日本の医療の未来を考える会

第62回 ウイルスの脅威と公衆衛生上の問題 オミクロンの先に、我々は何を見るのか
(ケンブリッジ大学 ラヴィンドラ・グプタ教授)

第62回 ウイルスの脅威と公衆衛生上の問題 オミクロンの先に、我々は何を見るのか(ケンブリッジ大学 ラヴィンドラ・グプタ教授)
現在も世界中で感染が拡大するオミクロン株だが、以前のデルタ株等に比べると重症化リスクは低く、予後は比較的良好だと言われている。今後、COVID-19は収束へと向かうのか、或いは新たな変異株が登場し、再び感染者に重症の病態をもたらすのか。その答えは、未だ明らかになっていない。ケンブリッジ大学のラヴィンドラ・グプタ教授は、HIV患者を世界で2人目となる完治へと導いた事から一躍著明になった免疫治療学研究者である。10月26日に開催した勉強会では、「Pandemic Viruses ‘Old and New’」(新旧のパンデミックウイルス)と題し、ウイルスの脅威と懸念される公衆衛生上の問題について講演頂いた。

原田 義昭氏「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士):本日は、栄えあるケンブリッジ大学からお越し頂き、大変嬉しく思います。本勉強会の目的は医療従事者や民間の皆様のご意見を政治へと吸い上げて行く事です。日本の医療界にご指導を頂きたく思います。

三ッ林 裕巳氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(元内閣府副大臣、自民党衆議院議員、医師):今国会で感染症法の改正が行われ、各病院での病床確保が義務付けられます。本日はこの時宜を得た講演となりました。我が国の感染症対応が諸外国に遅れた事を反省し、しっかりとした医療提供体制を作って行きます。

東 国幹氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(自民党衆議院議員):コロナ禍が続き、右にコロナワクチンと左にインフルエンザのワクチンを打つという季節になりました。今更ながら、国民皆保険制度は有難いと思う日々です。多くの方が感染症対策をして下さっている事に感謝を申し上げます。

和田 政宗氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(自民党参議院議員):自民党では、総合経済対策として、医療に関しては、創薬基盤の整備、細胞医療、遺伝子治療、ワクチンの生産体制の強化等に力を入れて行く方針です。日本を医療大国として輝かせて行く為に、財源を投入して行きます。

尾尻 佳津典「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人):グプタ教授は2020年、米TIME誌の「世界で最も影響力のある100人」の1人に選ばれました。『集中』では、昨年12月に先生にインタビューを致しました。ご多忙の中、日本にお越し頂いた事に感謝します。

講演採録

HIVから学ぶコロナウイルスとの戦い方
■ウイルスと宿主の軍拡競争の歩み

ウイルスは何百万年にも亘り、進化をして生き延びて来ました。1973年にアメリカの生物学者であるリー・ヴァン・ヴェーレンが『鏡の国のアリス』の「赤の女王」の言葉を用いて、ウイルスの進化の仮説を提唱しました。赤の女王(病原体)がその場に留まる為には、全力で走り続けなければならない。つまり、生物体の中では宿主と病原体はせめぎ合いながら、同時に進化している事を意味しています。宿主の遺伝子コードに変異が起きると、ウイルスも一連の変異を起こします。これによって宿主の防御を克服しようとするのです。

ウイルスの進化には、長期的な進化と短期的な進化が存在します。ウイルスが細胞の表面にくっ付くと、哺乳類の細胞はウイルスから防御する為に、テザリンと呼ばれるタンパク質を発現します。テザリンはウイルスを細胞の表面に固定し、取り込んで破壊します。これによって、ウイルスが他の細胞に感染したり、病気が発症したりする事を防ぎます。一方、ウイルスはこれに抵抗する為に、ウイルスタンパク質(VPU)を発現します。VPUはテザリンを細胞の表面から取り除き、他の細胞を感染させます。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は少なくとも4つのVPUを持ち、生き残る為に様々な障壁を取り除こうとしています。HIVは数千年に亘り進化をし続け、ヒトに適応しながら感染を拡大させて来ました。

