日本の医療と医薬品等の未来を考える会

第2回「日中友好医療分科会」リポート

第2回「日中友好医療分科会」リポート

日本の医療と医薬品等の未来を考える会「日中友好医療分科会」を開催いたしました。
2018年11月28日(水)、13:00~15:00、衆議院第一議員会館の国際会議室にて、「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」の「日中友好医療分科会」を開催いたしました。詳細は、月刊誌『集中』2019年1月号にて、事後報告記事を掲載いたします。

まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より、挨拶させていただきました。
「これまでにも日本の医療を中国に紹介することを行ってきましたが、今回も中国の医師の方々や医療関係の多くの方々にお越しいただき、日本の高度な医療について紹介することにします。西田先生は、日本のがん医療の総本山ともいえる国立がん研究センター中央病院の院長をされています。近藤先生は、世界でもっとも迅速に審査する規制当局であるPMDAを作り上げてきました。今日はこのお2人にご講演いただきます」

当会国会議員団会長の原田義昭・衆議院議員(環境大臣)を含め、3名の国会議員からご挨拶をいただきました。

原田義昭・衆議院議員:「環境大臣を拝命しておりますが、環境省は人と環境を守ることを使命としています。地球温暖化や海洋を汚染するプラスチックごみなど、問題は山積しておりますが、コツコツと取り組んでいきたいと思っています。また、環境の問題は、人間の健康を通じて医療や介護の問題ともつながっていますので、私自身、今後も皆さまと一緒に勉強を続けていきたいと思っています」

三ツ林裕巳・衆議院議員:「この会でしっかりと勉強させていただき、皆さまからいただいた提言を、議員としてしっかりと国にあげていきたいということで参加しています。これからも、忌憚のないご意見をうかがいたいと思っています」

 

大隈和英・衆議院議員:「日中の医療を通じた友好は、難しい問題をはらんでいて、なかなかうまく進んでいません。この会はそこに取り組んでこられたわけで、敬意を表したいと思います。日本と中国がお互いの先端医療を通じて交流していくことは、人類の健康に資するものであると信じております」

講演採録

講演1

PMDAの国際戦略と日中協力の取組み
~これまでの経験に基づく日中医療連携への期待も踏まえて~
近藤達也氏(独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長)
私と中国の関係

 1987年10月~12月の2ヵ月間、中日友好医院が開設されるとき、私は脳神経外科の立ち上げに参加し、このときに多くの中国の仲間ができました。中国に行って脳神経外科の診療を手伝うだけではなく、日本と中国が協力して臨床研究を行おうということで、悪性脳腫瘍に対する共同研究を行ったこともあります。

日中の交流については、これまでの日中間の歴史に思いを致し、対等な立場で共に手を携えて、世界の医療に貢献する姿勢を持つべきであると考えています。そのためには、PMDAが規制当局として実力を蓄え、世界トップクラスのサイエンスレベルとパフォーマンスを示すとともに、国際展開においても、中国を含むアジアが一体となった革新的新薬創出への基盤整備が重要です。私は就任以来、常にそれを念頭において、PMDAの実力強化と体制の整備に取り組んできました。

PMDAの役割

 PMDAには、「審査」「安全」「救済」という3つの重要な役割があります。審査では、新薬や新しい医療機器の有効性と安全性を見て、リスクの抑制を考えます。安全では、売り出された後に現れるさまざまな副作用などに対し、継続的にリスクの最小化に努めます。救済では、発生してしまった被害に対する救済に取り組みます。PMDAは、この3つの役割を一体として行う世界で唯一の公的機関です。レギュラトリーサイエンスに基づき、より安全でより品質のよい製品を、早く医療現場に届けることで、医療水準の向上に貢献しています。

 2004年にPMDAができたときの職員数は256人でしたが、2018年には915人に増えています。産業界、アカデミー、政府の方々の協力があって増やすことができました。現在力を入れているのは、1人1人の人材の能力を高めていくことです。

 かつては日本の規制当局の審査速度はきわめて遅かったのですが、これを改善してきました。PMDAの新薬の審査期間は、2008年は600日弱、2009年は700日近かったのですが、2012年には米国のFDAに追いつき、2014~2016年の3年間は280~300日程度で、世界で最短の審査期間となっていました。

 早くなったのは、審査員を増やしたことと、無駄な時間を減らしたためです。無駄な時間を減らすため、申請前相談を徹底的に行って問題点を整理し、それを解決してから申請し審査するようにしたのです。これで審査時間が短縮されました。

