日本の医療の未来を考える会

第5回「企業における『高ストレス者』対策分科会リポート

第5回「企業における『高ストレス者』対策分科会リポート

労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐ
企業の取り組みの実例を紹介

「企業における『高ストレス者』対策」分科会の第5弾は3月13日に開催された。今回のテーマは「労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐ企業の取り組みについて」である。講師は、株式会社ドトールコーヒー人事部部長・平本智也氏と寺田倉庫株式会社上席執行役員・畑敬子氏のお2人。業態も規模も違う企業のメンタルヘルスへの対応についてお話しを伺った。

尾尻佳津典:「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表(集中出版代表)「ここにご参加頂いている皆さんは、ほぼ会社の総務や人事の方だと思います。今の時代、社員の方々以上に総務、人事の皆さんに多大なストレスがかかっているのではないでしょうか。ストレスチェックは、自殺者の多さへの対策として政府が投入した、心の病を知る大事な制度です。これによって確かに高ストレスの度合いが分かります。私もチェックをしてみたところ、大変なストレスがかかっていることが分かり、驚きました」

原田義昭:「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表(自民党衆議院議員)「今の時代、世の中が高度化、複雑化していてストレスを感じる場も増えています。そのような中で企業もご苦労されていると思います。ストレスについての知識も大事ですが、その知識を実務として生かすことも大切です。ここで学んだことを、ぜひ現場で生かしていただきたい」

【実例紹介1】
部署の代表が参加する衛生委員会が健康の保持・増進を担う
株式会社ドトールコーヒー 人事部 部長
平本智也氏

 ドトールコーヒーは現在、891名の社員を擁する企業です。健康維持、増進のための組織体制は、人事部が中心になっています。人事部が企画立案をし、社内相談窓口と社外相談窓口、各部署から選出されたメンバーによる衛生委員会、それに産業医と連携して健康を保ち、安全に働くことのできる体制作りを行っています。

 まず、社内か社外の窓口に相談し、社内は人事や労務担当が対応、社外はカウンセリング資格などをもったメンバーが相談を受けます。産業医については本社は精神科医、工場は内科医となっています。

 ただ、こうした体制を取ったからといって、すぐに問題解決に結びつくわけではありません。採用から職場環境、評価、育成などの人事プロセスとしてうまく回っていかないと心身ともに職場で働くのは難しくなります。

 採用については雇い入れ時検診をし、二次検診が必要な人には入社時期をずらすなどの対応をしています。その後、任意で健康チェック表を作成してもらいます。書ける範囲で書いてもらう。こうした検診、健康チェックによって配置を決めていきます。もちろん、その過程です産業医とも連携しています。

 また、万が一、休業となった場合にも、そもそも休業の原因とは何かをしっかりと追求します。産業医、主治医と相談し、いつごろ、どのような形で復帰できるのかを考えていく。

 同じ職場での復帰が望ましいですが、上司が原因ということもあります。そうなると同じ職場に戻るとは限りません。

 他にも、新しく取り入れた制度として、2年前から一般職制度を導入しています。時間的制約のある社員に柔軟に対応する制度です。地域限定や固定時間制という働き方が選択可能です。育児や介護を事由として挙げていますが、もちろんメンタルヘルス不調による休業も視野に入れています。この一般職制度は現在21人が選択しています。

 評価・改善では衛生委員会を活用することになります。健康被害予防や健康保持増進、労災対策を行い、他にも分煙対策やAED設置なども進めています。ここでストレスチェックの促進も行い、現在、当社では健康診断受診率が100%、ストレスチェック回答率95%、メンタル疾患による労災退職は0%となっています。

 ただ、気になるのはストレスチェックで高ストレス判定率が19・4%という結果が出て、これは飲食業界としては高い方だということです(宿泊・飲食平均が13・9%)。

 そうした点を改革していくには、挑戦、実践、創造という良い循環に変えていくことでしょう。そして、ポイントは衛生委員会だろうと考えています。今後は委員会の充実を図り、いろいろなプランが出してもらえる環境を、人事部も協力して作り出していくつもりです。

【実例紹介2】
消化情報を集め、愛情を軸とした対策を講じる
寺田倉庫株式会社 上席執行役員寺
畑敬子氏

 寺田倉庫は規模が大きくないので泥臭く、手作りの施策でメンタルヘルス不調を未然に防ぐ取り組みをしています。

 弊社は、普通の会社に比べて経営判断などが速く、そこが会社としてのメリットであると同時に、社員のスキルやメンタル面に乖離が生じやすい面もあります。それでも、メンタル不調での休業は1%未満となっています。それは、仕事だけでなく家庭や個人の性格、要因を分析していき、泥臭い取り組みを行っているためだろうと思います。

 たとえば、健康プログラムの導入。社員健康化プログラムとしてパーソナルトレーナーを招いて、肩凝り体操などを行っており、この講座は参加費無料です。また、デンタルドックとして予防歯科の導入もしています。お母さん社員、外国人社員も多いので多様な働き方を推進しています。業務改善として力を入れているのが、「いつでも個人面談」と「年3回の全社員面談」。最初は嫌がられましたが、今では面談が日常化し、そこで社員の悩みなどが分かってきています。

