日本の医療の未来を考える会

第47回 夜の街対策、検査体制の充実等で 首都「東京」の感染を抑え込む(尾﨑治夫 先生)

第47回 夜の街対策、検査体制の充実等で 首都「東京」の感染を抑え込む(尾﨑治夫 先生)
新型コロナウイルスの感染拡大に検査体制が追い付いていなかった段階で、東京都医師会はPCRセンターを作って検査体制を整えた。それが現在では全国共通のインフラになっている。また、第3波の真っただ中にある現在、2次救急病院やかかりつけ医等を含め、検査可能施設は約2300施設に増えている。11月25日に衆議院第一議員会館で開かれた勉強会では、東京都のコロナ対策でリーダーシップを発揮し、感染拡大防止策を次々と打ち出してきた東京都医師会の尾﨑治夫会長を講師に迎え、これまでの対策とこれから取り組むべき課題について語って頂いた。

原田義昭・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(自民党衆議院議員)「第3波は重症者が多いようです。病院関係の方に話を聞きますと、コロナの患者さんが運び込まれると、他の病気の診療が抑えられてしまうために苦労しているといいます。ご苦労ですが、何とかこの事態を乗り切って頂きたいと願っています」

尾尻佳津典・「日本の医療の未来を考える会」代表(集中出版代表)「今回もコロナをテーマに取り上げました。世界では感染拡大が止まらず、日本の首都・東京でも新型コロナウイルスとの戦いが続いています。その先頭に立って対策を行っている尾﨑治夫先生に、今日はじっくりとお話を伺いたいと思っています」

今後の新型コロナ対策について

■改めて夜の街対策の重要性

 新型コロナ感染症の流行曲線を感染経路別に見て行くと、興味深い事が分かります。まず輸入感染があり、次に夜の街感染が起きました。それから若い人を中心とした孤発へと続きます。その若者が動き回って職場や家庭に入っていき、家族内感染、そして院内感染が起きます。感染経路別の症例数のピークは、こういった順で推移しています。

 第2波では輸入感染はありませんでしたが、新宿の歌舞伎町辺りで変異したウイルスの感染があり、それが若者に広がり、家族内感染や院内感染へと繋がっていきました。そして、東京の場合には、第2波の感染が収まらないまま、現在の第3波を迎えています。このように最初に夜の街で流行があるので、そこをモニタリングしていくのは、市中感染拡大を探知するのに非常に重要です。これからも引き続き夜の街のモニタリングをしっかりやっていく事が必要だと思います。

 現在、東京で夜の街感染がほとんど出ていないのは、ピークが家族内感染に移ってきているからです。病院や高齢者施設での院内感染や施設内感染が出てきているので、既に市中に蔓延している事を意味しています。

 第1波、第2波の反省から、夜の街感染を出来るだけ早く叩くには、法的強制力を持った補償を伴う休業要請が必要だと考えています。早めに震源地となる地域を限定して休業を要請し、その地域で集中的にPCR検査を行って感染実態を把握すれば、早めに感染を抑える事が出来ます。

 検査体制については、医師会主導でPCRセンターを作ってきました。現在では、それが全国的に共通のインフラになりました。しかし、新型コロナとインフルエンザが流行する事態となれば、PCRセンターだけでは保ちません。そこで、かかりつけ医を含めた検査体制作りを進めてきました。都内に約250カ所ある2次救急病院には、PCR検査の結果が短時間で判明する自己完結型の検査機器を配備します。年明けには何とか配備を終えたいと考えています。更に、かかりつけ医による検査も出来るようにしようという事で、10月末現在、集合契約で1409カ所、直接契約で688カ所の診療所と契約しています。年明けには合計すると2300カ所以上でPCR検査が出来るようになるわけです。

 社会活動や経済活動を進めていくために、どうしてもっとPCR検査や抗原検査を使わないのかと思います。行政検査のPCR検査やクラスター対策で十分という考えは、そろそろやめる必要があります。来年は東京オリンピック・パラリンピック競技大会がありますが、検査をしっかり行わなければ動かしていけません。

