日本の医療の未来を考える会

第90回 公的支援を活用する為の獲得戦略 情報収集と発想の転換を重視せよ(内閣官房参与 間宮淑夫氏)

第90回 公的支援を活用する為の獲得戦略 情報収集と発想の転換を重視せよ(内閣官房参与 間宮淑夫氏)
物価の高騰や医師の働き方改革による人手不足で、経営環境が悪化している医療機関は少なくないと言われる。深刻化する少子化の他、技術革新やデジタル化に対応する為の経営基盤強化が進まず苦慮している病院経営者も多いだろう。そうした時に頼りになるのが、国や自治体による補助金や助成金等の支援だが、どの様な制度が有るのか分からず、申請も煩雑で中々支援を受けられないといった声も聞かれる。7月23日の「日本の医療の未来を考える会」では、経済産業省出身の内閣官房参与である間宮淑夫氏に、大学や病院に対する補助金等の公的支援を獲得するにはどうすれば良いのか、情報収集の方法や獲得に向けての戦略等について講演して頂いた。

三ッ林 裕巳氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元内閣府副大臣、医師):私も大学病院で医療に従事した経験が有りますが、大学病院は診療や研究、教育を担い、地域の医療機関に医師を派遣する役割が有ります。現在、特定機能病院に承認されれば、診療報酬の加算等の措置が受けられますが、大学病院が地域の医療を支え、研究成果で世界をリードしていく為には、補助金の支出等で国が支援していく事も必要だと思います。

東 国幹氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(衆議院議員、財務大臣政務官):参議院選挙が終わったばかりで、政界は連日目まぐるしく状況が動いています。しかし、年度末の予算編成に向けて、しっかりとした検討を進めていかなければならないのは、言うまでもありません。今、全国から医療関係の皆さんを始め、様々な政策課題の指摘や要望が寄せられています。こうした声に応えられる政治を実現出来るよう励んで参ります。

古川 元久氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員、国民民主党代表代行兼国会対策委員長):大学に対する様々な補助金等の中には消化率の悪いものや、申請が煩雑で、慣れていないと獲得出来ないといったものも有ります。せっかく予算を組んでも、使われなければ意味が有りません。今、医療が崩壊し兼ねないとの危機感が有る中で、国民の生命を守っていく為に何をしなければならないのか、政治家がしっかり考えていかなければなりません。

尾尻 佳津典日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人):講演頂く間宮先生は、経産省の中でも補助金のプロと呼ばれる方です。2年程前に私も補助金について教わりましたが、驚いたのは補助金の数の多さと、金額の高さです。そして、自分達とは全く関係無い様な補助金も、少し工夫をすれば活用が可能になるという事でした。本日は是非、補助金等の獲得に必要な知識や戦略を学んで頂きたいと思います。

講演採録

■誤解が多い省庁の常識や公務員の気質

補助金や支援を求める企業や病院から、「政府や役所の人は冷たい」という声をよく聞きます。「様々な補助制度が有る筈なのに、詳しく教えて貰えない」「所管外だからと、別の部署に行くよう言うだけで、相談に乗ってくれない」と言った不満です。実はこうした民間の方々は、行政の仕組みや考え方を理解していない事が多い。民間では当たり前の事が、行政ではそうではない。逆に行政の常識を民間が知らない事もよく有ります。

例えば、国を企業に例えて、財務省を経理、経済産業省を営業、厚生労働省を福利厚生等と、「同じ組織の部署の違い」の様に捉えている人が多いのですが、そうではありません。それぞれ別の組織体として機能しており、財務省は銀行、経産省は商社、厚労省は病院等、役割も性質も異なる「別法人」だと考えた方が実態に近い。この構造を理解していない為に、同じ政策に対しても「◯◯省と××省では発言内容が異なる」や「△△省の説明は丁寧だが、◇◇省は分かりづらい」等といった指摘が生まれがちです。又、「省庁は縦割り組織で、横の連携が取れていない」と批判される事も有りますが、省庁の所管・守備範囲を重視する常識から言えばそれは当然の事で、寧ろ、複数の省庁の政策に通じた上で、横断的な視点から助言してくれる職員は、極めて稀と言えるでしょう。

時には、同じ省内であっても、部局によって対応が異なるという事も有ります。これも意図的に情報を伏せた訳ではなく、多くの場合自分の部局で忙殺され、手が回らなかったというのが実情でしょう。

