日本の医療の未来を考える会

第44回 新型コロナウイルス感染症COVID-19の最新情報と第2波に向けての課題(大曲貴夫 先生)

第44回 新型コロナウイルス感染症COVID-19の最新情報と第2波に向けての課題(大曲貴夫 先生)
新型コロナウイルス感染症COVID-19の最新情報と第2波に向けての課題

世界的に見れば新型コロナウイルスの感染拡大は今も続いているが、日本は第1波を何とか乗り切る事が出来た。6月24日に衆議院第一議員会館で開かれた第44回勉強会では、国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫氏に講演をお願いした。中国・武漢からの帰国者やダイヤモンド・プリンセス号で感染した患者の治療に当たったのをはじめ、最前線で治療と研究に取り組んでこられたCOVID-19の専門家に、この病気に関する最新の知見や今後の課題について語っていただいた。

三ッ林裕巳「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(自民党衆議院議員、医師)「大曲先生はCOVID-19の臨床の最前線で活躍されてきました。本日お集まりの先生方の中にも、コロナ対策に奔走された方や、後方支援等に当たってこられた方がいらっしゃると思います。敬意と感謝を申し上げます」

大隈和英「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(自民党衆議院議員、医師)「日本のコロナ対策は、諸外国に比べ人口当たりの死亡数を抑える事に成功しました。しかし、検査体制や未知のウイルスへの対策で間違っていた事もあります。今後に向け、ベターなものへと柔軟に改善していく努力が必要だと思います」

COVID-19の最新情報と今後の課題

■レムデシビルの有効性を証明

 日本では1月31日までに感染が明らかになっていたのは12人でした。このうち9例は武漢への渡航歴がある人でしたが、3人は渡航歴がありませんでした。1月の段階で、日本国内で人から人への感染が起きていた事になります。1月の終わり頃からは武漢ミッションで、武漢の在留邦人と関係者が帰国したのですが、帰国者全員にPCR検査を行い、きちんとフォローした事で、いろいろな事が分かってきました。

 2月にはダイヤモンド・プリンセス号の問題が起き、国際的にはいろいろ言われましたが、なんとか大きな問題を起こさずに終了出来ました。あの船が横浜に停泊して対策が始まったのは2月5日。乗客の発症のピークは2月7日でした。この病気の潜伏期間は5日と言われているので、患者さんがウイルスに曝露したピークは2月2日という事になります。乗員については、その後も感染が続いていたのですが、乗客については検疫が始まる前に感染が起きていたのです。当時、こうした事が正確に伝わらず、とにかく失敗しているという一方的な報道が行われ、歯がゆい思いをした事を覚えています。

 ダイヤモンド・プリンセス号の患者を診た事で、この病気の臨床像が分かってきました。60代の米国人の男性は、感冒様症状で発症し、COVID-19と診断されました。発症後10日弱で急性呼吸器不全となり、人工呼吸器が必要となっています。1月に診ていた患者さんは比較的症状が軽かったのですが、実際に重症になる患者がいる事が分かってきました。国立国際医療研究センターには特定感染症病床が4床あり、エボラ出血熱の患者が出ても治療出来るように集中治療室になっています。この方はこの病室で治療を受ける最初の患者になりました。人工呼吸器でも酸素を十分に取り入れる事が出来ず、ECMO(体外式膜型人工肺)を使いました。30日ほどECMOを使いましたが、当初は悪くなる一方で、何度も無理かもしれないと思いました。ところが、3週弱のところで急に呼吸状態が良くなり、その後ECMOが外れ、それから1週間ほどで人工呼吸器も外れました。この症例から学んだのは、重症例はこんなにひどいという事と、良くなるにしても長い期間がかかるという事です。重症患者を救うには、相当のヒューマンリソースが必要になる事も分かりました。

 アメリカから2人のドクターが来られて、レムデシビルの有効性と安全性を調べるランダム化比較試験が行われる事になりました。共同治験を行ったのですが、驚いたのはそのスピードです。追い付くのが大変でしたが、治験は終了し、レムデシビルを使う事で症状が改善するまでの期間が短くなるという事を示す事が出来ました。この結果により、緊急承認されています。

■発症前でも感染する力がある

 2月になると、あちこちでクラスターが起きていました。この感染症のインフルエンザとは異なる大きな特徴は、クラスターが起こる事で患者数が階段状に増えていく事です。しかも、クラスターとクラスターは繋がりやすく、それを放置しておくと感染はどんどん拡大していきます。準備があまり出来ていない地域でそうした事が起これば、その地域における医療の限界を一気に超えてしまいます。それがこの病気の怖さなのだ、という事も分かってきました。

