たしていないなど、その妥当性を欠くものです。不正請求は、診療報酬の請求のうち、詐欺や不法行為に当たるものです。架空請求、付増請求、振替請求、二重請求などがあります。

■近年の指導・監査業務の動向

 近年は指導・監査業務を行うに当たって、次のようなことを重視しています。

➀業務の標準化……共通の業務マニュアルを定め、確認事項リストを整備します。それにより、日本全国どこでも同じ指導・監査を受けられるようにしています。

➁業務に関する情報の公開……業務の情報をホームページで公開しています。

➂効率化の推進……マニュアルを整備し、それを公開して、関係団体とのコミュニケーションをとることで、指導等の円滑な実施をはかっています。

平成25年度~29年度における指導・監査の実施状況を見ると、個別指導と適時調査は増加傾向にあります。特に平成28年度以降、適時調査が大幅に増加しています。適時調査は平成28年度から調査手法の標準化や項目の重点化を定めており、かなり効率化されています。それにより増加していると考えられます。監査については減少傾向が認められます。

取消処分は、平成29年度は、保険医療機関の取消が28件、保険医の取消が18人でした。取消の原因は、不正請求(架空請求、付増請求、振替請求、二重請求)がほとんどを占めていました。指定取消となる端緒は、保険者や医療機関従事者からの通報が多数を占めています。返還金の総額は72億円でした。

近年の指導は、診療報酬のルールを周知徹底していくことを目的としており、それによって間違った請求を防ぐという、予防教育的効果を目的としています。不正に厳粛に対処することはもちろんですが、保険医療機関が診療報酬について自己点検できるようにしていくことも重要です。それが将来の診療や請求の適正化につながるものと考えています。

『保険診療のルール-安全で良質な医療の提供を目指して-』
講師・葦沢龍人
■はじめに

 昨年3月まで厚生労働省の厚生局に出向し、指導医療官として勤務していました。その経験から、「保険診療はPatient First」であると考えています。出向して色々勉強させて頂く中で、医療の指導・監査は、大学で学生や研修医に教育を行うこととあまり変わらないことに気づきました。保険診療のルールは、安全で良質な医療の提供を医師に求めており、現在の医学教育と目標は同じなのです。また、良質な医療の提供が行われれば、それが評価される加点方式です。厚生局による医師への指導は、保険診療のルールの周知を目的とした生涯教育として実施されるべきだと考えています。

 医業は、医師法、医療法、医薬品医療機器等法など、様々な法によって成立しています。そして、医薬品医療機器等法には、「保険診療では厚生労働大臣の定める医薬品以外は用いてはならない」とあります。こういったことにより、保険診療は制限されていると言われることがあります。しかし、私の個人的な印象ですが、医師が行いたいと考える医療の8割以上は、保険診療でも行うことができます。

 保険診療は法律によって診療の範囲が制限されている、と誤解している人がいます。実際はそうではなく、法によって保険診療の報酬請求の範囲が制限されているのです。

 保険診療上制限される例を挙げます。たとえば、全身麻酔の導入に適応があるプロポフォールを、胃や大腸の内視鏡施行時に鎮静目的で投与すると適応外投与となります。消化器内視鏡学会は鎮静を推奨していますが、同時に保険適応薬はないとしています。このあたりが、極めて制限的な印象を与えるかもしれません。OTC医薬品でもあるロキソニンは、効能効果に頭痛・生理痛が入っていますが、保険診療では、これは適応外投与となります。ただ、頭痛・生理痛には他の薬剤が用意されています。効果があるのに何故駄目なのか、エビデンスがあるのに何故駄目なのか、と議論が起きることがあります。しかし、こうしたケースはごく一部で、ほとんど網羅されていますし、多くは代わりが用意されているのです。

■保険診療の仕組み

 保険診療は、保険医療機関と保険者の間の公法上の契約に基づいて成り立っています。医療機関側が療養を給付するのに対し、保険者は費用を負担するという関係にあります。この運用に当たって、厚生局が介入し、健康保険法、療養担当規則、診療報酬点数表によって、運用のルールを作っています。これが保険診療のスキームです。