こうした事態を避けるには、自ら適切な窓口を探して相談する必要が有ります。しかし、その窓口を見つける事が容易ではない。情報はホームページに掲載されていると言うものの、その構造や用語は複雑で、一般の人は目的の情報に直ぐにはアクセス出来ない場合も多いです。この背景には、行政と民間の間に有る「情報の扱い方」や「必要とする情報へのアクセスの感覚」に大きなズレが有る事が挙げられるでしょう。行政にとっては「公開している=届いている」という前提が有る一方、民間側からは「何処に、どの様に載っているか」が分からないという感じです。

又、民間と行政では、リスクに対する認識にも明確な違いが有ります。例えば、「成功すれば成果はプラス10だが、失敗ならマイナス2」というプロジェクトが有った場合、民間なら迷わず着手するのが通例です。しかし行政は、失敗した時のリスクと責任問題を考えて二の足を踏みます。結果として、成功した時のプラスよりも、リスクの無いプロジェクトを選ぶ傾向に在ります。

予算についての考え方も異なります。企業にとって予算は一種の目標です。状況に合わせて柔軟に費用を見直しながら、目指す利益を上げていく。しかし、役所の予算は、各部署に与えられる「枠」を示し、原則として1年間で使い切る必要が有る。仮に予算の半分しか執行しなかったら、「来年は半分で十分だろう」と判断されてしまう。一方で、活用し切れていない予算も有ります。

行政の考え方には、「役所は絶対に間違ってはいけない」との思いが強い傾向が有ります。それだけに、実行前には慎重になり、指摘も詳細になる。「仮に間違っても、後から修正すれば良い」という考えにはなり難く、何よりも先ずミスをしないというのが役所の基本的な行動原理です。

国と地方自治体の仕組みの違いも理解しておく必要が有ります。国は、国民から選ばれた国会議員が立法を担い、国会の信任により組織された内閣が行政権を行使しつつ政策を進めます。一方、地方自治体は、住民による直接選挙で選ばれた知事や市長等が、政策を遂行します。この為、支援を受ける時に国と自治体では、アプローチの方法を変えなければならない事も有ります。

■行政のスケジュールを理解する

行政は4月から翌年3月迄の会計年度に基づき動いています。この為、支援を希望する場合には、何時から検討を始め、何時申請するかといった時期の見極めが重要です。申請期間等で、行政が各事業者の事情に合わせてスケジュールを変えるという事は先ず有りません。

新しい年度は4月から始まる為、3月末迄に国会や地方議会で予算の議決を得る必要が有ります。予算を審議する国会は、毎年1月に召集される為、政府は予算案を前年の12月には決定しなければなりません。その為、各省庁は8月末迄に各自で必要な予算額を「概算要求」として纏め、財務省に提出し、これを基に財務省が全体の予算を編成します。ですから、各省庁は夏に概算要求を纏める為の最終的な仕上げを行っています。この他、コロナ禍や震災等の非常事態時に組まれる補正予算の中にも、支援策の枠が盛り込まれる事が有る。こうした流れを知った上で予算編成や政策を巡る議論を追っていく事も、補助金の情報を得る為に重要です。

又、国の来年度の政策や支援策を知る手掛かりの1つが、毎年6月に政府が公表する、所謂「骨太の方針」です。これを読む事で、その年の後半から翌年度に掛けて、政府がどの様な政策課題に重点的に取り組もうとしているのかを読み取る事が出来ます。

そしてもう1つ重要なのが、人事異動です。骨太の方針が発表され、7月になると、省庁で人事異動が行われます。担当者が変わると政策の方針も変わる場合が有るので、注意が必要です。

地方自治体の場合は、国の方針を見極める必要が有り、国より1〜2カ月遅れで進みます。2月頃に予算が発表され、3月の議会で議決されるのが通常のスケジュールです。この為、自治体の支援策については、1月末から3月に掛けて、どの様な支援策が打ち出され、議会でどの様な議論がされるのかを注視しておく必要が有ります。

こうして成立した予算を基に、補助金等の募集が行われるのですが、募集時期は制度によって異なります。予算の成立を前提に、2月頃から募集を始めるものも有れば、4月に募集を開始するものも有ります。準備の都合で10月からになるケースも少なくありません。又、1回の募集で予算に到達せず、年に何回か募集する事も有ります。ですから、補助金の活用を検討する際は、年間を通じて募集を見逃さない様注意が必要です。

因みに、今年の骨太の方針の重点目標として最初に挙げられているのは「賃上げ」で、次は「地方創生」です。地方創生関連の補助金は、地方自治体向けの補助金です。つまり、地方自治体と組む事によって、これ迄補助金の対象にならなかった事業でも、支援を受けられる可能性が有るのです。

