日本の医療と医薬品等の未来を考える会

第36回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」レポート

第36回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」レポート
離島・僻地の医療から遠隔手術まで
オンライン診療の現状と未来を考える
厚生労働省から昨年、『オンライン診療の適切な実施に関する指針』が出され、それに合わせるように、診療報酬に「オンライン診療料」が創設された。情報通信機器の技術的進歩を背景に、オンライン診療がいよいよ日本の医療の中で動き始めたといっていいだろう。かつては離島や僻地の患者を対象に限定的に行われる医療と考えられていたが、現在進められているオンライン診療はそれに止まらない。対象ははるかに広がり、在宅医療分野でも期待されている。緊急避妊薬の処方に関しては初診からのオンライン診療を認めるなど、柔軟な指針となっているのも目に付く。さらに、将来的にはオンライン外科手術も行われるようになるとしている。6月26日の勉強会では、厚生労働省医政局医事課長の佐々木健氏を講師に迎え、オンライン診療の現状と未来について話し合った。

尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表(集中出版代表)「国土の広いアメリカではオンライン診療が進んでいますが、残念ながら日本では遅れてしまっています。通信、AI、ITの進歩により、社会構造にまで大きな変化が現れています。通信を活用することが、今後の医療に大きく貢献してくれるものと思っています」

原田義昭・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」国会議員団会長(環境大臣、自民党衆議院議員)「本日で国会が終わりましたが、経済でも医療を含む社会保障でも、課題は山積しております。我々政治家が皆様の声をよく聞いて、しっかりと世の中を動かしていかなければなりません。多くのご意見を聞かせていただきたいと思っています」

オンライン診療の指針と
その改訂の検討状況について
■オンライン診療の最近の経緯

 オンライン診療は、従来は「遠隔診療」という言葉で検討されてきました。十分に医師が確保されていない離島や僻地の人が、ちょっとした診療を受けるために、遠くの医療機関まで行かなければならないことについて検討していたのです。ただ、医師法には、無診察診療はいけないということが書かれています。そこで、診察は面談が原則だが、「離島、僻地の場合」については限定的に遠隔診療を認める、という医政局長通知が出ていました。

 2015年には、「僻地、離島の場合」というのはあくまで例示であるとの事務連絡が出ています。僻地や離島に限らず行えるということです。ただ、これだけでは、どこまでやっていいのか、どういうことが駄目なのかが分かりません。そこで何度か検討会を行い、2018年に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「指針」)を出しました。そして、2018年度診療報酬改定で「オンライン診療料」が創設されています。これがオンライン診療を巡る最近の経緯です。

■「医師対医師」と「医師対患者」がある

 「指針」では、情報通信機器を用いた診療を、オンライン診療と定義しました。これには、診断や処方などの診療行為をリアルタイムで行う「オンライン診療」、医療機関への受診勧奨をリアルタイムで行う「オンライン受診勧奨」があります。

 オンライン診療を実施する場合は、オンラインで得られる情報は限られており、対面診療に比べて限界があることを患者に説明する必要があります。また、診療に当たる人物が医師であることを、患者が確認できる環境を整えておくことも求められています。対象となる患者も限られます。初診患者や急病急変患者は、原則として対面診療が必要で、オンライン診療の適用対象とはなりません。例外は患者がすぐに適切な医療を受けられない場合などです。そういった場合には、原則として後に対面診療を行います。また、オンライン診療を行う場合には、診療計画を定める必要があります。

 2018年度の診療報酬改定では、遠隔診療として、2種類の診療形態が示されています。1つが「医師対医師(D to D)」で、もう1つが「医師対患者(D to P)」です。D to Dは、かかりつけ医などが、より専門的な知見を持つ医師と連携して診療を行うケースです。遠隔画像診断や遠隔病理診断などがこれに当たり、従来から行われていました。新しく加わったのはD to Pで、今回オンライン診療と定義したものです。情報通信機器を用いて行われる「診察」と、情報通信機器を備えた医療機器を使って患者の情報を得る「遠隔モニタリング」があります。

■「指針」の改訂ポイント

 今後、オンライン診療の適切な推進に向け、「指針」の見直しなどを行います。毎年1回、「指針」と、「指針」の内容を分かりやすく解説する「質疑応答集」を改訂していくことが決まっています。2019年の改定は初回の見直しであることや、オンライン診療の不適切事例が報告されていることを受けて、「質の向上」「アクセシビリティ(利用しやすさ)の確保」「治療効果の最大化」に資するように見直していくことになっています。

