日本の医療の未来を考える会

第39回「日本の医療の未来を考える会」 リポート

第39回「日本の医療の未来を考える会」 リポート
「健康・医療戦略」の今後の方針と
医療の国際展開について考える

世界に先駆けて超高齢社会を迎えた日本では、健康長寿社会の形成に向けて、世界最先端の医療を実現し、それによって健康寿命を延ばす事が重要課題となる。そのための施策を推進する事を目的に、国の「健康・医療戦略」が生まれ、日本の医療の進むべき方向を示す指針となって来た。アジアやアフリカへの医療の国際展開も、健康・医療戦略の重要な一部となっている。10月23日の勉強会では、内閣官房内閣審議官、健康・医療戦略室次長の森田弘一氏を講師に迎え、改定の時期となっている健康・医療戦略の今後の取組と、国際展開の促進について話を聞いた。

挨拶

原田義昭・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団会長(自民党衆議院議員)「アジア健康構想やアフリカ健康構想で、日本は重要な役割を担っています。日本の進んだ医療・介護を国内だけでなく、アジア、アフリカに広げていく事はもちろん重要。それには相手国の特色に合わせ、上手に調整していく事も必要でしょう」

三ッ林裕巳・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(自民党衆議院議員、医師)「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを日本が中心となって進める事は重要だと思います。私はギニア議連の幹事長を務めていますが、ギニアではエボラ出血熱が大流行しています。こういった点でも、日本の支援が期待されています。積極的に関わって行くため、私も頑張る所存です」

勉強会採録
「健康・医療戦略の今後の取組方針」と
国際展開の促進について
−アジア健康構想とアフリカ健康構想−
■健康・医療戦略(経緯と概要)

 政府が進める健康・医療戦略については、健康・医療戦略推進法の第2条に、「健康・医療に関する先端的研究開発及び新産業創出」を行うと書かれています。先端的研究開発は、AMED(日本医療研究開発機構)を中核として実施する公的資金を活用した研究開発を指します。世界最高水準の医療の提供、日本の高度な医療をさらに高度化して行くような研究開発の支援、健康長寿社会の形成に資する新産業の創出を行っています。

 健康・医療戦略は、根っこは成長戦略にあります。医療を行うのと同時に、産業として日本の基盤を大きく成長させるシナリオを考える、という事を念頭に進めて来ました。これまでの経緯を見ると、法律が出来る前の2013年度に、日本再興戦略の中に、「医療関連産業の活性化により、世界最先端の医療が受けられる社会」の実現を目指して、研究開発の司令塔機能を作ると書かれています。この司令塔の本部として、内閣に内閣総理大臣と全大臣から成る推進本部が設置されており、健康・医療戦略を決定しています。つまり、健康・医療戦略は、内閣総理大臣が号令を掛け、各省を束ねるという形で進められて来ています。

 さらにこの本部では、健康・医療戦略推進専門調査会での議論を踏まえ、医療分野研究開発推進計画が作られています。これはAMEDで実施する研究開発の方針を決める計画です。何が重点分野とされるかで、今後数年間、公的資金による研究開発がどちらに向かうかが見えて来ます。現在は、医薬品や医療機器の開発が重点分野になっています。日本発の革新的医薬品や医療機器を1つでも多く実用化したいと言うのが狙いです。また、領域の設定も行っていて、がん、認知機能、難病、感染症対策、再生医療、ゲノム医療等が挙げられています。

 基盤整備という事で、橋渡し研究が重要と言われています。日本発の最新の薬剤や医療機器を作るために、アカデミアの研究をしっかり実用化して行こうという考えに基づき、そのための橋渡し研究を重視すべきとの議論がありました。

 こうした現行の健康・医療戦略は、2019年度末までが対象期間なので、現在、改定作業が進められています。改定に当たっては、より明確な体系化を行う、現行の戦略における課題を踏まえて改定する、将来の社会・経済的課題からバックキャストして考える、新産業と国際展開促進に戦略的に取り組む、という事を重視しています。

 将来の社会・経済的課題については、人口減と高齢化率の上昇がポイントになります。また、健康長寿を考える時に基本となるのが、平均寿命と健康寿命の差です。その期間に介護が必要になるわけですが、介護に携わってくれる若い人材が不足しているという状況があります。それを埋めるために、東南アジアの教育水準の高い地域から介護人材に来てもらう必要があります。

 高齢化率が7%から14%に増加するのに何年かかったかを調べると、日本はわずか24年で、欧米の各国に比べはるかに短いことが分かります。(編集部注:ドイツは42年、フランスは114年)今後の将来予測によると、アジアの国々は、数年のタイムラグで日本と同じように、20〜30年間で高齢化して行くと予測されています。今、私達が経験している状況は、アジア地域に医療を展開する際の大切な知恵になると考えられます。

■医療の国際展開

 医療の国際展開はこれまでどのような状況だったのでしょうか。2013年頃から経済産業省では、日本の医療者・医療産業が海外で新しい展開を行いたい場合には、政策的に支援しますと言っていました。そして、いろいろな技術を海外展開する実証事業のお手伝いをたくさん行って来ました。