レギュラトリーサイエンス

 レギュラトリーサイエンスとは、「科学技術進歩の所産をメリットとデメリットの観点から評価・予測する方法を研究し、社会生活との調和の上で、最も望ましい形に調整(レギュレイト)すること、またそこでのコンプライアンスが必要であること」とされています。レギュラトリーサイエンスは、科学技術のもたらす成果をよいことも悪いことも予測する「評価科学」と、その上で人間・社会との調整を実現する「適正規制科学」という2つの要素から成ります。

 PMDAでは、品質・有効性・安全性の科学的な評価・判断に資するレギュラトリーサイエンスを推し進めてきました。2018年にはレギュラトリーサイエンスセンターを設置し、PMDA内のレギュラトリーサイエンスに関する活動を一元化してきました。それにより、製品開発や市販後安全対策等の更なる効率化を促進しています。

PMDAの国際戦略

 医薬品・医療機器は世界共通のものですから、日本だけで独りよがりの審査をしているわけにはいきません。世界と共通の考え方によって評価する必要があります。そこで、世界各国といろいろな形で協定を結んでいます。中国とも関係が強化されているところです。

 3年前に「アジア医薬品・医療機器トレーニングセンター」をPMDAに設置し、アジア各国の規制当局の方々にむけ、日本の規制制度について積極的に発信し、理解の促進を図っています。また、それがアジア全体の規制のレベルアップにも貢献していると考えています。

講演2

日本のがん治療の最前線
~ゲノム医療~
西田俊朗氏(国立がん研究センター中央病院院長)
日本のがんの現状

 日本人の2人に1人ががんを経験する時代になっています。幸い6割くらいの人は治りますが、日本人の3人に1人はがんで死亡します。2017年の予測値では、がんによる死亡者は38万人ほどで、がんになった人が100万人ほどいます。がんが日本人の死因のトップになったのは1981年で、80年代から「対がん10ヵ年総合戦略」が始まり、現在は4期目に入っています。2006年にはがん対策基本法が制定され、これに準拠してがん対策推進基本計画が進められています。がん対策推進基本計画では、「予防と早期発見」「治療」「ケア(共生)」の3つの方向からがん対策を進めています。

 日本人の年齢調整がん死亡率は少しずつ下がり始めていて、がん対策がある程度効いていることを示しています。ただ、日本は2次予防が十分ではなく、検診受診率は欧米が約7割なのに対し、5割弱となっています。こういった部分を改善していく必要があります。

 現在、がんの6割は治りますが、4割は治りません。この4割を何とかしていく必要があります。2割は早期発見・早期治療で治し、残りの2割は新しい診断・治療法によって治していく必要があります。そこで注目されているのがゲノム医療です。

がん治療の現状とこれから

 がんの治療法には、外科的治療、化学療法、放射線療法、免疫療法という4本の柱があります。がんは、通常働いている細胞増殖機構のどこかがおかしくなり、そこから常に増殖せよという命令が出ることで発生すると考えられています。この仮説に基づき、おかしくなった部分の前後で働きを阻害すれば増殖をコントロールできる、ということで開発されてきたのが分子標的治療薬です。

 2015年に、オバマ大統領(当時)はプレシジョンメディシン・イニシアチブを宣言しました。がんの遺伝子を調べ、そのがんに合った治療を行うことを目指して、アメリカでは膨大な研究資金をつぎ込み、プレシジョンメディシンを開始させました。日本でも研究が進められています。

 現在では、がんを発生させている遺伝子変異がいくつも見つかっています。そして、その遺伝子変異を標的とした薬も開発されています。また、以前は遺伝子を1つ1つ調べていましたが、技術が進歩したことで、最近は遺伝子を100も200もいっぺんに調べられるようになっています。そうしたゲノム解析の費用も急激に低下しました。こうした条件がそろうことで、がんゲノム医療が可能になってきたのです。

 国立がん研究センターでは、がん遺伝子パネル検査を開発し、2018年4月から先進医療として行っています。このパネル検査を受けた人で、実際に治療薬につながった人は約10%です。現在は標準治療が終了した人を対象にしているので、もう少し前の段階で行えば、20%くらいになると考えられています。がんゲノム医療を推進するには、治験を増やしていく必要があります。

 ゲノム医療におけるこらからの可能性として、注目していることがいくつかあります。1つがリキッドバイオプシーです。現在は手術標本でがん細胞の遺伝子を調べていますが、血液中に流れ出たがん遺伝子を調べる検査です。その他、免疫チェックポイント阻害薬との併用、抗がん剤を結合させた抗体医薬品による治療、TCR遺伝子改変治療などもこれからの可能性を期待されている治療です。