 3月中旬以降、患者数の急激な増加が見られました。海外からの帰国者の中に相当数の感染者がいたのだと思います。また、若い人達が感染源になっていた可能性もあります。この時点の年齢層別診断数は、60代くらいがピークで高齢者が多く、若者は相対的に少なかったのです。現在は20代30代が多くなっています。当時は一定の症状がないとなかなかPCR検査を受けられなかったため、若い人の感染がかなり見落とされていて、その人達が感染を広げていた可能性があります。

 国立国際医療研究センターでは、一般病床に40人近い患者さんがいた事がありました。人工呼吸器が必要な人は最大で8人いました。集中治療室は一時6床全てをコロナ用病床にしていました。

 日本集中治療学会では、日本中の集中治療室からデータを集めて発表しています。それによれば、人工呼吸器を付けている人が最も多かったのは4月26日頃で315人でした。ECMOの患者さんは同じ頃に最大で63人でした。これだけの負荷が日本の医療にかかった事になります。

 この病気がインフルエンザと違っていて、我々の対策を攪乱させたのが、無症状に見える人からも感染が起こるという点です。発症する1〜2日前から感染します。そこで、無症状に見える感染者をどうやって見つけ、対策をとるかという事が、今後の大きな課題となっています。

 感染者100人と、その濃厚接触者2761人をずっと観察した台湾の研究があります。濃厚接触者で発症したのは、発症前または発症後5日以内に接触した人だけでした。6日目以降に接触した人で感染した人はいなかったのです。これは非常に重要な研究で、こうした知見もあって、最近では入院期間も短くなってきました。

■医療機関でPCR検査が出来る体制を

 現在のCOVID-19の治療を私なりに整理してみました。肺炎のない人、肺炎のある人、重症の人に分けています。肺炎のない人なら、シクレソニドの特定臨床研究が始められています。ファビピラビル(アビガン)の特定臨床研究もありますし、イベルメクチンの医師主導治験も行われているようです。肺炎ありや重症の人には、レムデシビルが緊急承認を受けて使えるようになっています。私達はレムデシビルの研究を続けていて、現在は、「レムデシビル単独」と「レムデシビル+バリシチニブ併用」の比較試験を行っています。重症化には免疫学的機序が関係していると考えられる事から、免疫を抑える薬であるバリシチニブを併用する事で、どのような効果が得られるかを調べています。

 肺炎ありには、ファビピラビルの特定臨床研究や、ナファモスタットの国際共同研究と特定臨床研究もあります。また、重症に対してはアクテムラの企業治験もあります。更にCOVID-19には、血管内皮障害に起因すると思われる血液凝固の問題があります。そのため、抗凝固療法を加えるのは既に標準になっています。

 今後のコロナ対策について考えておく必要があります。医療体制という観点からすると、感染者の爆発的な増加を早い段階で見極める事が必要です。これを放っておいたら感染者が指数関数的に増えてしまうという時期を早く察知し、患者さんが増えた場合にも対応出来、命を救う事が出来る。そういう医療体制を、出来るだけ短期間で整える事が求められています。

 PCR検査については、キャパシティがあるのに人々に届いていないという状況がありました。これを改善する事が大事です。従来の行政の枠組みで行うだけでなく、医療機関で検査出来る体制を整えていく必要があります。外来の患者さんを検査するため、各地域に検査スポットが作られたのは大きな進歩だと思います。あとは救急車で運ばれてきた人をすぐに評価するための体制が必要です。例えば、2次救急以上の病院ではPCR検査がすぐ出来るようにすれば、救急車を受けやすくなるのではないかと思います。

 現在、夜の街での感染が問題になっていますが、関係する人達が積極的に検査を受け、陽性の人がたくさん出ています。意識が変わってきているのは大きな変化だといえます。そこで得られたデータをどう対策に生かすかが今後の問題です。


【質疑応答】
尾尻佳津典・「日本の医療の未来を考える会」代表(集中出版代表)「国の考えと現場の状況にギャップがあり、困ったような事はありましたか」

大曲「PCR検査が保険収載され、医療機関は自分達の判断で保険診療として検査出来るように制度上はなりました。しかし、医療機関側からすれば、そのためにはコロナの外来をやらなければならず、それは多くの医療機関にとってものすごくハードルが高かったはずです。結局、国が考えていたように、各医療機関の判断でPCR検査が出来る、というところまではいきませんでした」

篠原裕希・篠原湘南クリニックグループ理事長「感染しても症状のない人は、他の人に感染させないのですか。また集団免疫の考え方はこの感染症に通用するのでしょうか」

大曲「無症状に近い人が他の人にどのくらい感染させるのかについては、まだ議論がある状態ですが、思ったほどには感染させないのではないか、と言われ始めています。集団免疫は起こり得ると私は考えています。ただ、抗体を持つ人が何%いるかは重要ではないようです。抗体は数カ月すれば多くは消える事も分かっています。病原体が体に入った時に最初に働く自然免疫がありますが、それがしっかりしていれば、軽い感冒で終わり肺炎にならないと考えられます。集団の中にそういう人がたくさんいる状態は、集団免疫を持っていると言ってもいいのかもしれません」

