日本の医療の未来を考える会

第40回「日本の医療の未来を考える会」 リポート

第40回「日本の医療の未来を考える会」 リポート
いざという時、記者会見をどう乗り切るか
医療機関の報道対応について考える

企業には広報部というマスコミ対応を行う部署があるが、医療機関にはない事が多い。そのため、医療事故など有事の際には、報道機関からの嵐のような取材攻勢の中で、専門ではないスタッフがあたふたと対応する事になってしまう。それが正確でない報道に繋がったり、医療機関の信用を失墜させてしまったりする事もある。適切な報道対応のノウハウを持つ事は、医療機関にとっても極めて重要と言えるだろう。第40回となる11月27日の勉強会では、産経新聞東京本社産経編集センター兼メディア営業局企画プロデューサーで前社会部記者の道丸摩耶氏を講師に迎え、医療機関に必要な報道対応について解説してもらった。さらに医療事故が疑われる事例の模擬記者会見も行われ、より具体的な形で報道対応について学ぶことが出来た。

原田義昭・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団会長(自民党衆議院議員)「国会には沢山の勉強会が出来ますが、続くものはほとんどありません。そうした中で、この会が40回目を迎えたのは、皆さんの情熱の賜物です。民間の皆さんの率直な意見を政策に投影していく事は、非常に重要だと思います」

三ッ林裕巳・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(自民党衆議院議員)「今回のテーマは報道対応です。医療機関にとって報道対応は重要ですが、国会議員にとっても、いつも身構えていなければならない重要なテーマです。しっかりと勉強して、議員としての務めを果たしていきたいと考えています」

■取材対応の3大原則

 本日お見えになっている先生方の中には、2000年頃のマスコミによる医療バッシングと、その後の医療崩壊をご記憶の方が多いと思います。私が医療関係の報道で大切にしたいと思っているのは、医療と報道の相互理解という事です。本日はそれに沿って話を進めてまいります。

 医療事故が起きた時や、職員の不祥事や研究不正等が起きた時、マスコミによる前ぶれのない取材が始まります。そうした場合の報道対応には、次のような3大原則があります。

①事案と取材を共に経由する担当者を決める。

 現場で起きている事を広報担当者が把握している事が大切です。複数のマスコミに同じ情報を与える事が出来、混乱が防げます。

②言っていい事・悪い事の原則を確認。

 言ってはいけないのは、攻撃・逆ギレ・患者やトラブル相手の名誉を傷つけること・個人の考えや見立て・不確実な情報等です。分からない事は、現時点では分からないとした上で、「調べています」「○○頃をめどに調査が終わります」と進行形の事実関係も伝えます。分かっているが言えない事については、言えない理由を添えて伝える必要があります。「分からない」と嘘をつくと、ばれた時のダメージが大きくなります。

③記者会見を効果的に使う。

 吉本興業の闇営業問題では、会社側が記者会見をなかなか開かず、タレントが会見を開きました。そこで涙ながらに訴えたのが印象深かったため、会社側のイメージが低下する結果になりました。順天堂大学の新生児取り違え問題では、報道を受けて大学側はホームページで「お知らせ」を出しましたが、ついに会見はしませんでした。セブンペイ不正アクセス問題では、社長が会見に出ましたが、電子マネーに関してあまりにも理解していない事が露呈し、信用の失墜に繋がりました。吉本興業のタレントが加害者でありながら同情されたように、記者会見は目の前の記者、その向こうの世間を味方につける絶好の機会でもあります。

 では、良い記者会見とはどのようなものでしょうか。まず、会見する人が当事者意識を持っている事が大切で、地位の高い人なら良いというものではありません。説明の中に嘘がない事も大切です。分からない事は分からない、言えない事は言えないと答えていいのですが、その理由も述べるようにします。また、会見予定時間が過ぎても、記者の質問を打ち切らないようにします。締め切りの時間があるので、会見がいつまでも続くという事は考えられません。責任者が詳細を知らない場合には、担当者を同席させる事も必要です。的確な会見資料を用意し、事実関係を時系列で説明します。これからの見通しを伝え、今後も取材を受ける事を明言すると記者は安心できます。
道丸摩耶

■医療事故はどう報じられるのか

 新聞社で医療事故を報道するのは社会部の記者です。医療部や科学部といった専門の記者が取材する事もありますが、多くの場合、社会部の記者が取材に当たります。医療機関の所在地によっては、地方支局の記者という事もあります。つまり、普段から医療を取材しているわけではない記者が、記者会見に行く事が多いのです。