 厚生局は、お金の流れの全体を眺められる立場にいます。指導・監査のときに一番中心となるのは、保険医療機関が患者さんに対して行う診療の内容と、診療報酬請求の内容に合理性があるかということです。指導医療官は、診療内容と診療報酬請求をレセプトだけではなく、診療録を確認してチェックすることになっています。

■療養担当規則の解釈

 療養担当規則は、保険診療のバイブルとも言えるものです。保険診療を行う上の基本的規則であると共に、診療報酬請求の法的根拠となっています。保険医療機関や保険医は、ただ診療を行えば報酬を貰えるわけではなく、法の根拠に基づいて、診療報酬を請求することが出来るのです。

 診療報酬請求を行うためには、診療録の記載が必要になることがあります。その場合、事実に基づいて必要事項を記載していなければ、不当・不正請求の疑いを招く恐れがあります。算定要件として診療録の記載が必要な項目については、診療録を確認させて頂くことになります。診療録は質のよい診療を行うツールになるし、保険診療のルール通りにやって頂くことは、収入にも直結することになります。

■医科点数表の解釈

 診療報酬点数表は2年毎の改定で、平成30年に改定がありました。

 保険診療のルールを守ることは、安全で良質な医療の提供につながると言ってきましたが、その例を挙げます。神経学的検査は500点ですが、次のような場合に算定することになっています。意識状態、言語、脳神経、運動系、感覚系等に関する総合的な検査および診断を、神経学的検査チャートを用いた場合、専ら神経系疾患の診療を担当する医師が行った場合です。

 麻酔管理料は、麻酔科標榜医により質の高い麻酔が提供されたときに算定できます。麻酔の前後に診察し、診療録を記載することが求められます。こういうことを行えば患者さんも安心出来ます。このような良質の医療には点数をつけます、というのが保険診療のルールなのです。

■保険診療の課題と展望

 国民医療費は年々増加し、現在は65歳以上の人が医療費の55%を使い、75歳以上が35%近くを使っています。年齢階級別の1人あたり医療費は、働き盛りの40~50歳代に比べ、75歳以上の医療費は5~10倍になります。40~50歳代の人たちに医療費をもう少し使うようにすることによって、75歳以上の医療費をもう少し減らせるかもしれません。

 最後に、本日のTake Home Message(持ち帰ってほしい重要なメッセージ)です。私たち医療者は、安全で良質な医療の提供を求められています。一方、医療資源には限りがあり、合理的な分配が必要となります。保険診療には様々なルールが定められており、上記実施のためのツールとなります。そのため、保険医療機関および保険医は、保険診療のルールを熟知する必要があります。厚労省厚生局による指導は、それらルールをよく理解してもらうための、教育的機会として実施されています。

質疑応答ではつぎのような発言がありました。

尾尻 「個別指導に医療機関側が弁護士の同席を求めていることについて、どうお考えですか」

山内 「個別指導における弁護士の帯同については、一定の条件のもとに認めています。ただ、指導の進行の妨げになるような言動があった場合には、指導の目的を達成することが出来なくなることもあるため、退席を命ずること等もあります」

土屋了介(公益財団法人ときわ会顧問) 「厚労省の通知には、よく『専ら』『専任』『専従』という言葉が使われます。神経学的検査の算定について、『専ら神経系疾患の診療を担当する医師』とありますが、これは神経学の専門家が診ないといけないということですか」

葦沢 「ここは実は診療科の指定がないのですが、専門医かどうかは関係なく、脳神経内科、脳神経外科、小児科の3つの診療科を標榜している医師ということで算定しています」

土屋 「若い医師の多くが、保険診療のルールについてあまり知らないようです。大学教育でしっかり教えることが重要だと思うので、文部科学省側が教育の中に、医療制度や法的なものまで組み込む必要があるのではないかと思います。そうすれば、指導・監査もずっと楽になるのではないかと思います」