 2019年度改定に向け、次のようなことを検討しています。まず「オンライン受診勧奨によるセカンドオピニオン」です。既に受診している医療機関の見立てについて、別の専門家に意見を求めるもので、基本的には受診勧奨に近いのではないかと議論しています。「緊急避妊薬のオンライン診療による処方」も検討中です。初診は基本的に対面診療ですが、例外の中に緊急避妊薬の処方を含めるかどうかの議論が進められています。「地方の過疎地等における緊急時のオンライン診療」「セキュリティ関係の見直し」「D to P with N、D to P with Dの明示」も見直しが進められています。

 D to P with Nは、在宅診療の訪問看護指示を受けた看護師が患者のそばにいて、オンライン診療を受けるようなケースです。高齢の患者がオンライン診療に必要な機器を使えない場合は、看護師が使い方を補助しながら診療を進め、採血や注射などの処置も行います。少し発熱したとか、少し状態が変わったという時に、従来なら医師が訪問する必要がありましたが、オンライン診療を取り入れることにより、看護師で一定の対応が可能となります。

 D to P with Dのオンライン診療は、2種類あります。1つは、かかりつけ医と患者の診療に、遠隔地の専門医が加わるようなケースです。最初のDが専門医、かかりつけ医がwith Dです。専門的な知見を有する医師のアドバイスを聞き、かかりつけ医が処方するというイメージです。

 もう1つは、手術支援ロボットを使い、遠隔外科手術を行うようなケースです。外科の先生達から、将来的には可能になるので加えておくべきとの提案があり、議論が進められています。例えば北海道の病院の手術室にいる患者に対し、東京にいる高度な技術を持った医師と、北海道の病院にいる医師が連携して手術を行う、というパターンを想定しています。高難度な部分は東京の医師が担当し、低〜中難度の部分は北海道の医師が担当するといったイメージです。

■緊急避妊薬におけるオンライン診療

 現在、日本で行われている人工妊娠中絶手術は、年間1万6000件を上回っています。緊急避妊薬は避妊手段の1つですが、処方薬であることや、入手しづらいことについて、これまでも繰り返し議論されてきました。

 世界的にはOTC医薬品(一般用医薬品)化が進んでいて、薬局で手軽に購入することができます。日本では2017年にOTC化が検討されましたが、様々な理由から見送られることになりました。その一方で、SNSなどを利用した輸入や転売により、どのようなものか分からない薬が購入されているという実態があります。そうしたことから、オンライン診療について議論する必要性が生じていたのです。

 現状でも、オンライン診療で得られた情報のみで、診断や治療方針の決定が可能であり、かつリスクが低い場合においては、対面診療を組み合わせず、例外として初診からのオンライン診療が認められています。緊急避妊薬については、性交後72時間以内に内服する必要があるものの、地方においては産婦人科を受診しにくい状況がある、犯罪などが関係する場合もアクセスしにくいといった指摘がありました。

 結論を申し上げると、「指針」においては、初診からのオンライン診療の対象に加えることになっています。この議論の過程から、文部科学省と連携して性教育の推進を図ることや、そもそも対面診療でどのような医療機関で提供されているのかということについてもきちんと情報提供する、といったことが出てきました。オンライン診療に関する議論の中から、結果として、緊急避妊薬の入手経路の明確化という重要な問題が出てきたわけです。この問題についても、しっかり対応していきたいと考えています。


尾尻「オンライン診療ではIT技術が重要だと思いますが、厚生労働省にはそういったことのプロフェッショナルはいるのですか」

佐々木「我々はITの専門家ではありませんが、委員の中には実際にオンライン診療を行っている人もいます。また、総務省や経済産業省がオブザーバーとして参加しており、多角的な視点で検討できる体制を作っています」

井関ユウ・国際医療福祉機構代表理事「オンライン診療を行う病院の認可はどうなっていますか」

佐々木「オンライン診療を行う医師に関しては、研修を義務付けようと思っています。緊急避妊薬に関しては、産婦人科以外の診療科の先生には、それについて新たな知識を得ていただくため、オンライン診療の研修に加え、緊急避妊薬の研修も受けていただくことを考えています」

井関「越境オンライン診療について、法的な責任がどうなっているか教えてください」

佐々木「基本的には医療機関の所在地の法律が適応されます。海外の医療機関に日本の方がアクセスする場合は医療機関のある国の法律、日本の医療機関でオンライン診療を行う場合は、日本の法律が適応されます。海外の方がアクセスしてきた場合も、日本の法律に従っていただきます」