■高齢者をいかに新型コロナから守るか

 新型コロナによる70歳以上の死亡率は、1〜5月は24.69%でしたが、6〜9月には5.75%に下がっています。69歳以下の死亡率は、1〜5月が1.22%、6〜9月が0.09%でした。死亡率が下がったのは、PCR検査を拡大した事で早めに診断が付き、重症化する前に治療出来るようになった事が関係しています。更に、アビガン、レムデシビル、デキサメタゾン等の薬をうまく使う事で、重症化が防げている事も関係しています。

 それでも高齢者は若い年代に比べて死亡率が高いので、高齢者をいかに感染させないかが大事です。医療施設や高齢者施設で感染者が出た場合は影響が大きいので、従業員、入院患者、入所者に対して、定期的に検査を行う必要があります。今まではクラスターを追うだけの対策でしたが、それでは無理だと思っています。東京都に対し、こういった事をやりたいと希望を出したところ、高齢者施設における感染対策強化事業という事で、知事がそれに予算を付けてくれました。特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護医療院を対象にした定期的なPCR検査に100%補助が出ます。

 こうした検査を行う事で、高齢者の方が安心して外出したり、施設を利用したり出来るようになります。現在は、多くの高齢者が怖いからと家に閉じ籠もる状態が続いています。高齢者の生活パターンを調べた調査によれば、今年2月には毎日外出する人が60%余りいたのですが、それが35%ほどに減っています。2〜3日に1回あるいは週1回しか外出しない人の割合は増えています。その結果、筋肉量も、人との繋がりも、組織参加も減っています。そういう状況になっているのです。

■受診控えが心配な状態

 受診控えも深刻になっています。特に小児科や耳鼻科については、東京では4〜5月に7割程度の受診控えがあり、現在も3〜4割で続いています。小児科の受診控えでは、乳幼児健診や予防接種を受けていないという問題もあります。新型コロナが怖いという気持ちは理解出来ますが、予防接種の対象となっている病気は、子どもにとっては新型コロナ以上に怖い病気です。

 成人では、生活習慣病の検診や特定健診を受けていない人がかなりいます。それにより、肥満、糖尿病、高血圧等のコントロールが悪くなっている人が、実際に相当数出ています。成人の疾病対策は、早期に見つけてしっかりコントロールする事が大切なので、それが出来ていないのが憂慮されます。そこで、東京都医師会としては、「Go Toドクター!」「Go To健診!」を推進しています。

 2025年から2040年に訪れる超高齢社会に向け、「元気な高齢者であふれる日本」を目指していました。しかし、現在のような状況では、新型コロナのために高齢者のフレイル(虚弱)や認知症が進み、糖尿病や高血圧の管理がうまくいかず、がんも進行した状態で発見されるようになりそうです。たとえ新型コロナが収束しても、かなり悪い状態になっているのではないかと心配しています。

■サージキャパシティを考慮した専門病院

 サージキャパシティというのは、災害時等にしっかり対応するために余裕を持たせておく事です。アメリカには大きな病院船が2隻あり、1隻買わないかという話もあるようです。しかし、アメリカの病院船は大き過ぎ、日本の港ではなかなか接岸しにくい等の問題があります。しかし、発想は間違っていないので、そうした病院を地上に作ったらよいのではないかと考えています。

 1000床クラスの都立病院を作り、平時は入院患者を入れずに空けておくのです。今、都立病院がたくさんあるのに新型コロナの患者さんをどんどん受け入れられないのは、たくさんの患者さんが入院しているからです。そこで、平時は病床が空いている病院を作り、若い医師が手術や救急の処置等を学べるセンターにしておきます。都立病院や民間病院の職員が訓練を受けるのに使うのです。災害が起きたり、感染症が広がったりした時には1000床規模の専門病院として使います。こうした病院があれば他の病院は通常の診療を行えるので、がんの治療も救急医療も妨げずに済みます。今すぐ作るのは無理だとしても作っておいた方がよいと思います。