葦沢 「東京医大では、3年生の医学入門にコンプライアンスの問題もカリキュラムに入れています。学生から『卒業前に聞けて良かった』という意見もありました。医師国家試験にこの分野の問題を数題入れてもらったら、ぜんぜん違ってくると思います」

山内 「若い医師ということであれば、新規登録者の集団指導を行っています。都道府県によっては、大学病院と組んで、研修医に集団指導を受けてもらうということを進めています」

松岡健(医療法人社団葵会医療統括局長) 「医師国家試験に入れていくというのは、極めて重要だと思います。専門医資格試験には、このような分野の問題がどのくらい入っているのでしょうか。厚労省はそのことに入り込めているのですか」

葦沢 「厚労省医政局は、専門医制度については、すべてを学会に投げて、学会の判断で行うことを承認する立場を取られたようです。専門医試験にどのくらい入ることになるのかは分かりませんが、盛り込んでもらえるといいなとは思います」

蝶名林直彦(医療法人社団クリタ会聖カタリナ地域包括ケア病院院長) 「検査や治療の前に患者に説明する医療説明について、重要だと考えています。ここに医療資源を投入してやっていけば、患者さんの満足度も上がるし、必要ない検査を避けることにもつながります。がんについては、指導説明にある程度の診療報酬がついていますが、心臓のカテーテル検査や消化器内視鏡検査など、多くの大事な検査についていない現状があります。そこに時間をかける価値がある、と私は考えています。それが医療費の削減にもつながると思うのですが」

葦沢 「保険医療のルールが安全で良質な医療を提供するためであるとすれば、その部分も算定すれば良いと思います。しかし一方で、保険者のほうは、これ以上もう払い切れません、という所に来ています。様々な目に見えない物にドクターフィーを付けていくという方向性は出ているものの、限られたパイの中で、それをどう使うかという事だと思います」

服部智任(社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス海老名総合病院院長) 「指導を受けることに対し、あたかもレッドカードを出されたような感覚で受け止める人もいるようです。私自身は、建設的な前向きの指導と感じていて、実際はレッドカードというより、サッカーで言えばホイッスルが吹かれたファウルくらいで、『今度はちゃんとやってね』という感じではないかと思っています。指導に対して、現場はどのように受け止めれば良いでしょうか」

山内 「ルールの周知徹底という事もあって、面談方式でやっています。この請求はここが駄目ですよ、ということを懇切丁寧に説明するというのが基本コンセプトです。そういう形で進める指導が標準となっています」

炭山嘉伸(学校法人東邦大学理事長) 「卒前教育の話が出ましたが、東邦大学でも行っていますし、ほとんどの大学は保険診療に関する内容をカリキュラムに組み込んでいます。また、保険医登録をするときに、これについての教育を行います。ただ、そういう教育を受けた後も、診療報酬は2年毎に変わりますから、どの段階で更に教育するのかが重要だと思います。それから、指導を受けて自主返還することになった場合、どうやって返還額を決めればよいのか基準がわかりません」

山内 「指導に対する変換のルールですが、算定要件を満たしていないことが指摘された場合、指導におきましては、指摘事項の類似の例を1年間さかのぼって返還して頂くことを、医療機関に通知する事になっています。それが基本ルールになろうかと思います」

葦沢 「指摘事項については、自主返還なので計算して下さいという事です。保険診療上のことについては、『やっている場合もある』『やっていない場合もある』ということを見て頂いて、過去1年さかのぼることになっています。施設基準につきましては、半分出来ていても、半分出来ていないと、全部駄目という事になります。これは過去5年までさかのぼります。その間に適時調査があった場合には、その時点までさかのぼります。保険診療上の返還と、施設基準の計算の取り扱いは少し違いがあります。かなり具体的に示しているのですが、自主返還を尊重しているのが厚生局の立場である、ということです」


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