 医療事故の発生を知った記者は①病院(院長・広報担当)への取材②手術をした医師やスタッフへの取材(可能な限り)③警察・検察への取材④患者や遺族への取材⑤医療に詳しい専門家への取材、等を積み重ねて記事を執筆します。医療機関の会見で事故を知った場合には、①②⑤が中心となります。

 医療機関が会見を行った場合と行わなかった場合では、記事の印象が大きく異なってくる事があります。医療機関が会見を行うと、各社が同じ情報を持っているため、どの新聞にも事実に則っただいたい同じ記事が出る事になります。一方、遺族側(患者側)が会見を行うと、医療機関が会見した場合の記事とはかなり違うものになります。一般的に情緒的な記事になる傾向があります。

 医療事故はなぜ報じる必要があるのでしょうか。第1の理由は、医療は誰もが受ける可能性があり、高い安全性を求められるからです。医師には高い倫理観が求められており、隠蔽やカルテの改竄などがないかも確認する必要があります。第2の理由は、医療は密室で行われるため、真実が何かを深く取材し追究する必要があるからです。第3の理由は、報道して明るみに出す事で、同様の事故が起きていないかどうかが分かり、再発防止に繋がるからです。

■模擬記者会見

 ここからは医療事故が起きたという想定で、私が医療機関の院長となって会見を開きますので、皆さんは記者になって取材を行って下さい。A大学病院循環器小児科で、肺動脈弁狭窄のカテーテル治療を受けた2歳男児が治療中に死亡した、という事例です。記者会見場では、事故の概要を記した次のような資料が配られました。

 『11月22日、当院の循環器小児科でカテーテル治療を受けた小児の容体が急変し、その後、死亡しました。医療事故が疑われるため、当院は本日、小児が死亡した状況を調査するため、院内に院長を委員長とする事故調査委員会を設置しました。委員会は速やかに調査を行い、結果を報告書にまとめて公表する予定です』

院長(道丸)「本日は当院で起きた医療事故の疑いがある事例につきまして、説明させて頂きます。事故の概要は、お手元の資料にあるとおりです。この度は、患者さん、ご家族の方、ご心配をおかけしまして申し訳ございません」

記者A(尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表、集中出版代表)「主治医の先生が手術するという事でご両親に説明があったのに、実際は若い医師が治療を行ったようです。これは誰の判断だったのでしょうか」

院長「今回の事例につきましては現在、事故調査委員会で調査中でございます。実際に誰が治療を行ったか等、詳細につきましては、ここではお話出来ないことをご了承頂きたいと思います」

記者B(邉見公雄・NPO法人地域医療・介護研究会JAPAN会長)「この病気のカテーテル治療にはどの程度のリスクがあるのでしょうか」

院長「患者さんの症状は千差万別ですから、一概にリスクが高い低いという話は出来ませんが、一般的理解としては、そこまでリスクの高い難しい治療ではないという事です。この病気に対しては、よく行われている治療法です」

記者C(許俊鋭・東京都健康長寿医療センターセンター長)「カテーテル治療の途中で急変されたとの事ですが、どういう事が起きたと想定していますか。また、この病気の治療にはカテーテル治療と外科治療がありますが、カテーテル治療を選んだ理由について教えて下さい」

院長「なぜこの治療を選んだのか、何が起きたのか、という事につきましては、第三者委員会を立ち上げ、そこでまさに調べて頂いているところでございます。現在の段階では、この治療法を選択して行った事に関して、何か問題があったという事は出ていません。ただ、どのような治療でも急変のリスクはあるわけで、そのリスクをどう考え、どう対応する準備をしていたか等については、第三者委員会で調べて頂き、皆様にご報告出来るようにしたいと思っております」

記者D(土屋了介・ときわ会グループ顧問)「第三者委員会の委員長が院長になっていますが、これはどうしてですか。また、委員会のメンバーを教えて下さい。結果が出るのはいつ頃でしょうか」

院長「当院では過去にも第三者委員会が設置されていますが、その際に院長が委員長を務めていた事から、今回も私が責任を持って務める事になりました。委員会のメンバーは、専門的な知見を持つ医療の専門家が3人。医療以外の対応のために、弁護士の先生2人にも加わってもらっています。結果が出る時期については、長引く事もあるとご了承頂きたいのですが、過去の第三者委員会を設置した事例では、半年をめどに中間報告を出して会見を開いています。その後に、しっかりした形で報告し、調査を終了する事にしたいと考えています」

記者C(許)「第三者委員会は事故調査委員会となっていますが、病院としてはこの事例を事故と考えているのでしょうか。事故の場合、警察への届け出が必要ですが、それはどうしたのでしょうか」

