日本の医療の未来を考える会

第64回 人口減少と超高齢社会を見据えた 医療・福祉改革と人材確保の方向性
(厚生労働省医政局総務課 医療政策企画官 古川 弘剛氏)

第64回 人口減少と超高齢社会を見据えた 医療・福祉改革と人材確保の方向性(厚生労働省医政局総務課 医療政策企画官 古川 弘剛氏)
超高齢社会と人口減少の時代に突入した日本にとって、社会構造の変化にどう対応して行くのかは重要な課題の1つだ。医療業界も例外ではなく、病院機能の役割分担や医療従事者の働き方改革、医療・福祉のDX等課題が山積しているが、国は医療分野の改革にどの様に臨むのか。2023年度予算を審議する通常国会が開会したのを受けて、医療分野での23年度税制改正の概要の他、医療提供体制の改革の方針等について厚生労働省医政局総務課医療政策企画官の古川弘剛氏に講演して頂いた。

三ッ林 裕巳氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(衆議院厚生労働委員長、元内閣府副大臣、衆議院議員、医師):23年度の税制改正では、医療法人や病院への優遇措置の延長等が盛り込まれました。コロナ禍によって多くの医療従事者が大変な苦労をしている中、更なる税制措置で医療機関等を支えて行く事が必要です。

 

和田 政宗氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(参議院議員):議員連盟を立ち上げて実現に漕ぎ付けた不妊治療の保険適用ですが、先日、医師と意見交換をした所、若い不妊治療患者が増加していると聞きました。今後も国難である少子化からの転換を目指して行きます。

東 国幹氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(参議院議員):国会では防衛予算が議論になっていますが、全国津々浦々で健康な国民が働ける事も、国を守る上で重要です。少子化対策や医療・福祉の政策も日本の国の形を方向付ける上での最重要課題と思っています。

尾尻 佳津典「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人):岸田文雄・首相が次元の異なる少子化対策を打ち出しましたが、少子化問題を学べば学ぶ程、将来日本が消えて行くのではないかとの懸念が増します。強い政治のリーダーシップでの解決を望みます。

令和5年度税制改正の概要と今後の医療提供体制の改革について
■5項目の税制改正を実施

最初に2023年度の税制改正を説明します。大きく5項目が有り、1つ目は地域医療構想の実現に向けた税制上の優遇措置の延長です。現在「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律(医療介護総合確保法)」の認定再編計画に基づいて医療機関が不動産を取得した場合、移転登記等の登録免許税の税率が2分の1に軽減されますが、その措置を3年延長します。

2つ目は医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長です。医療法人は06年の医療法改正で、医療法人を新設する場合には「持ち分なし」の医療法人である事が前提となりました。現在有る医療法人の6割から7割が「持ち分あり」となっていますので、これら医療法人の「持ち分なし」への移行を進める為、優遇税制措置を設けています。

具体的には、「持ち分あり」から「持ち分なし」へと移行する際に、出資者が持ち分を放棄した場合に生じるみなし贈与税を非課税にする優遇措置等を設けています。措置の対象は厚生労働大臣に移行計画を提出して認定を受けた医療法人に限られ、認定制度も26年12月末迄延長し、移行迄の期間も現行の3年以内から5年以内と緩和します。

次が医療提供体制の確保に資する設備の特別償却制度の延長です。これには対象が3つ有り、1つ目が医師や医療従事者の労働時間短縮の為の機器、2つ目は地域医療構想の実現の為に病床再編等を行った際に取得した建物等、3つ目は500万円以上の高額な医療用機器です。現在、特別償却が認められていますが、2年間延長します。

税制措置の4番目は、試験研究を行った場合の法人税額等の特別控除制度です。試験研究費を増やした場合、増やした割合が高ければ高い程、控除上限が引き上げられたり、控除率のインセンティブを増したりする形に制度を見直した上で延長します。現行は試験研究費の増減に拘わらず最大25%控除出来る制度ですが、前年比で試験研究費が12%以上増加していれば控除の上限を30%に引き上げる。逆に12%減少すれば20%に引き下げます。税額控除率のカーブも見直し、研究費を増やした方がより控除率のメリットを得られる様にします。試験研究の特別控除措置も3年間の延長です。

5番目は健康保険法の出産育児一時金の引き上げに伴うものです。現在、1分娩当たり原則42万円支給されていますが、社会保障審議会医療保険部会で、23年4月から50万円に引き上げるとの議論がなされています。法令改正を前提に、増額後も全額非課税措置を継続します。

又、変更ではありませんが、社会保険診療報酬の非課税措置、医療法人の社会保険診療報酬以外の軽減税率措置は存続が決まりました。措置は税負担の公平性や地域医療の確保の観点から、かねてから見直しが税制当局から求められています。今後も引き続き検討が続けられます。

■医療需要の変化に対応出来る体制を目指す

医療提供体制を取り巻く状況ですが、22年から所謂団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になって行き、25年に向けて高齢者人口も急速に増加して行きます。