がんゲノム医療の体制整備状況

 第3期がん対策推進基本計画には、がん医療の充実として「がんゲノム医療」が加えられています。具体的にどのように動き始めたかというと、がんゲノム医療の中枢となる病院として、11のがんゲノム医療中核拠点病院が定められ、この下に135のがんゲノム医療連携病院がある構造になっています。2019年4月から活動が始まりますが、中核拠点病院が中心となって、多くの臨床試験を行っていく必要があります。

 データベースの作成も期待されています。ゲノムを調べて医療を提供したら、遺伝子変異や臨床結果や副作用などのデータを「C-CAT(がんゲノム情報管理センター)」に集めます。日本人を対象にした治療で、どのような効果が得られ、どのような副作用が現れ、どれだけ予後が改善したのか、といったデータを集めてデータベースを作成するのです。それが日本におけるがんゲノム医療を推進させるために非常に重要になってきます。

質疑応答

尾尻:「審査、安全、救済の3つを行うのは日本のPMDAだけとのことですが、例えばアメリカのFDAでは何をしていないのですか」

近藤:「審査と安全については、アメリカでもヨーロッパでも、どの規制当局でも行っています。救済を加えた3つを行っているのはPMDAだけということです」

土屋了介(公益財団法人ときわ会顧問):「承認される薬の中で、国産品の割合が減り、輸入品の割合が増えています。日本でも研究の種は増えていると思うのですが、その点についてどうお考えですか」

近藤:「せっかく国内で発明発見したものは、国内でしっかり評価してほしいと思います。レギュラトリーサイエンスの中の評価科学を、規制当局だけでなく、発明発見した人も、企業も、しっかり行ってほしい。目利きの科学である評価科学に本腰を入れて取り組まないと、発明発見が外国に行ってしまいます」

加納宣康(医療法人沖縄徳洲会千葉徳洲会病院院長):「日本でクリニカルデータベースを作っていますが、症例数の多い中国のデータベースを使わせてもらえばいいのではないかと思います。日本人も中国人も遺伝子的には同じようなものでありませんか」

西田:「日本人がどこからきたのかを解き明かすゲノム解析が行われ、中国の一部からきていることがわかっています。やはり中国人全体と比較すると、違いがあるのです。薬の効果についてはあまり差がないかもしれませんが、副作用に関しては日本人独自のデータが必要だろうと私は考えています」

甲能直幸(立正佼成会附属佼成病院院長):「PMDAとFDAの職員数はどのくらい違うのですか」

近藤:「FDAの職員数は、正確なことはよくわかっていません。パートタイムや臨時の職員が多く、その人たちまで加えると、1万人くらいになってしまうのです。PMDAは900人余りで、非常勤まで加えると1300人ほどです。FDAのほうがはるかに多いことは間違いありませんが、正確な数字はわかりません」

中国からの参加者(中国語):「中国のCFDAと日本のPMDAが協力してやっていくのが望ましいのでは?」

近藤:「CFDAとPMDAが力を合わせてやっていこうという大きな流れができています。CFDAのトップの方々ともお会いし、どのように協力していくか話し合っています。救済制度についても関心を持っていただいています。これまでにない形で、人材の交流なども進んでいくのではないかと期待しています」

中国からの参加者(日本語):「中国との医療を通じた交流で最も困ったのはどのようなことですか」

近藤:「日本でも同じですが、データの信頼性でしょう。信頼できるデータを作る仕組みを、お互いにしっかりやっていければと思います」

西田:「私もデータの信頼性です。日本でも同じですが、データの質が施設や場所によってだいぶ違うように感じます。それから、個人の検体を国外に出すのが、日本より難しくなっています。共同研究を行っていくのは、なかなか厳しいかなと思います」

井関ユウ(一般社団法人国際医療福祉機構代表):「日本ではゲノム医療に対して企業からあまり資金が投入されていないのでは?」

西田:「海外に比べると確かにそうかもしれません。アメリカなどでは、莫大な金額が企業から投入されています。ただ、国立がん研究センターでは企業とのコラボレーションを増やしていて、それは指数関数的に増えています。日本でも企業の資金を入れながらやっていかなければ、ということで動いているところです」

中国からの参加者(中国語):「国立がん研究センターのパネル検査を中国人が受けることはできますか」

西田:「現在は研究ベースでやっていて、自由診療は行わないことになっているので、中国の方が受けることはできません。ただ、保険が通ってからであれば、自由診療で受けることができると思います」