院長「病院としては、現段階では医療事故という断定はしておらず、あくまで疑いという事で調べています。ですので、現時点で警察への届け出はしていませんが、今後必要になった場合には、捜査機関とも協議し、きちんとした形で調べて頂く事もあり得ると考えています」

記者E(関川浩司・石心会第二川崎幸クリニック院長)「厚労省が進めている医療事故調査委員会への届け出はどうなっていますか」

院長「結論から申し上げると、現時点では届け出はしていません。第三者委員会で日々調査しておりますので、その中で必要だという事になれば、捜査機関に調べて頂く事も、届け出もしたいと思っています。現時点では、そう判断する材料が揃っていないという事で、ずっと届け出をしないと決めているわけではありません」

 以上で模擬記者会見を終了します。ご協力ありがとうございました。

質疑応答

原田「医療過誤について、ある時期、自民党内でもかなり勉強した記憶があります。最近は、医療過誤の報道はどのようになっていますか」

道丸「医療事故に対する報道側の考え方は、以前とは変わってきています。2000年頃の大変なバッシングの後、医療の萎縮が起きてしまったわけですが、その頃に現場にいた記者達は、今は偉い立場になっています。そして、現在の記者達の考えは、上司クラスの考えと少し違ってきているのです。若手記者は基本的に医療を信頼していて、医療側は嘘をつくし、すぐに事実を隠そうとする、などと思って取材する事はありません。時代が変わり、今は過渡期にあるのではないかと思います」

土屋「私の経験では、会見は時間が来たからと終わりにせず、2時間も頑張れば、大体理解してもらうことが出来、我々の意を汲んだ記事を書いてもらえます。ところが、そこにセンセーショナルな見出しが付く事があります。よく読めば病院が悪いのではないと分かりますが、病院がすごく悪いかのような見出しが付けられてしまう。何とかなりませんか」

道丸「今の上司世代には、自分達が叩く事で、医療を良くしてきたのだという自負を持っている人もいます。その世代が見出しを付けると、そうなりがちなのでしょう。この見出しは強過ぎるのではないかと、社内で協議してもらう事もあります。センセーショナルに扱うことが、必ずしも医療のためになるわけではない事を、世間も分かってきています」

尾尻「出版社をやっていると、企業の広報担当者が記事を止めて欲しいと言ってくる事があります。医療事故などの場合、そういう事を医療機関側から新聞社に行うのはどうでしょうか」

道丸「広報の人から記事を止めて欲しい等という話があったら、逆効果になる可能性がありますから、働き掛けはしない方がいいでしょう。ただ、広報の方が報道と良い関係が築けていれば、それが相互の信頼に繋がる事はあると思います」

武藤豊美・ソルナ株式会社代表補佐「私どもの会社は、ネットによる風評被害の対策を行っています。一旦ネットに上がった情報は、半永久的に世界中に流れる事になります。ネットで炎上騒ぎを起こす人がいるわけですが、新聞記者はどのようにそれに対処しているのでしょうか」

道丸「どこの新聞も現在はネットサイトを持っていますし、ネットの声を聞きたくないといっても、今の時代それは出来ません。報道する時に、新聞紙面には実名が出ているが、ネットには出ていないという事があります。炎上騒ぎが起きる事を見越して、名前を出さない事もあるのです。最近は、取材した相手から、名前をハンドルネームにして欲しいと言われる事があります。かつては考えられませんでしたが、今は新聞紙上でもハンドルネームを使う事があります」

加納宣康・沖縄徳洲会千葉徳洲会病院名誉院長「以前、A新聞の記事に明らかな間違いがあったので、親切に知らせたのですが、その新聞の記者は、新聞社が書いたことに文句を付けるとは何事だ、という態度で反論してきました。傲慢な記者でした。B新聞の記事にも間違いがありましたが、こちらの記者は何度か説明するうちに分かってくれ、最終的には酒を飲んだりする関係になりました。報道で仕事をする記者には、読者の声に耳を傾けて欲しいと願っています」

 

佐野武・がん研有明病院病院長「模擬会見はとても参考になりました。会見の冒頭で院長が頭を下げていましたが、あの段階では調査中で、まだ医療事故かどうかは明らかになっていません。それでも、やはり頭を下げた方がいいのでしょうか。記者会見の写真を1枚掲載するとなると、頭を下げている写真になると思うのですが」

道丸「あれは、お騒がせしてしまって申し訳ありません、という事で頭を下げました。医療事故と決まっていなくても、頭を下げる事が多い場面だとは思います。ただし、現時点でそれは必要ないという事で、頭を下げずに説明だけするという会見でもいいと思います。確かに先生がご指摘下さったように、写真だけ見た読者に、院長が医療事故を謝罪しているのだな、と思われてしまう事はあるだろうと思います」


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