日本の医療の未来を考える会

第49回 新型コロナウイルスと戦うために ワクチンについて「知っておくべき新情報」(長谷川秀樹センター長)

第49回 新型コロナウイルスと戦うために ワクチンについて「知っておくべき新情報」(長谷川秀樹センター長)
新型コロナウイルスに対するワクチン接種が、我が国でも進められている。現在承認されているのは、米ファイザー社のメッセンジャーRNA (mRNA)ワクチンだけだが、今後、英アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチン等、いくつかのワクチンが承認されると予想されている。こうした新しいタイプのワクチンについては、各国で接種が進む事により、市販後調査のデータも集積されつつある。3月24日に衆議院第一議員会館で開かれた勉強会では、国産ワクチンの開発にも関わっている国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの長谷川秀樹センター長を講師に迎え、新しいタイプの新型コロナワクチンについて、更には国産ワクチンの開発状況等についても解説して頂いた。

原田義昭・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(自民党衆議院議員)この会はケンブリッジ大学と連携していく事になっています。待望のワクチン接種も始まりました。コロナ禍の中で、医療従事者の皆様の頑張りに心から感謝します。これからもそれに恥じない活動をしていかなければ、と考えています」

三ッ林裕巳「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(内閣府副大臣、自民党衆議院議員、医師)「従来のワクチン政策では、国の予算が乏しかったのは明らかです。国産ワクチンを作るためには、創薬に対する支援をしっかり行っていく事が大切です。今後のパンデミックのためにも、そうした体制を整えなければと思っています」

新型コロナワクチンについて

■新型コロナウイルス感染症について

 コロナウイルスは元々風邪を起こす4種類のウイルスが知られていました。その他にSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)もコロナウイルスが原因です。この2種類のウイルスは肺炎を起こします。新型コロナウイルスは、風邪のウイルスであると同時に、一部の人に対しては肺炎を起こします。両面を持ち合わせているウイルスなのです。

 新型コロナウイルスが発症しても、80%の人は風邪のような症状が出るだけで軽症ですが、20%の人は肺炎に進みます。その中から一部の人が重症になり、更にその中の一部の人が死亡します。新型コロナウイルスが感染した時、体の中で起こる免疫応答で様々な炎症性サイトカインが作られます。それによって、全身性の炎症反応または血管内皮障害等が起こり、全身の多くの臓器に合併症が生じる事になるのです。

■ワクチン開発について

長谷川秀樹 2020年2月の段階で、日本でもワクチン開発を考えなければならなくなり、我々は厚生労働省とどういう戦略でいくかを話し合いました。国内の設備を使って作れる可能性があるのは、抗原となるたんぱく質を大量に生産し、それをワクチンとして使う「組み替えワクチン」だという事になり、その開発を進めてきました。

 海外ではDNAワクチンやmRNAワクチン、あるいはウイルスベクターワクチン等、新しいワクチンが登場しています。病原体のたんぱくを使ったワクチンと異なり、病原体の遺伝子をワクチンとして用いる方法です。遺伝子を接種して体の中で病原体のたんぱくを作り出し、それに対する免疫を誘導するのです。これに対し、組み替えたんぱくワクチンは、遺伝子情報を元にして病原体のたんぱく質を作って、それをワクチンとして使います。新型インフルエンザのパンデミック後、新型インフルエンザのワクチンを作るプラットホームとして整備されたものが国内にありました。

 ウイルスベクターワクチン、mRNAワクチン、DNAワクチン等は、遺伝子情報だけから作られるので、比較的開発しやすいのが特長です。ただ、今までの実績に乏しい面があります。それに対し、不活化ワクチン、生ワクチン、組み替えたんぱくワクチンにはインフルエンザ、麻疹、風疹、B型肝炎、HPV等で既に多くの経験があります。

 国内での新型コロナワクチンの開発状況を見ると、大阪大学とアンジェスが取り組むDNAワクチンは臨床治験第1/2相が終了した段階です。塩野義製薬が主導し感染研も関わる組み替えたんぱくワクチンは、臨床治験第1/2相が昨年12月から始まり、この3月で終了します。第一三共と東大医科研のmRNAワクチンと、KMバイオロジクスの全粒子不活化ワクチンは、今年になって臨床治験が開始されました。IDファーマのウイルスベクターワクチンは、臨床治験開始が予定されています。

■mRNAワクチンについて

 細胞がたんぱくを作る時には、DNAから必要な部分だけをコピーして、それに基づいて作ります。DNAが全体の設計図だとしたら、mRNAは一部分を写し取ったコピーです。このコピーをワクチンとして使うのがmRNAワクチンです。