荏原太・すこやか高田中央病院院長「コロナ専門病床を持つ病院ではありませんが、第2波に向けて何を準備すべきでしょうか」

大曲「鼻水が出るとか微熱があるといったわずかな症状がある人にも、コロナありきとして対応する事が、当面は必要になります。インフルエンザには分かりやすい症状があるので隔離しやすいのですが、コロナはもっと軽い人が多いので、そういう方を見つけ出して、隔離したり検査したりする事が必要になります。それが全ての医療機関に求められるのかなと思います」

服部智任・ジャパンメディカルアライアンス海老名総合病院院長「インフルエンザとコロナの流行が重なった時、病院としてはどう検査体制を整えていけばよいのでしょうか」

大曲「インフルエンザの検査は鼻腔に棒を入れて検体を採るので、コロナの流行時に行うのにはリスクが伴います。コロナの流行時にはインフルエンザの検査はしないという医師もいますが、重症の場合、診断をつけないと薬を使いにくいかなとは思います。コロナの検査に関しては、唾液を使うPCR検査や抗原検査にするという方法もあります。また、鼻から検体を採ってコロナの検査をするなら、同時にインフルエンザの検査もすればよいという意見もあります」

瀬戸皖一・脳神経疾患研究所附属総合南東北病院口腔がん治療センター長「口腔内にウイルスが出るため歯科医療では感染が起こりやすいので、第2波に向け、全ての新患に対してPCR検査か抗原検査を行ってはと考えています」

大曲「超流行期に術前のスクリーニングを行う事について議論がありますが、それと同じような事かと思います。最も流行がひどい時期や、地域の流行レベルがひどく高いような場合には、それも1つの方法かなとは思います」

源河いくみ・東京ミッドタウンクリニック医師「ビジネスの再開に伴い、外国に行くためにPCR検査の陰性証明を求める人が増えています。健康な人の陰性証明に唾液によるPCR検査はどうでしょうか」

大曲「使えればいいとは思いますが、一見無症状に見える人における唾液の検査の性能は、まだ十分ではないと考えられているようです。出来れば唾液の検査に切り替えていきたいと思っています」

本間之夫・日本赤十字社医療センター院長「感染した人の職場復帰についてですが、厚労省が出している基準がありますね。病院職員を職場に戻す際にも、一般企業の基準と同じでよいでしょうか」

大曲「国立国際医療研究センターでは一般と同じにしています。それ以上に基準を厳しくして、人手が不足してしまうのは、実際困りますから……。一般診療も回りにくくなっている状況ですので」

落合慈之・NTT東日本関東病院名誉院長「再流行の始まりをどのようにとらえるかですが、最近東京都ではPCR検査で陽性の人が増えています。陽性の人達は、症状があって調べに行った人ですか、それとも症状のない人達なのですか」

大曲「夜の街での感染が問題になり、症状のある人が自発的に検査に行くようになったという事はあります。一方、協力的な店では、店員から陽性者が出た場合、濃厚接触者を検査に行かせるという事をしています。そのため陽性者の中には、無症状の人もかなり含まれていると思います」

村田光繁・東海大学医学部付属八王子病院教授「院内感染では病院職員がウイルスを持ち込んでしまうケースもあるようです。医療従事者に対する行動規制は一般市民と同じでよいでしょうか」

大曲「職員の行動に関して特別な事は言っていません。それぞれが社会の流れに合わせながら、行動しています。ただ、院内感染防止のため、少しでも症状があれば申告するように言っていて、申告があればすぐにPCR検査を行っています。申告しやすい空気作りが大切だと考えています」

小泉正樹・ジャパンメディカルアライアンス海老名総合病院副院長「国によって流行の程度や致死率に大きな差がありますが、それは何に起因しているのでしょうか」

大曲「まだよく分かっていない、というのが正直なところです。遺伝子が異なるからという意見があり、これは有力な説の1つだと思います。あとは免疫の違いとする説もあります」

小林謙之・ミッドタウンクリニック有明医師「日本の医療は第2波に対応出来る余力がないのではないかと危惧しています。どうなのでしょうか」

大曲「治療薬やワクチンの開発も大事ですが、疑いのある人をどんどん検査出来る体制を整え、同時に受け入れる病床を準備する事を、今のうちにやっておく必要があります。医療機関の負担が大きくなるので、それを支える補償も大事です。そこが欠けていると持続性を担保出来ないと思います」

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