短期的なウイルスの進化としては、HIVの抗ウイルス薬に対する薬剤耐性が公衆衛生上の問題になりました。世界には約4千万人のHIV感染者がいます。この内の2千万人はアフリカのサハラ地域の住民です。アフリカには大量の抗HIV薬が届けられ、これによって何百万人もの命が救われましたが、同時に、ウイルスが耐性を獲得してしまう事が懸念されていました。

HIVは頻繁に変異をする事で知られているウイルスです。HIVが遺伝子をコピーする時、多くのエラーが生じる為です。抗HIV薬で治療をするとウイルス量が減りますが、患者の飲み忘れ等により薬の血中濃度が低下すると、ウイルスが再増殖を始めます。ウイルスが血中で増えると、HIVはRNAをコピーし、薬剤耐性を持った変異を獲得します。服薬を再開しても、ウイルスは耐性を獲得している為、感染から防御する白血球であるCD4が減り、最終的に患者はエイズを発症します。

従って、HIV感染者では、定期的にウイルス量をモニタリングする事が非常に重要です。少なくとも年2回のモニタリングが不可欠と言えます。この我々の研究を切っ掛けに、WHOは既存の薬剤は耐性が強過ぎるとして、第1選択薬に関する推奨を変更しています。

■HIVの治癒の成功

2008年に初めてHIVが治癒したとされる「ベルリンの患者」が知られています。この患者は白血病を発症し、治療の為に造血幹細胞移植を行いました。1990年代の初期に、CCR5遺伝子に変異を持つ人はHIVに感染しにくい事が示されています。この遺伝子の欠損はCCR5遺伝子のデルタ32と呼ばれ、ヨーロッパの人口の約5%が欠損したCCR5遺伝子のコピーを持ち、1%はCCR5のデルタ32のホモ接合体を持っています。ベルリンの患者の治療の成功は、デルタ32ホモ接合体を持つドナーの幹細胞を移植した事によると考えられました。

我々はこのベルリンの患者を再現する為の研究を行いました。そして、2019年に世界で2番目のHIVの治癒を達成しました。この「ロンドンの患者」は、HIV陽性でステージ4のホジキンリンパ腫を患っていました。薬剤治療、細胞移植、骨髄移植は全て失敗していました。幸いにも、デルタ32変異のホモ接合体を持つドナーが見つかり、幹細胞移植を行いました。移植から16カ月後に抗HIV薬の投薬を中止しましたが、活性の有るウイルスは検出されず、リンパ節と腸の白血球の遺伝子配列にHIVの破片が少し残っているだけでした。この患者はHIV治療を休止してから5年以上経過した現在も再発はなく、現在生存している唯一のHIV治癒例になっています。

■慢性感染の患者の中で新たな変異が生まれる

丁度ロンドンの患者の研究を終えた20年頃、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が出現し、パンデミックへと発展しました。HIVは血液を媒介とするウイルスで、SARS-CoV-2は呼吸器系のウイルスですが、この2つのウイルスには、共通点が有りました。HIVはこれ迄知られている中で最も高度に変異をしたウイルスです。ウイルスの変異こそがHIVを根絶出来ない理由の1つです。そして、SARS-CoV-2も同様に変異を繰り返しています。

当初、SARS-CoV-2はHIVと異なり、遺伝情報を持つRNAをコピーする酵素であるポリメラーゼに校正機構が有る為、HIVの様な変異は起こりにくく、急性感染しか引き起こさないと考えられていました。しかし、20年3月になると、HIVと同様に慢性的な感染が報告される様になりました。

我々は、免疫抑制剤で治療中のリンパ腫のコロナ感染患者の治療に当たりながら、100日間に亘るウイルスの変遷を観察しました。この患者は20年4月頃にSARS-CoV-2に感染し、3カ月間、SARS-CoV-2が持続陽性となりました。レムデシビルを投与後、COVID-19の回復者の抗体を含む回復期血漿(CP)により治療を行いました。CP点滴の後、1カ月間は変異が見られませんでしたが、その後次々に複数の変異が生じ、治療に対する耐性が示されました。

ウイルス変異は、リンパ腫やHIV、あるいは免疫抑制剤で治療を受けている患者の中で、慢性感染を通して起きる事が分かったのです。これらの患者は基礎疾患を治療し、ワクチンを接種する事が重要です。