 もう一つ、特徴的なのは未来プログラムです。一人一人に合わせて実施するプログラムですが、ここでは一つの事例を紹介します。

 20代の女性社員。性格のいい子だけれど、コミュニケーション力が低い。そして多少のうつ状態に陥っていました。そこで、彼女に合わせてプログラムを作ったのです。問題の根は仕事にあるのか、性格なのか、あるいは家庭環境なのか。自分自身の過去から未来にかけ分析し、自分自身を知るようにしました。0歳から今まで思い出せることを書いてもらいました。そこで成長期の愛情不足が要因の一つと分かりました。私たちは彼女としっかりと向き合い、とにかく愛情をもって接することを続けたところ、驚くほどの変化が起こり、今では仕事のできる社員に変貌し、年収も20%アップを果たしました。

 これまでの経験から、管理者が心の病に関する知識を持つことの大切さを感じています。そして、人事部だけでは良くなりません。社内の各部署とのコミュニケーション、社外の専門家との連携、それで一人一人に合った施策を講ずる。今後も「組織は人なり」をモットーに取り組んでいきたいと思っています。

 

質疑応答

尾尻:「これは皆さんに質問です。先ほどドトールコーヒーの平本様から高ストレス判定率が19・4%で、平均より高いというお話がありましたが、皆さんの中にも平均より高い方はおられますか。手を挙げてください(5人ほどが手を挙げる)。これだけいるのですね」

平本:「弊社の場合、単純に飲食業界の数字と比べると高いとはいえます。ただ、一昨年までの受検率は7割で、昨年は9割を超えている。その中でメンタル事由での休業の率も下がってきています。ですから、数値として世間よりは高いかもしれないけれど組織内では下がっているという認識はあります」

原田:「会社の人事は、社員の個性をしっかりと把握して、いろいろな問題に対応しなくてはならないのですね。感銘を受けました。それで、寺田倉庫の畑さんに質問ですが、ストレス問題と少し話はずれますが、ユニークな経営をされている経営者の方は、ずっと同じ方なのですか」

畑:「名称のように会長はオーナーで、一族で引き継いでいます。ただ、今の社長は一族ではありませんが、とてもエネルギッシュで、ユニークな方です」

杉本実季 ㈱九州屋 総務人事部:「平本様にお尋ねしますが、社内窓口とと社外窓口への相談の割合はどのぐらいでしょう。また、うちも全国に店舗がありますが、相談をどう受け取るのが良いのか悩んでいます。メールなどを使っているのでしょうか」

平本:「社内相談窓口は5、6年前から始め、社外は2年前からです。社内だけの時は数件だった相談が、社外窓口は年間70件になっています。相談については、社内のITインフラはそれほど進んでいるとはいえません。ただ、メールについては使われていたので、メールに頼ることにしました。飲食業の場合、店舗からは相談のためのアクセスをすることはないと判断し、携帯電話や自宅のパソコンからでもメールで申し込める体制は取っています」

遠田千穂 富士ソフト企画㈱・企画開発部 部長:「私の会社は特例子会社なので障害者の方が200人ほどいます。そのうち半数が精神障害者です。自殺願望を持つ人もいるのでずが、そうした人たちの自殺予防には人事部などが巡回されてやっているのでしょうか」

畑:「専門医や上司と連携し、個人のことを深掘りしていくしかないでしょう。人事は情報戦だと思っています。スタッフが回って、その職場で相手の顔を見て予兆を感じられるようにするのが一番です」

尾尻:「100人の精神障害者へのケアという点は、他の企業でも参考になるのではないでしょうか」

遠田:「弊社は、上司にも精神障害者がいます。自殺願望が強かった人もいて、その経験を生かしていただき、アドバイスを与えたりしています。それで実際に自殺を思い止どまったりしています」

堀川恵里 店舗流通ネット㈱ 管理総括本部人事課:「畑様の話された未来プログラムの事例で、どのような対応をしたかもう少し詳しく、具体的に教えていただけますでしょうか」

畑:「私は人事において愛情を大事にしています。ですから、対象社員に愛情の欠落を感じた際、とにかく意図的に話しかけたり、ボディタッチをしたりしました。この時はメディカル・ビー・コネクト㈱の瀬尾大さんに相談し、プログラムを作っていただきました」


瀬尾大・メディカル・ビー・コネクト㈱代表取締役:「カウンセリングなどによって、その方は周囲をすべて敵だと考えていることが分かりました。それは幼いころの家庭環境などが影響しています。職場だけでなく、プライベートでも周りを敵視していました。そういうことを畑さんに伝え、咀嚼してもらいました。私たちも情報が大切だと考えていますので、いかに情報を掴まえられるかがメンタル不調を未然に防ぐための重要な方策でしょう」