加納宣康・沖縄徳洲会千葉徳洲会病院名誉院長「長年手術を教えてきましたが、ロボット手術が登場した時、これからはどうやって教えたらいいのかと思ったものです。その後、デュアルコンソールができましたが、これは教えるのには向いています。しかし、経営者の立場に立つと、お金がかかるので悩みました。ロボット手術を行っても、診療報酬は普通の腹腔鏡下手術と同じといわれる。デュアルコンソールにしても、多分同じ。となると、いくら手術を教えるのに役立っても、経営者としてはデュアルコンソールを導入しづらいのですが、その点についてどう考えていますか」

佐々木「ダヴィンチ手術の点数については、エビデンスとなるデータがあるものについては加算が取れる、ということになっています。それがない場合は、ダヴィンチを使ってもいいが点数は腹腔鏡下手術と同じ、ということになります。逆に言えば、エビデンスさえあれば加算が付く可能性があるということです。オンライン外科手術を考えると、人材育成も重要だと思います。全ての医療機関でデュアルコンソールにするのは無理ですが、集約化の議論を進めながら、ロボット手術の経験を積める施設を特定していくことが必要かもしれません」

内藤嘉之・愛仁会理事長「手術中にはいろいろなトラブルが起きます。例えば、婦人科の手術中に尿管を傷つけるといったことが起きた場合、院内に泌尿器の専門医がいればいいのですが、いないと大変なことになります。現在は外科を全部そろえ、何でもやるという時代ではなくなっています。うちの病院は心臓が強いとか、うちは呼吸器が強いといった形になっているので、いざという時に困ってしまいます。そういう緊急時にも、オンライン外科手術がうまく機能するのではないでしょうか」

佐々木「オンライン外科手術は今すぐできる技術ではありませんが、そういったことも可能かもしれません。また、地域格差を是正するのにも役立つと考えています」

嗣江建栄・ViewSend ICT代表取締役「海外の患者さんをオンラインで日本の医師が診る診療が認められれば、薬は現在の2倍くらい売れるようになるのではありませんか」

佐々木「現在、念頭にあるのは国内ですが、将来的には範囲を広げていきたいと考えています。そういった時に、役所が規制をかけ過ぎると、現場の意欲を失わせてしまうことがあります。逆に何もしないと、いろいろ問題が起きてしまうことがあります。難しいところですが、うまく対応していきたいと考えています」

大嶋耐之・金城学院大学薬学部教授「オンライン診療では、処方箋の流れはどうなるのでしょうか」

佐々木「処方箋は医師が出し、それを受けて薬局が薬を出すのは同じです。院内処方であれば、薬を郵送しているようなケースもあります。院外処方の場合は、処方箋を郵送などで患者さんに届け、患者さんはそれを持って薬局に行き、薬を受け取ります。これが基本となっています」

本田宏・医療制度研究会副理事長「ロボット手術の現場を見ますと、ここで活躍できるのは臨床工学士だと思います。臨床工学士を含めた多職種へのタスクシフト(業務移管)は、今後どうなるでしょうか」

佐々木「働き方改革において、タスクシフトは1つの大きな柱となっています。先日から始めているのは、臨床工学士を含めた関係職種に、自分達は医師に対してこんなサポートができる、看護師がやっているこんなことができる、ということをまとめてもらっています。内容によっては法改正が必要だと思いますが、できるところからどんどんやっていこうということになっています」

田邉一成・東京女子医科大学病院病院長「私は泌尿器が専門ですが、オンライン外科手術を技術指導として使うと、現在よりはるかに安全に手術を行えると思います。ロボット手術を始める時だけでなく、難しい症例をやる時にも、極めて有効です。現在、ICU(集中治療室)については、地方の病院のICUを、大きい病院のICUの専門医が、オンラインで繋いでサポートしています。手術でもそうしたことが可能になると思います」

佐々木「外科学会ではガイドラインの元になるような実証研究を始める予定です。泌尿器科でもそうしたことに取り組んでいただければ、『指針』の中に具体的に落とし込んでいくようにします」

荏原太・すこやか高田中央病院院長「『指針』の見直しに関する検討会では、内科的な話が議論されているのでしょうか」

佐々木「検討会には内科の先生にも入っていただいています。元々遠隔診療は薬の処方というところから始まり、内科の先生方が主体となって話し合ってきたものでした。『指針』は毎年見直しますので、内科の先生から見た課題についても、しっかりお聞きしながら進めていくようにします」

 


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