■今冬の新型コロナ対策

 インフルエンザは今のところ激減していて、この冬はあまり流行しないだろうという予測です。しかし、新型コロナは爆発的に流行するので、発熱患者が殺到すると、病院は機能を維持出来なくなります。そこで、かかりつけ医がしっかり対応しようという事になり、東京都では7月頃から仕組み作りを行ってきました。厚生労働省も、こういう形がいいのではないかという事で、発熱患者を診療する「診療・検査医療機関」を指定しています。そこで新型コロナもインフルエンザも診られるようになっているのです。

 発熱があったら、かかりつけ医に電話で相談していただきます。かかりつけ医がいない人は受診相談センターに相談します。現在、診療・検査医療機関として約3000の医療機関が指定されています。そのうちPCR検査を行うのが2100施設。残りの900は、自分のところではPCR検査は出来ませんが、出来る医療機関を紹介します。

 東京都の場合、インフルエンザのピーク時には、例年だと1日で6万5000件の検査をしています。そのような事態になった場合、2100の医療機関だと1日30件の発熱患者を診る必要が生じます。一般の患者さんに加え、発熱患者をそれだけ診るのは難しいかもしれません。しかし、インフルエンザがこのままなら、何とかなると考えています。年末年始の6日間は、診療・検査医療機関に1日でもいいから開けていただき、しっかり協力体制を作って乗り切りたいと思っています。

 感染拡大を防ぐには、換気や加湿を心掛け、手洗い、マスク、3密を避ける事が大切です。今でも「風邪くらいで休むんじゃない」等と言う職場があるようですが、体調が悪かったら休むようにします。これらを徹底しても感染拡大が収まらなければ、人の移動制限が必要で、そういったメッセージを、国あるいは都がしっかり出す事が大事です。やるべき事は①時短要請②「Go To」の一時中止で、緊急事態宣言はもう出せないでしょう。①と②を併用していくしかないと思います。

 飲食の場の感染リスクが高いという事で、マスク会食等の提案がありますが、これは無理があります。私は「飲みに行くなら10日に1度」と提案しています。飲み会があってそこで感染すると発症は4〜5日目です。発症の2日前から人に感染させる可能性があり、発症後5日間くらいは感染力が高いのですが、その後は落ちてきます。こう考えると、たとえ飲み会で感染しても、10日間ほど空ければ、飲み会で人に感染させてしまう危険性はほぼありません。気の合った仲間と10日に1度飲む分には、飲み会で感染を広げてしまう危険性は低いのです。これで月に3回は飲みに行く事が出来ます。 


尾尻佳津典・「日本の医療の未来を考える会」代表(集中出版代表)「東京都医師会と東京都や国で意見の異なる点があると思いますが、大きく異なるのはどのような点ですか」

尾﨑「東京都には国の厚生労働省に当たる福祉保健局という部署がありますが、東京都医師会は常々ここと緊密なやり取りをしています。また、毎月のモニタリング会議で、知事ともやり取りしながら方針を決めているので、東京都と東京都医師会、それに病院関係の方達とは、かなり密な結び付きがあります。国の方は、分科会の先生方や厚生労働省のアドバイザリーボードの方達が頑張っていますが、位置付けが低く、その意見がなかなか反映されていないように見えます。上の方に行くと、どうしても経済中心の対策になってしまうようです。そういったところが、東京都と国では違っているように思えます」

土屋了介・ときわ会グループ顧問「厚労省の指針等を見ると、インフルエンザか新型コロナか分からない時は、まずインフルエンザを検査して様子を見ると書いてあります。心配なのは新型コロナなのにと思いますが、どうでしょうか。また、第1波の頃は医師が対面で診察して検査が必要と判断しても、保健所が必要なしと言う事がありました。それについてどうお考えですか」