■変異株にはブースター接種・多価ワクチンで対応

SARSウイルスは非常に大きなウイルスで、遺伝子コードに3万個位のデータが含まれています。その中で生物学的に重要なのが、スパイクタンパク質です。このタンパク質はヒト等の宿主の標的細胞に在るアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と呼ばれる受容体に結合する事で、細胞の中に侵入し、鼻、喉、肺に感染しようとします。これに対し、宿主の抗体はスパイクタンパク質がACE2に結合するのを阻害し、ウイルスの侵入を防ごうとします。抗体はワクチン接種によって作る事が出来、ウイルスの活性を中和する事から、中和抗体と呼ばれています。

最初の変異株であるアルファ株が出現した時、ワクチンの効果が無くなるのではないかと懸念されていました。我々の実験で、変異の無い野生株の場合と比べて、アルファ株に対して1回の接種ではワクチンの効果が2分の1程度まで低下する事が分かりました。

そして、ワクチンの効果が弱まっていた中、デルタ株が出現しました。デルタ株はアルファ株よりも感染力が強く、アルファ株の100倍から1000倍の速さで、様々な細胞や組織に拡がります。その為、ワクチンによって作られた抗体では、デルタ株の感染を阻止する事が出来ませんでした。我々がデルタ株のブレイクスルーを報告すると、アメリカの疾病対策予防センター(CDC)はガイドラインを変更しました。これ迄はワクチンを接種すればマスクは不要としていましたが、やはりマスクは必要であると。

21年末にインドで出現したオミクロン株は、数多くの変異を起こし、嘗てない程に拡がりました。デルタ株よりも更にワクチンの効果が薄れ、2回目の接種後も、時間が経過すると中和活性能力が低下する事が分かりました。しかし、3回目の接種(ブースター接種)により、中和活性能力が上がる事が分かりました。他の研究でも、3回目の投与後では抗体の幅が拡がり、大きく変異したスパイクタンパク質をも認識する様になる事が確認されています。4回目の接種では、更に大きな効果を得られる事が示唆されました。

変異の発生をワクチンで止める事は出来ませんでした。又、ワクチンが新たな変異を生んだ可能性も有ります。しかし、それに対して防御をして行く必要が有るのです。2回の接種により重症化を抑える事が出来ます。3回の接種は特に高齢者の重症化を予防する為に重要で、4回の接種はオミクロン株に対する効果は低いと考えられますが、免疫低下者や高齢者では有用だと思われます。

現在、1つの変異だけでなく複数の変異株に対応するワクチンの開発が進められています。その1つの例がオミクロン株と武漢株の2価ワクチンですが、動物からヒトへの新たなウイルスの伝播を防ぐには、複数の系統のウイルスのスパイクタンパク質を標的とする汎コロナウイルスワクチンが必要です。

■細胞融合率・細胞指向性が重症度と関連

ウイルスのスパイクタンパク質はACE2と結合して細胞内に侵入し、感染を引き起こすと前述しました。最初の3つの懸念される変異株(VOC)であるアルファ株、ベータ株、ガンマ株には、この重要なACE2との結合部の変異であるN501Yの変異が見られました。ウイルスは宿主との結合親和性を高めて、感染性を向上させようと進化しているのです。この変異はオミクロン株でも見られ、ACE2との結合性がより強固になっている事が分かっています。

一方でオミクロン株は、入院患者や重症患者の数がデルタ株よりも、遥かに少ないという報告が南アフリカから有りました。日本の研究では、オミクロン株とデルタ株のウイルスに感染させたハムスターの肺を観察したところ、デルタ株の方がより深刻な炎症と重症の病変を引き起こした事が報告されています。

スパイクタンパク質には、細胞同士を融合させる働きが有ります。細胞が融合すると炎症を引き起こす事から、細胞融合率は重症度に関連すると考えられます。HIVウイルスを培養細胞に感染させると巨大な細胞になります。SARS-CoV-2では、オリジナルの武漢株の細胞融合率は約50%、デルタ株は約60%、オミクロン株は10%以下です。COVID-19の死亡例では、こうした融合細胞が確認されています。