更にその後は40年頃迄65歳以上の人口が増加して行く事が予測され、15年の人口動態推計によると、15歳以上65歳未満の所謂生産年齢人口が大幅に減少して行き、75歳以上は40年、50年辺りにピークを迎えた後、緩やかに減少して行きます。つまり、高齢者が増加して行く一方で、支え手の生産年齢人口が急に減少して行き、全体の人口も減少して行く。

医療業界でも高齢化は進みます。ここ20年で医師数は約5.5万人増加していますが、60歳以上の医師の占める割合も15%に迄増大しました。平均年齢も44.8歳と約4歳上がっており、診療所だけを見ると医師の平均年齢は60歳。60歳以上の割合も全体の50%に達しています。

又、医療の需要の変化を見て行くと、全国での入院患者数のピークは大体40年頃と見込んでいます。しかし、日本全国各地の状況を見ると、地域によってまちまちです。例えば、中国地方や東北地方、北海道の日本海側等は15年以前にピークを迎えています。一方で、35年、40年に最大になる地域も多い。

他方、外来患者の需要を見て行くと、全国的なピークは25年と見込まれます。ただ、地域別に見て行くと、多くの地域で15年迄にピークを迎えており、全国335の2次医療圏のうち、214の医療圏で20年迄に外来患者数のピークを迎えたと見られます。外来の需要が入院より早くピークを迎える要因は若年層の減少です。

在宅医療の需要予測では、全国の多くの地域で35年、40年以降にピークを迎えます。2次医療圏で見ると、40年以降にピークを迎えるのは203医療圏に上ります。

こうした事を踏まえ、個人の医療需要を見ると、医療と介護のどちらも必要とする複合ニーズが今後一層高まって行きます。要介護認定率は特に85歳以上で急激に上昇します。20年の統計で年齢毎に見ると、65歳以上の認定率は18.3%ですが、85歳以上になると57.8%と大体6割になる。22年度以降、団塊の世代が75歳以上になる事から、10年後には介護認定を受ける人の急増が予想されます。医療と介護の複合ニーズに対応出来る様な体制が必要になります。

更に病院から退院する患者は、退院した後自宅ではなく、介護施設に行く人が増加します。そうした退院先の確保も今後の課題となって行くでしょう。

■病床再編だけでなく在宅・福祉との連携を視野に

高齢化の現状を踏まえた医療提供体制改革の方向性ですが、大きく2つの軸が有ります。1つはコロナ禍の経験を踏まえ、新しい感染症に備えた体制を構築して行く事です。

先程の臨時国会で成立した改正感染症法・医療法に基づき、平時から計画的に体制整備を推進して行かなければなりません。具体的には、感染症医療を担う医療機関と都道府県との間で役割分担を明確にし、連携強化の協定を結び、医療機関には感染症に対応出来る様にバージョンアップして頂かなければなりません。24年4月から始まる第8次医療計画を都道府県で策定するに当たっては、こうした内容を盛り込む必要が有ります。

もう1つの軸が人口構造の変化に対する対応です。これ迄病床・病棟機能の再編、医療従事者の働き方改革、医師の偏在対策を進めて来ましたが、これらを一体的に進めて行く為に医療DXを推進して行かなければならない。

地域医療構想は25年迄の目標とし、病床病棟の機能に着目していますが、かかりつけ医機能や在宅医療も加えて議論を広げ、40年から50年に向けて構想自体をバージョンアップして行きます。

その為にも医療機関の役割分担を明確にして行く必要が有ります。在宅を中心に入退院を繰り返しながら、最後は看取られる高齢者に対応出来る様な、かかりつけ医機能を有する医療機関を中心とした地域完結型の医療介護提供体制を作って行く事が大方針です。

こうした基本理念を実現する足元の改革の第1弾が、かかりつけ医機能が発揮される制度整備、医療法人制度の見直しであり、今年の通常国会で医療法を改正してその第一歩としたいと思っています。

足元の改革の具体的な内容ですが、1点目がかかりつけ医機能が発揮される制度整備です。現在、患者が病院の選択を適切に行う為に必要な情報を都道府県知事が公表する医療機能情報提供制度が有ります。医療機能の1つとしてかかりつけ医機能も規定されていますが、一般の人が見ても分かりにくく、情報提供の項目を患者側の立場から改めます。休日・夜間や在宅医療への対応、介護と連携しているのか等の実用的な情報を提供出来る様、患者が医療機関を選択し易くなるデータベースを作って行きたいと考えています。

更に、こうした情報を基に、各地域でどの様な医療機関が必要なのか、どの様な分野を強化しなければならないのか、行政サイドで議論して頂きます。必要な法改正が通常国会で成立次第、詳細な議論に入って行く予定です。

医療法人制度改革として医療法人の経営情報データベースの作成も進めます。例えば、物価高騰が医療機関の収支にどの様な影響を与えているのか全国版データベースを基に分析して政策に反映させて行く事を考えています。G-MISでIDが付加されているので、G-MISを通じて医療法人のデータを収集し、マクロデータに置き換えてグルーピングした結果を公表する予定です。