尾﨑「インフルエンザは鼻咽頭拭い液ではなく、鼻腔拭い液でもよい事になってきています。新型コロナについては唾液のPCR検査があるし、抗原検査はインフルエンザと同じ方法で可能です。どちらも比較的安全に検体が採れるので、私は両方やった方がいいと思っています。インフルエンザの典型的な症状があれば、インフルエンザの薬を出して、新型コロナの検査をしっかり行うという方法もありかと思います。保健所の件に関しては、第1波の時は、医師が検査の必要ありと判断したのに、基準を満たしていないから駄目だと言われた例があります。結局、その患者は陽性でした。そういう事があったので、PCRセンターを作ろうという事になったのです。現在は、必要な人が安心して検査が受けられるようになっています」

大槻友紀・草加市立病院皮膚科医長「現在、日本で行われているPCR検査は40サイクルと指定されています。PCR検査は検体に含まれるDNAやRNAを増幅して検出しますが、1サイクルで2倍になるので、40サイクルだと2の40乗で、1兆倍といったレベルになります。普通のPCR検査では30サイクル程度が普通ですし、35サイクル以上だと多くの偽陽性が出るという意見もあります。PCR検査を増やしていく事に問題はありませんか」

尾﨑「ご質問の件について私は専門ではないので分かりません。ただ、いろいろな文献を読んでも、それほど偽陽性が多い事にはなっていないので、検査結果はある程度信用していいでしょう。ただ、感染力のない人を捕まえてしまう事は事実なので、少し感度の鈍い抗原検査を併用して、感染力のある人をきちっと捕まえて隔離する仕組みがいいだろうと思っています」

瀬戸皖一・脳神経疾患研究所附属総合南東北病院口腔がん治療センター長「私の専門は歯科・口腔外科ですが、口腔は新型コロナの最大の感染源と言われています。最近、モバイルのPCR検査が出てきましたが、歯科においてスクリーニングとして検査出来るようにならないかと思っています」

尾﨑「ポータブルで専門の技師がいなくても使えるような検査機器が出てきています。唾液で新型コロナのPCR検査もインフルエンザの検査も出来るようなものもあります。国産である程度数が揃うようになると、歯科領域にも配備した方がいいという話が出てくるのではないでしょうか」

荏原太・すこやか高田中央病院院長「GoToトラベルをエリアごとに行っていますが、局所的に停止する有効性をどう考えますか」

尾﨑「日本医師会の中川会長は、エビデンスはないと言っても、影響しているはずだから止めた方がよいと話しています。あれだけ人が動いていますから、実際にはかなりの感染者が出ていると思います。分科会の先生がステージ3になっているところは止めるべきだと言っています。私は北海道、東京を中心とした首都圏、愛知を中心とした中部圏、大阪を中心とした近畿圏を一斉に止めないと成果は得られないと考えています。3週間でも4週間でも一度一斉に止めて、どのくらい減るかを見るべきです。また、再開する時は近場から始めるとか、検査を併用しながら始めるとか、工夫しながら再開していくべきです」

船津到・三医会鶴川記念病院病院長「家庭内感染が多くなっていますが、我々の施設では在宅医療を行っています。現在、検査は医師が行わなければいけない事になっているので、とても困っています。高齢者施設で定期的な検査を行うという話がありましたが、医師だけでやるとなったら、実際には手が回らないのではないでしょうか。看護師や検査技師等、医療者なら誰でも行えるようにする事は出来ないでしょうか」

尾﨑「高齢者施設に医師がいても掛け持ちが多いので、そのような問題はあると思います。そこで、医師、看護師、技師等でチームを作り、皆で勉強してもらい、検体の採取を出来るようにする等の仕組みを作った方がいいとは考えています。在宅医療や高齢者施設の現場に負担が掛からないように、考えていかなければならない事だと思います」

 

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