 ファイザー社や米モデルナ社が開発したmRNAワクチンは、新型コロナウイルスのスパイクたんぱくをコードするmRNAを使っています。mRNAは非常に壊れやすい物質です。これを分解する酵素がどこにでも存在するのです。そこで、ワクチンとして使用するために、mRNAを脂質のカプセルの中に入れて壊れないようにします。ファイザー社のワクチンの保存温度が−70℃なのは、mRNAを壊す酵素が働かない温度にしておくためなのです。

 mRNAワクチンは突然登場してきたように見えますが、実はそうではなく、基礎的な研究は30年ほど前から行われていました。新型コロナウイルスのパンデミックの前に、既にジカ熱、狂犬病、HPV感染症、HIV感染症等で、mRNAワクチンの臨床治験が始まった段階でした。つまり、既にヒトに投与出来る段階のmRNAワクチンがあり、その開発を行っていたのが、モデルナ社や独ビオンテック社(ファイザー社と新型コロナワクチンを共同開発した企業)だったのです。新型コロナウイルスのmRNAワクチンが短期間で出来たのは、そうした下地があったからだと言えます。
長谷川秀樹

 ファイザー社のワクチンの臨床治験は、「ワクチン群」と生理食塩水を打つ「プラセボ群」それぞれ2万人弱の規模で行われ、有効性は95%でした。

 ただ、一般的なワクチンに比べて副反応の頻度が高く、特に局所の疼痛は8割以上の人が訴えています。全身の副反応として多いのは、倦怠感、頭痛、悪寒等で、風邪にかかった時と同じような症状が現れています。

 モデルナ社のワクチンも、有効性は非常に高く、94.5%でした。副反応も同様で、疼痛が高い頻度で現れ、全身症状では倦怠感等が現れています。どちらのワクチンも、重篤な副反応は現れていません。

 これらのmRNAワクチンは、アメリカで昨年12月に接種が始まりましたが、副反応の調査がきちんと行われ、2月時点のデータがまとめられています。この段階の接種者は2000万人で、その中の200万人からの報告を集めたものです。この規模でも、副反応は疼痛が70%と多く、他に倦怠感、頭痛、筋肉痛、悪寒等で、治験の時とほぼ同じような割合になっていました。

 重い副反応としてアナフィラキシーがあります。接種100万回当たりの発生数は、ファイザー社製が5回、モデルナ社製が2.8回となっています。アナフィラキシーを起こしたのは平均年齢40歳弱で、主に女性。80%以上にアレルギーの既往がありました。日本ではまだ数万人しか打っていない段階なのに、アナフィラキシーが多いのではないかと言われています。今の段階では副反応の疑いがあるものを全て挙げている事が、1つの原因となっています。そこから精査して確定するのです。また、医療従事者が先行接種していますが、医療従事者に女性が多い事も関係していそうです。

 アナフィラキシーの70%が接種後15分以内に、90%が30分以内に起きています。接種後15分はその場で経過観察。アナフィラキシーの既往がある人は30分の経過観察が推奨されています。

■ウイルスベクターワクチンについて

 ベクターは「運び屋」という意味で、ウイルスで遺伝子を運ぶのがウイルスベクターワクチンです。病気を起こさないウイルスを運び屋として使い、抗原の遺伝子情報を体内に送り込んで、mRNAワクチンと同様に、体の中で抗原となるたんぱくを作り出し、それに対する免疫を誘導します。

 ウイルスベクターは、実はワクチンのために開発された技術ではなく、遺伝子が欠損している遺伝病の治療法として開発されました。1990年代、ウイルスベクターで欠損遺伝子を補うのは画期的な治療法だったのです。

 ところが、治療を受けた人が治療後に死亡したりした事で、暗黒の時代を迎えていました。これを克服して、ワクチンとしての開発が進められてきたのです。mRNAワクチン同様、新興感染症に対するワクチン開発が進められ、特にパンデミックインフルエンザに対しては第1/2相まで終わり、ヒトへの投与が済んでいる段階でした。エボラウイルスに対するワクチンは承認が取れていました。

 最も進んでいるのは、アストラゼネカ社のチンパンジーのアデノウイルスを使ったベクターワクチンです。有効率は70%でした。副反応としては、局所では疼痛が問題で、全身症状では疲労、頭痛、倦怠感が問題となっています。

■今後の検討事項

 接種が始まったワクチンが、どのくらい持続するかは分かっていません。現在出ているデータは、治験修了から短い期間のもので、治験も接種後2〜3カ月の有効性と安全性を見たものだからです。今後更に検討が必要です。

 しかし、非常に有効性の高いワクチンなので、治験でプラセボを打たれた人達が、そのまま放置されるのは倫理的に問題があります。そこで、プラセボ群の人達にもワクチンを接種する事になりました。それにより、長期間での発症の差等が見られなくなる事が問題になっています。これまで接種後3カ月程度の経過は観察されていて、若干の低下はあるものの、まずまずの効果である事が分かっています。

 治験はセレクトした人達で調べていくので、様々な疾患を持つ人を含んだリアルワールドでの有効性を検討していく事も必要です。イスラエルでは接種が進んでいて、60万人規模のデータが集積されています。それによれば、ワクチンで新型コロナウイルス感染症が94%抑えられています。

 変異ウイルスに対する有効性についても検討が必要です。問題となるのは、感染能力が高くなる場合や臨床的に問題がある場合です。臨床的な問題としては、重症化する割合が高くなる、診断法やワクチンや治療薬が効かなくなるといった事があります。国内で見つかっている変異株の90%を占める英国系統は、伝播性が1.5倍程度、入院率も多少高くなっていると言われていますが、ワクチンが効かなくなるという懸念はなさそうです。南アフリカ系統は伝播性に懸念があり、中和抗体が効きにくくなると言われています。ただ、現在存在している変異ウイルスについては、ワクチンを変えなければならないほどの変異ではないと考えています。