又、重症度の違いは、ウイルスがどの細胞に、より感染し易いかという細胞指向性「トロピズム」と深い関連が有りました。東京大学医科学研究所の佐藤佳教授の研究室で行った実験では、鼻の上皮細胞ではデルタ株もオミクロン株も同じスピードで感染が起きる事が示されました。一方、肺細胞では、オミクロン株はデルタ株よりも、感染効率が10倍から100倍以上も低い事が分かりました。当初SARSは重症の肺炎と低酸素症を引き起こし、死に至らしめる事が知られていました。オミクロン株では、細胞指向性が肺細胞から上気道にシフトした事により、重症化率が低下したと考えられます。

細胞指向性の違いは、ウイルスの侵入経路の違いにも関係しています。オミクロン株の場合は、ACE2を介した侵入の他に、インフルエンザも利用するエンドソームと呼ばれる小胞を介した経路によって、細胞内に侵入します。

■薬剤耐性に対応する新規薬剤と併用療法が必要

現在迄に、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株の5つがVOCに指定されています。我々は、こうしたウイルスの変異には、免疫回避と、複製効率や感染力を高める為の物が存在する事を発見しました。ウイルスは宿主に適応する為に、抗体に対する耐性を強め、次の変異で感染性を回復させるのです。感染力の高いオミクロン株の次には、再び肺に感染して肺細胞の融合を引き起こす能力を持つ変異株が出現する可能性が有ります。だからこそ、ワクチンを打ち続ける事が重要です。又、現在COVID-19治療薬としてパクスロビド(ファイザー社)等が存在しますが、今後、薬剤耐性を獲得したウイルスの登場が懸念されます。これに対応して行くには、更に多くの薬剤が必要であり、HIVと同様に、これらを併用する治療法が必要になるでしょう。

質疑応答

荏原太・医療法人すこやか高田中央病院糖尿病•代謝内科診療部長 サイトカインストームという病態、マイクロバイオーム、PCR検査の限界について教えて下さい。

グプタ サイトカインストームはSARSへの感染によって起こる炎症で、制御出来ないレベルを超えてサイトカインが大量に増えてしまった状態です。これはマクロファージによる炎症の結果だと考えられていますが、個人的には、SARSによる低酸素状態がこれを引き起こすと考えています。マイクロバイオームが予後に影響するかどうかですが、免疫系に作用する事から関係は有るのだろうと思います。PCRは感度の高いテストですが、PCR検査の検出を逃れる変異株が出て来る可能性は有ると思います。

高松順太・高松内科クリニック院長 日本ではずっとマスクをしていますが、これは必要な事なのでしょうか。

グプタ イギリスではあまりマスクをしていませんが、マスクを着用するのは良い事だと思います。ワクチンのブースター接種の接種率は下がっていますし、免疫も低下しています。特に高齢者は軽症でも病院を受診しますし、冬になるに従って医療機関の負荷が上がって行きます。感染者を減らす事で、病院に来る人の数を減らす事が出来ます。

土屋了介・公益財団法人ときわ会顧問 100年前のスペイン風邪では、死者は多く出ましたが、ワクチンが無い時代にも拘らず3年程で収まっています。日本の江戸時代や平安時代にもやはり、所謂「流行病」が有ったそうですが、それも3年位で収まったと聞きます。こうした事を考えると、新型コロナウイルスも今年の終わり位に収束するのではないかと期待を抱いてしまいます。

グプタ スペイン風邪というのは新しい変異株の様なもので、段々と力が弱まり季節的な風邪になりましたね。コロナウイルスでも同様の事が起こるかも知れません。ただ、人体には留まり、高齢者や免疫不全の方にとっては、コロナウイルスが在り、インフルエンザも在るという大変な時代になりました。更に、もっと重篤な病気を引き起こす、又別の新しいウイルスが出て来ないとは限りません。問題は、慢性感染によって変異が起こる事です。コロナウイルス患者の内の5%は長期感染するという結果が出ています。これはかなり高い割合です。新たな変異株が出現する可能性も有りますので、未だ楽観視は出来ない状況です。

甲能直幸・立正佼成会附属佼成病院総院長 5%が慢性感染に移行するというお話ですが、慢性感染を予防する方法は有るのでしょうか。

グプタ HIVの場合は早期に診断を行う事が大切です。診断が遅れると、免疫不全を引き起こし、SARSの慢性感染に繋がります。免疫低下は、糖尿病や腎疾患でも起こります。こうした人達を守る為にはワクチン接種が部分的に有効です。若しくは、6カ月間効果が持続するモノクローナル抗体の投与が選択肢として考えられますが、これを多くの人に注射する為には非常に大きな労力が掛かります。ですから、簡単に世界全体の人々の感染を予防する方法というのは、今のところ考えられません。