特に「地方創生」については、石破茂首相が以前から最も力を入れている分野であり、民主党政権時代を含め、歴代政権が注力してきた分野です。そうした事を考えれば、地方創生に関連する支援や補助金等は今後も継続していくと考えられる為、地域と密接な関係に在る病院としては、常に注視すべき分野と言えるでしょう。

同様に防災に関する補助金も、幅広い事業が対象となる可能性が有ります。例として、政教分離で補助金の対象となり難い寺社仏閣が、自治体と防災拠点としての協定を結んだ事で、可能性が広がったケースも有ります。他の事業でも、防災を幅広く捉える事で、補助金を受けられるかも知れません。

他の重点分野としては、インバウンドを中心とした観光産業に対する支援が有ります。観光は、観光庁の在る国土交通省の所管ですが、国交省だけではなく、政府を挙げて取り組んでいきます。具体的には、地域の食や自然文化を生かした観光事業やバリアフリーの推進、オーバーツーリズム対策等が対象です。他にも、農林水産業を成長産業にしていく為の事業、AIや半導体産業、宇宙、海洋といった分野への支援も強化していきます。更に、スタートアップへの支援、特に地方発のスタートアップをバックアップする動きも進んでいます。

女性参画の推進も重点政策の1つに挙げられ、女性が活躍出来る社会の実現を目指していきます。具体的な取り組みとして、安全で質の高い無痛分娩の実現や、女性の負担に配慮した乳がん検診等、医療に関係する分野も含まれています。

■観点を変えて、支援策の上手な活用を

病院が補助金の申請を検討する際、先ず厚労省の制度を起点とするのは自然な発想です。大学病院であれば、文科省の枠組みも視野に入るでしょう。しかし、医療機関が担う役割は医療提供に留まらず、地域作りや防災、女性の就労支援、環境対応等、多岐に亘ります。そうした観点から、内閣府や国交省が指揮を執る地方創生や、経産省や観光庁のインバウンドやDX、リスキリング等、他の省庁が所管する様々な支援制度にも活用の可能性が広がります。

私が経産省に在籍していた時の経験談ですが、省エネ設備導入の補助金制度に、イオングループから全国に在るショッピングセンターの蛍光灯を全てLEDにするという大規模な申請が有りました。勿論、認められました。病院でも、老朽化した設備の更新を機に、省エネ性能の高い機器を導入する等、こうした補助金を受けたケースは実際に有ります。だからこそ、大学や病院の活動や施設の在り方を見つめ直し、医療や教育という枠に囚われず、どの様な切り口や役割が社会に求められているのかを、常に多角的に再検討していく姿勢が求められます。

補助金を実際に申請する際、国は中小企業政策に関して、税理士等の民間事業者を支援機関として活用しています。コロナ禍では、補助金の相談に応じる事業者も随分増えました。こうした事業者に相談しても良いのですが、全ての事業者が病院の実務やニーズに精通しているとは限りません。

もし、何処に相談したら良いのか迷う場合は、取引先の金融機関に相談する方法も有ります。国は地方銀行や信用組合等にも地域の中小企業への支援を要請しています。この為、中小企業を支援するセンター等を設けて対応している金融機関も増えてきました。取引金融機関でしたら、経営環境や実情も理解しているので、安心して相談出来るかも知れません。

最後に、公的支援を検討する時の注意点ですが、国の政策支援はあくまでも切っ掛けです。公的支援を受ける事を目的にするのは本末顛倒です。

新たな事業を構想する際、補助金の獲得を前提に計画を立てると却って難航する事が有ります。「補助金が無くとも実行するが、得られればより効果的に展開出来る」といった設計の方が、概して成功し易い傾向に在ります。中には、補助金を受け易くする為に、事業の中身まで変えてしまうケースも有りますが、それはお勧めしません。

幅広く行政経験の有る私の目から見れば、何かを始めようとすれば、殆どの場合、公的支援を活用出来る可能性が有ります。勿論、制度の対象になっても最終的に採択されない事も有りますが、先ずは柔軟な発想と工夫で申請する事が肝心です。所管官庁が異なるから補助を受けられない、規制が掛かる事業だから難しいと考えるのは得策ではありません。諦めず、役所に具体的に相談すれば活路を見出せる事は多い。具体的な相談をせずに、出来ないと諦めているケースが多い様に感じます。是非、ご自身の組織や活動がより発展する為に、どの様な仕組みや支援が有れば後押しになるのかを言語化し、それを出発点として、行政との対話を始めて頂ければと思います。