 現在、インフルエンザに関しては、粘膜上に抗体を誘導出来る経鼻ワクチンの研究が進んでいます。粘膜表面に抗体を誘導出来れば、感染する前にブロック出来る利点があり、ウイルスに変異があっても有効である事が分かってきています。注射によるワクチンの次に、粘膜で効く経鼻ワクチンの開発が進められているところです。


尾尻佳津典・「日本の医療の未来を考える会」代表(集中出版代表「日本ではアナフィラキシーが多いようですが、どう判定しているのですか」

長谷川「接種した医師の診断により、副反応疑いありとして報告されています。アナフィラキシーが起きた時の対処法は確立しているので、全ての人が治癒していて、大事には至っていません」

荏原太・すこやか高田中央病院院長「市販後調査で妊婦さんのデータはないのでしょうか。また、ワクチンの有効性に人種差はありますか」

長谷川「妊婦さんを含めて接種が進められていて、発表されているのはそういった状態で集められたデータです。人種についてですが、第3相試験は米国とブラジルで行われていて、人種毎の人数も発表されています。人種差、性差、年齢階層、全てにおいてほとんど差がなく、90%以上の有効性であったと報告されています」

橋本瑞彦・ブリッジブックグローバル代表社員「国産のDNAワクチンの開発が進んでいるとの事ですが、変異株が出て新型コロナウイルスのスパイクプロテインが変わってしまった場合、開発はどのように進められるのでしょうか」

長谷川「DNAワクチンについて情報を持っていないので、一般論でお答えします。mRNAワクチンでもDNAワクチンでも、今のワクチンで対応出来ない変異ウイルスが出てきた場合は、新しいウイルスの遺伝情報を元に新しいワクチンを作る事が容易に出来ます。組み替えたんぱくワクチンでも、遺伝情報を変異ウイルスの遺伝情報に変える事で対応出来ます。ただ、変異ウイルスのワクチンを作る事は出来ますが、現在のシステムでは、それをすぐに使う事は出来ません。臨床治験をやり直して承認を得る必要があるからです。これでは相当に時間がかかってしまいます。そこは何とか考えてほしいと、各方面にお願いしているところです」

石渡勇・石渡産婦人科病院院長「アメリカでは、妊婦もワクチン接種を控える必要はないと国がコメントを出しています。妊娠10〜11週までは控え、それ以降はよいとしている国もあります。私自身は妊娠の週数にかかわらずワクチンを接種した方がいいのではないか、と考えています。その点についてはどうお考えですか」

長谷川「イスラエルではかなり接種が進んでいますが、同国の研究者の話を聞いても、妊婦さんが問題になった事は今までのところない、という話でした。接種する事に問題はないし、ベネフィットの方が大きいと思います。ただ、妊娠初期に接種した場合、ワクチンと関係なしに起きたイベントだったとしても、それを明確に区別する事は困難です。そうした事態になる事は避けた方がいいのかな、とは思っています」

舩津到・鶴川記念病院病院長「スパイクたんぱくの形状が変わった時、mRNAワクチンなら、新しいmRNAに替えたワクチンが可能という事ですが、ベクターワクチンではどうなのですか。また、ベクターワクチンの複数回接種を危惧する声もあるようですが、どう考えればよいのでしょうか」

長谷川「ベクターワクチンでも同じで、変異ウイルスのmRNAに替えたワクチンを作る事が出来ます。ベクターワクチンの複数回接種に関しては、まだ分からない事があります。なぜチンパンジーのアデノウイルスが使われているかというと、ヒトがそれに対する免疫を持っていないからです。ただ、ベクターワクチンを接種する事で、新型コロナウイルスに対してだけでなく、チンパンジーのアデノウイルスに対する免疫も誘導されるので、複数回投与でどのような影響が出てくるのか、まだ分からない部分もあります」

舩津「インフルエンザのワクチンだとシールをもらってとっておきますが、新型コロナワクチンでも自分がどのワクチンを打ったのか、きちんと記録しておく必要がありますね。そのシステムは出来ているのですか」

長谷川「記録しておく事は重要です。ただ、システムについては、現在のところ承認されているワクチンは1種類だけですので……」

西村光世・東都クリニック院長「従来のワクチンを日本ではほとんど皮下注で行ってきましたが、新型コロナワクチンは筋注で認可されています。今後、日本で治験を行う時に、皮下注にするような事はあるでしょうか」

長谷川「欧米のワクチンが入ってきましたが、元々治験が筋注で行われ、有効性も安全性も筋注で認められているので、筋注で接種が行われています。これらのワクチンは、従来のワクチンより炎症性サイトカインが出やすいようなので、実際にやっていないので分かりませんが、皮下に接種したら腫れや発赤等、局所の反応が強くなる事が予想されます。筋注だと表面から見えにくいので、腫れや発赤は出にくくなると思います」

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