 当時、行われていたのは、日本式医療拠点を海外に作ろうと言うものでした。日本式医療とは、日本が競争力を持っている医療分野の事でもあります。内視鏡で消化器系の診断を行う技術や、CTやMRIによる診断技術等が強いのではないかと考えられていました。また、人工透析の技術も、日本の医療の成功した事例であると言われ、人工透析を海外に持って行こう、という試みもありました。私達が日本式医療だと考えるものを海外で提示してみて、良かったら使ってもらおう、という事だったのです。

 アジア健康構想では、少し視点を変え、相手国がどういう事を求めているかを重視することになりました。地域によって疾患構造は異なります。アフリカでは感染症が問題ですが、アジアは実は日本型疾病構造に近くなっていて、生活習慣病が増えているのです。「高齢者向け市場=医療・医薬産業+介護産業+生活産業」と考えた場合、2035年の市場規模予測は、日本が105兆円、中国が278兆円、インドが57兆円、韓国が34兆円、インドネシアが21兆円、タイが16兆円等、かなり大きくなると予測されています。

 アジア健康構想とは、アジアにおける健康長寿社会の実現と持続可能な成長を目指す取組のための指針です。これまで進めてきた日本の医療拠点を作ると言うのは、定食セットをお勧めするような話ですが、アジア健康構想はそれぞれの国でどういう事を求めているのかを重視し、カスタマイズしていく事に特徴があります。医療・介護、ヘルスケアサービス、健康な生活を支えるサービスについて、自国の資本が入る産業を振興し、裾野の広いヘルスケアを実現する方が良いのではないか、と提案しています。世界最高水準の医療という文脈だけで考えていると、高齢化の話や、それに対する課題が見え難いのですが、社会問題から掘り起こして議論を進めていくと、このような提示の仕方が出て来ます。

 アフリカ健康構想は、アジア健康構想のコンセプトを踏まえて策定されていますが、アフリカはまだ発展途上であるため、アジアとは異なる社会・経済的な問題が存在します。ポイントは、公的セクターによる支援と、自律的な民間の産業活動を、車の両輪として取り組む事で経済成長を実現していく点にあります。

 外務省、経済産業省、経団連、経済同友会などによるアフリカビジネス協議会が、アフリカで何が出来るかを考える枠組みを作っています。それをベースにして、アフリカの課題に対し、自分達のビジネス活動をどのようにマッチングして行くか、という事を考えています。例えばヘルスケアの分野であれば、アフリカでは感染症対策、母子保健、人材育成、衛生インフラ等が重要なテーマになります。それを日本の企業がどのような形でモデル化出来るかを考え、まずパイロット事業を行おうという事にしています。

質疑応答

尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表(集中出版代表)「日本の医療が海外に出て行っても、なかなか上手く行かないという声を良く耳にします。何か障害があるのでしょうか?」

森田「実際に海外に出ている医療機関の方に伺うと、継続出来ないのには色々な原因があるようです。資金の場合もあるし、人の場合もあります。途上国にずっと行ってもらえる医師の確保が出来ない、という医療機関もありました」

土屋了介・ときわ会グループ顧問「2点教えて下さい。基礎研究から実用化への橋渡しで要となるのは知財の管理ですが、アカデミアが知財管理をきちんと行っていないという問題があります。AMEDは知財管理にどのように関わろうとしているのでしょうか? もう1つは、医療・健康データを医療機関側が持っていて、個人に返っていない問題です。個人に返してくれれば、民間業者が個人のためにきちんと管理出来ます。政府が莫大な金額を注ぎ込まなくても管理出来ると思いますが如何でしょうか?」

森田「AMEDの話は、今回の改定で機構も少し見直すので、知財管理についても対応できる組織作りをしてくれると期待しています。データの話については、私も土屋先生と同意見です。自分で管理する形に色々なプロジェクトが動いて行けば、最後にはいいものが生き残るという事になるかも知れません。それを期待しています」

加納宣康・沖縄徳洲会千葉徳洲会病院名誉院長「外科の分野では、ナショナル・クリニカル・データベースに手術記録を全て登録し、分析出来るようになっています。私はマイナンバーを使うようになれば、予防に関する研究が一気に進むと思っていましたが、今やマイナンバーは忘れられた存在になっています。何とかこれを活用し、予防に関する研究を進めて欲しいと願っています」

瀬戸晥一・脳神経疾患研究所附属総合南東北病院口腔がん治療センター長・BNCT企画開発本部長「BNCTに取り組み始めた時、海外から是非これをやって欲しいという話がありましたが、結局上手く行きませんでした。日本の民間病院が『医は仁術』という事で海外進出を試みても、どうも上手く行きません。金銭的なものでなくていいので、何か公的なバックアップを頂きたいのですが」

森田「ODA(政府開発援助)で渡し切る援助より、国内の産業を創出するような援助をと言っています。ビジネスモデルの中で、融資とか出資とか、そういうスキームをかみ合わせた絵を描いて、相手国と調整するようなやり方も出来るのではないかと思います」

登坂正子・淳信会理事長「私はミネラルバランスに関する臨床研究を行っていますが、やはり資金が不足しています。どうすれば資金を援助して頂けるのでしょうか?」

森田「基本的にはAMEDで支援する事になっていて、色々な疾患領域を設定したり、課題を設定したりしています。一般論ですが、研究の重要性を認識してもらい、AMEDや科研費のようなところで、どれだけ資金を援助してもらえるか頑張るしかない、という事だと思います」


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