行政の担当者は決して冷淡な存在な訳ではありません。制度に忠実であるが故に、皆さんに誤解を与えているかも知れませんが、アプローチの方法を工夫すれば、適切なアドバイスや支援を受けられる筈です。

質疑応答

炭山嘉伸 東邦大学理事長 現在、国公私立を問わず、全国の大学病院は苦しい経営環境に置かれています。診療報酬の引き上げが有りましたが、物価高騰には対応しておらず、働き方改革によって現場の人手不足も深刻で、臨床だけでなく、教育や研究にも影響が及び兼ねない状況です。勿論、厚労省は大学病院の実情を理解し、政策的な支援や、補助金制度の創設等を行っていますが、十分に活用されていない補助金も多い。私達も補助金を活用しようと考えるのですが、獲得する為に何をすれば良いのかが分からず、漸く申請しても中々獲得出来ないのが実状です。具体的にどうすれば、補助金を獲得出来るのでしょうか。

間宮 支援については、当面の運転資金が必要なのか、特定の分野への投資が必要なのか、資金以外の支援が欲しいのかによって方法が異なります。そこを整理して、具体的に相談する事が大切です。働き方改革への対応も縦割りになっていて、所管官庁によって対応が異なるのが実状です。運送業界も医療業界と同様、「2024年問題」と呼ばれる問題が有りましたが、経産省や厚労省で補助金や助成金の仕組みは異なります。この為、業界によって対応がまちまちになっているのは否めない。しかし、現在の政権は、医療・介護業界での働き方にも高い関心を持っています。私も政府の一員として、各省庁の政策を組み合わせながら、少しでもプラスになる事が出来ないかと考えています。

尾尻 働き方改革に関連して、例えば女性が働き易い様に託児所等の保育施設を作りたい時は、どの様に補助金等を活用すれば良いのでしょうか。又、補助金の情報はどの様に開示されるのですか。

間宮 託児所の整備については、地方創生の中の少子化対策としても支援を行っています。実際には、自治体が保育施設を整備する事業者を募集し、自治体経由で国から補助金を受けるという方法が取られます。ですから、病院で保育施設を整備する際も、地域の子供も受け入れて地域に貢献するという形にすれば、支援を受け易くなります。これも、補助を受ける工夫の1つです。補助金の情報開示については、基本的にどの省庁も「新着情報」等としてホームページに掲載しています。募集の開始は勿論、結果についても必ず開示される為、採択結果等を読み込む事は申請の際の参考になるかも知れません。とは言え、1府11省3庁それぞれでホームページの体裁が異なりますから、ご迷惑をお掛けしている事は心苦しく思います。

土屋了介 公益財団法人ときわ会顧問 私達の法人でも、自治体の支援を受けながら、保育所や幼稚園、学童保育等の整備を進めています。そして、仰る通り、補助金に関する情報を得るのが非常に難しい。以前、国立がんセンターに在籍していた頃は、厚労省と情報交換をする機会も多く、補助金に関する情報は直ぐに入手出来ましたが、現在、地方で仕事をしていると、殆ど情報が入って来ません。官報に目を通す等努力しないと情報を掴めず、ホームページで確認しように分かり難く、必要とする情報に辿り着けません。又、本省と地方支局でも得られる情報量が全く違う。東京と地方での情報格差を解消して欲しいと思います。

間宮 国が発信する情報は膨大で、利用者側が中々必要な情報にアクセス出来ない事が有るのは事実です。これは、東京の企業や病院も変わらないでしょう。省庁も改善の努力はしていますが、情報が必要ならば、本省に気軽に問い合わせて欲しいと思います。確かに、直ぐに担当者が見つからず、「その件は、うちの所管ではありません」とたらい回しにされる恐れも有ります。それは職員が真面目で、所管外の事を話してはいけないと思っているからです。しかし、実際の担当者であれば、丁寧に説明を受けられますし、様々な相談も出来ます。ですから、分からない事や知りたい事は、本省に直接聞いた方が良いと思いますし、担当者側も歓迎する事が多いでしょう。又、中小企業に関係する補助金制度等の場合、予め事業者が登録しておくと、補助金等の情報を通知するといった取り組みも行っています。全省庁で同じ対応をするのは難しいかも知れませんが、更に積極的に情報を発信していくべきだと思っています。

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