日本の医療の未来を考える会

第34回 世界をリードする「内視鏡診断支援AI」 その可能性と実用化までの遠い道のり(多田智裕 氏)

第34回 世界をリードする「内視鏡診断支援AI」 その可能性と実用化までの遠い道のり(多田智裕 氏)

世界をリードする「内視鏡診断支援AI」
その可能性と実用化までの遠い道のり

消化器内視鏡医学の分野で日本は世界を大きくリードしている。その強みを生かして開発が続けられてきた内視鏡診断支援AI(人工知能)が完成に近づいている。6㎜以上の胃がんを98%の精度で発見、1画像の診断に要する時間は0.02秒。この性能で内視鏡検査を行う医師をリアルタイムでアシストしてくれる。このAIは研究では世界初の成果をいくつも残してきたが、医療機器として実用化されるまでには薬事審査というハードルが残されている。近年、審査期間が短くなったとはいえ、予想される期間は3年弱。半年に1回バージョンアップして進化を続けるAI業界で、3年前の技術で世界のトップに立てるのか。4月24日の勉強会では、内視鏡診断支援AIの開発に携わる医師で株式会社AIメディカルサービスCEO(最高経営責任者)の多田智裕氏に、AIの可能性と承認までの問題点について語っていただいた。

尾尻佳津典尾尻佳津典・「日本の医療の未来を考える会」代表(集中出版代表)「画像診断での見落としがニュースになっていますが、それが患者さんの死亡に繋がったり、大きな訴訟になったりしているようです。画像診断にAIが導入されることで、そういったことが少しでもなくなるのではないかと期待しています」

三ッ林裕巳三ッ林裕巳・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(自民党衆議院議員)「厚生労働委員会で医薬品医療機器等法の改正の審議が行われていますが、現在の医療機器開発のスピードに薬事審査が追い付いているか、という問題があるようです。スピード感を大切にした法改正を行っていく必要がありそうです」

AIによる内視鏡画像診断

■AI実用化は画像診断分野から

 私は内視鏡医を20年やっておりまして、最近は医療ベンチャーを立ち上げ、内視鏡診断AIの開発を行っています。

 医療分野において、AIはどのように位置づけられているのでしょうか。

 今年4月の厚生労働省「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」の資料では、期待できる分野として画像診断支援分野が挙げられています。AIは医療のいろいろなところで使われると考えられていますが、最初に入ってくるのは画像診断支援分野です。その理由は、画像診断はAIが最も得意とする作業だからです。

 私どもが内視鏡診断AIの開発を行うことにしたのには、もう1つの理由があります。それは、日本の内視鏡技術が世界一だということです。オリンパス、富士フイルム、HOYAの3社で世界シェアの約7割を占めています。

 内視鏡は日本で開発された医療機器で、埼玉県さいたま市にある宇治病院の宇治達郎先生によって開発され、オリンパスと共に全世界に広まっていきました。そうした経緯もあって、日本の内視鏡医は層が厚く、診断技術の高さでも世界一のレベルを誇っています。

 AIの開発には教師データが大切ですが、日本には内視鏡の世界一のデータがそろっているのです。こうしたことから、内視鏡の画像診断支援分野は、日本が強みを生かせる分野であるといえます。

普通の内視鏡で使えるAIの開発が必要

 内視鏡AIというと、「EndoBRAIN(エンドブレイン)」を思い浮かべる方が多いかもしれません。オリンパスが開発した世界初の超拡大内視鏡専用AIです。2018年12月に承認され、今年3月に発売されました。

 グーグルなども参入し、業界地図が大きく変化するのでは、などと報じられています。しかし、オリンパスのホームページを見ると、エンドブレインの販売目標は3年間でわずか260本だそうです。なぜなら、超拡大内視鏡は1本が800万円ほどします。普通の内視鏡が200万〜300万円ですから、数倍もする価格のためにあまり普及していないのです。エンドブレインの販売目標がわずかなのも、そのためでしょう。今後は普通の内視鏡で使えるAIの開発が主戦場となっていきます。

 そこで問題となるのは、薬事審査です。エンドブレインは今年3月に発売されましたが、開発が終了したのは2016年6月でした。3年かからずに販売されたのは、医療機器としては速いのかもしれません。

 しかし、AIは半年に1回くらいのペースでバージョンアップしていますから、審査に3年近くかかってしまうと、AIの進化には全く付いていけません。これが実情です。
日本の医療の未来を考える会

AIは医師が使いこなす道具である

 今年4月に『朝日新聞』が、私どもの内視鏡AIを記事に取り上げてくれました。きちんとした記事になっていますが、見出しが「生存率の予測 医師かAIか」となっています。こういう取り上げ方をされることがよくあるのですが、医師とAIの関係は「医師vsAI」となるわけではありません。AIが医師に取って代わるのではなく、医師がAIを使いこなすことで、より良い医療を実現できるようになるのです。

 私どもは、内視鏡診断AIの開発を、世界のトップを切って進めています。『GIE(Gastrointestinal   Endoscopy)』は消化器内視鏡分野では世界最高峰の医学雑誌ですが、2019年1月号の表紙を飾ったのが私どもの研究でした。

 学会でも数々の発表を行ってきました。2018年10月にウィーンで開かれたヨーロッパ消化器内視鏡学会は、世界で2番目に大きな消化器内視鏡学会ですが、内視鏡AIセッションで採択された6演題のうち、3演題が私どもの研究で、もう1つが国立がん研究センター東病院の研究でした。日本の内視鏡AIが世界的な学会を席巻しているのです。世界で最も大きな学会はアメリカ消化器内視鏡学会で、5月に開催されます。ここでも、私どもは12演題が採択されています。

 今後、AIは医療のいろいろな分野に入ってきます。画像診断、検査の解釈、鑑別診断、治療方針、手技のサポートなどで使われるようになると考えられています。

 ただ、いろいろな分野で使われるようになっても、あくまで最終診断を下すのは医師であり、AIは医師の診断を助ける便利なツールにすぎません。そして、AIを使いこなすことが、より良い医療の実現に繋がります。将来は、AIを使う医師と、AIを使わない医師の間に、大きな差が生まれてくると考えられます。

始まりは現場の困り事だった

 私はさいたま市でクリニックを開業しています。さいたま市は胃カメラ発祥の地なので、7年前から市民検診で胃の内視鏡検査を行っています。なぜそれが可能だったかというと、内視鏡医の層が厚かったからです。

 ただ、それでも撮影した画像をダブルチェックするのは非常に大変です。現在の内視鏡検査では、1人につき40〜50枚の画像を撮影します。さいたま市の人口は130万人で、私が所属する浦和医師会の担当分だけで、年間4万人ほどが検査を受けています。つまり、年間200万枚近い画像をダブルチェックする必要があるのです。

 人間の目には限界があって、1回に3000枚くらい、つまり70人分くらいの画像を見るのが限度です。それ以上は集中力が続きません。200万枚の画像をダブルチェックするために、専門医全員で手分けして、1年がかりで行っている状況です。現場の医師達は頑張っています。私自身も夜7時まで外来をやった後、8時頃から9時まで、この仕事を行っています。内視鏡で撮影する画像は増えているのに、内視鏡医の数は横ばいですから、大変になるのは当たり前です。

 そこで、AIの画像認識能力が人間を上回っているのなら、AIを使ってダブルチェックするソフトを作れないだろうか、と考えたのです。2016年時点では、内視鏡診断AIを開発した人はまだいませんでした。

 そこで、まずは研究でどのくらいできるのかを試してみました。それらの研究が世界初の成果ということだったのです。

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