船津到・医療法人社団三医会理事長 感染の波がピークアウトする理由として、ウイルス自体のコピーエラーによって死滅する可能性は有るのでしょうか。 

グプタ ウイルスが変異によって自滅するかどうかですが、ウイルスは防御を回避する方法を学んで行く訳ですので、その様な事は無いと考えます。又、国によってはワクチンを全く接種していない国も在りますので、ウイルスはこうした集団で生き続けます。そして、変異が起こる訳です。

原澤茂・社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会支部長 現在日本では第7波が収束に向かっているところですが、ヨーロッパの状況を見ていると、又直ぐに次の波がやって来ると考えた方が良いのでしょうか。

グプタ 波が小さい事は皆さんがマスクを着けている結果だと思います。ヨーロッパではマスクが義務化されていない為、その様に感染が起きている訳です。BA5の波の後、日本では何が起きるかという予測は困難ですが、マスクの着用を続けて行けば、次に波が来るかどうかはそれ程重要では無いと思います。

平井由児・東京医科大学八王子医療センター 感染症科教授 日本の臨床では、ウイルス培養を行っていない為、ウイルスが生きているか死んでいるかを判定する事が出来ません。現状、慢性の感染を起こしている患者さんを区別出来ない状況です。

グプタ ウイルス培養では、ウイルスの活性、つまり感染力が有るかどうかが分かります。例えば、感染力が無い事が分かれば、PCR陽性であっても、1週間或いは10日経てば外に出る事が出来るという事になります。しかし、培養には非常に時間が掛かりますので、そういった運用は難しいでしょう。確かに慢性的な感染では、PCR検査が真の感染を反映しているかどうかが分からなくなります。今現在、そういった患者さんを特定しようという研究も有りますが、もっと系統的・体系的なアプローチも有るのではないでしょうか。

邉見公雄・NPO法人地域医療・介護研究会JAPAN会長 お答えにくい質問かも知れませんが、新型コロナウイルスはやはり武漢の海鮮市場から発生したのでしょうか。

グプタ 色々な事実が出て来ていますが、最終的には分からないと思います。どれがウイルスの始祖であるかを証明出来ないからです。ある動物からSARSウイルスが検出されたとしても、それがこのウイルスの発生源であるという事は証明出来ません。その市場では確かに非常に多くの感染者が出ましたが、それは単に人口密度の高さを反映しているだけかも知れません。近くには武漢の生物学研究所が在り、コロナウイルスの研究をしていた事は確かです。ラボで何らかの事故が起き、感染した人が市場に行っていた事も考えられます。様々な可能性が有り、はっきりとした事は分からないと思います。

本間之夫・日本赤十字社医療センター院長 慢性感染に於いて、ウイルスは免疫回避をしながら肺等の細胞の中で生き続けるという事ですが、そこからウイルスが細胞の遺伝子に自らの遺伝子情報を組み込んで生き残るという事は、よく有る事なのでしょうか。

グプタ HIV同様に、ウイルスがヒトのDNAに統合されるかどうかという事ですが、答えはノーです。何故かと言うと、HIVにはインテグラーゼという特殊な酵素が有り、インテグラーゼが無ければ、HIVはDNAを組み込む事が出来ません。勿論、別の方法によってヒトのゲノムに侵入するという事は有り得るかも知れませんが、そういった事が出来るウイルスは今のところHIVウイルスだけであり、他のウイルスでは証明されていません。

尾尻 本日は大変素晴らしい講演になりました。大変忙しい中に来日して頂き、本当に有難うございます。ところで先生は沢山の論文を発表されていますが、どの様な時間に論文を書かれているのでしょうか。

グプタ 勤務時間が非常に長い為、夜間や週末にどうにか時間を捻出して書いています。研究をするには助成金が必要ですので、その為にも沢山の論文を執筆する必要が有ります。ただ、その結果として研究をする時間が短くなってしまうというジレンマも有ります。

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