又、地域医療連携推進法人制度の見直しも進めます。複数の医療機関が法人に参画して、協調しながら質が高く効率的な医療提供体制を確保するのが目的の制度ですが、個人経営の事業者は個人資産と事業用資産の区別が難しく、参画出来ない事になっています。そこで、現行とは違いカネの融通はしない形で法人に参画出来るパターンを新たに設けようと検討しています。

締め括りに、次の地域医療構想についての考え方を述べます。今後の医療ニーズの質、量の変化を考えると、これからは病床機能の再編だけではなく、医療機関としての機能の再編にも取り組んで行かなければなりません。更に在宅医療、介護との連携も視野に入れる事が必要です。

地域医療構想に基づく取り組みは一旦2025年で終わりますが、それで終了では有りません。現行の構想より視野や対象も広げて議論を深めて行きたいと考えています。

質疑応答

尾尻 医療法人を「持ち分なし」にすると、代表者が明確ではなく、例えば金融機関から借り入れをするのに不便だという声が有ります。どの様にお考えでしょうか。

古川 確かに「借り入れで不利になる」との指摘も有りますが、多くの出資者が居ると、相続や出資持ち分の払い戻しで医療法人側の急な支出が生じ、経営が不安定になる恐れが生じます。この為「持ち分なし」が原則となりました。

炭山嘉伸・学校法人東邦大学理事長 新型コロナウイルスの感染拡大の状況下で、緊急時の医療の課題も見えて来ました。私達の附属3病院の救急車の謝絶率だけでも、平時の2〜30%が75%位に高まっている。地域医療構想では平時と緊急時を分けて考える必要が有ると思います。

古川 コロナ禍では、地域医療を進めて行く上での現状の課題が露呈したと認識しています。例えば介護が必要な高齢の患者がコロナ感染で入院した時には看護にもスタッフを割く必要が有り、医療体制が逼迫し兼ねない。これは以前からの課題ですが、コロナ禍で一気にクローズアップされた。国も機能分化の議論を進めていますが、各地域で平時から医療機関が話し合い、民主的な形で合意形成して行く必要が有ります。

炭山 国は新型コロナを2類感染症から5類に引き下げる方針ですが、高度急性期病院の立場から言えば、PCR検査もマスクも不要となり、非常に恐ろしい状況になるのではないかと危惧しています。5類への引き下げは、医療体制を十分に考慮し対応して頂きたい。

荏原太・医療法人すこやか高田中央病院糖尿病・代謝内科診療部長 民間病院では、当直する医師が足りない等医師不足も深刻化しつつある。海外から医師を採用する事も考える時期に来ているのではないでしょうか。コロナが5類に引き下げられると、私達の様に1病棟しかない病院でもコロナ患者に対応しなくてはならないのか、対応出来るのかと不安を覚えます。又、高齢者医療は何故75歳で区切って議論しているのか。私達の病院は入院患者の平均年齢は85歳以上です。高齢者医療についてどうお考えでしょうか。

古川 医師の数は、統計的に国内の医師数と患者数の需給が36年頃に一致するとの予測から、現在の医師を上手く配置して偏在対策を行うのが基本的な考えです。これをいかに上手く進めるかという議論をしています。海外の医師の受け入れの議論は、コロナ禍への対応も有って進んでいないのが実情です。コロナ感染症の5類移行は経済的要請によるところが大きく、医療提供体制が急に変わるものではないと考えます。患者は個室管理をしなくていい等という事にも直ぐにはならないでしょう。実情を把握し、段階的に体制を整えながら移行して行くべきだと考えています。高齢者の75歳は統計上の区分です。85歳以上の6割が要介護認定を受けている実態も有り、85歳以上の医療の在り方を見据えて行かなければなりません。ただ、地域医療の実態は地域毎に異なっており、都道府県や、各地域の二次医療圏等毎に議論して頂き、地域で大きな課題を抱えている場合は国が介入する伴走型の形で体制作りを進めて行きます。

宮本隆司・社会福祉法人児玉新生会児玉経堂病院院長 日本の少子化は危機的な状況で、子供を増やすにはヨーロッパの様に婚姻制度や戸籍制度を見直すしかない。フランスやドイツ等では事実婚も多く、出生した子供の内の4割以上を婚外子が占めている国も有る。日本では支援金の議論ばかりで、こうした制度の見直しが全く議論されていません。又、私達の病院は3年前に急性期医療をやめ、療養型病床に特化した。今後も各病院は生き残りの為に機能を見直して行く必要に迫られます。国も同一地域内の国公立病院、大きな私立病院の統合を進めて行く等、病院機能のタスクシフトに取り組むべきではないでしょうか。

古川 少子化対策や戸籍制度の見直しは、政府全体で取り組む課題だと思っています。病院機能のタスクシフトは重要な課題です。急性期から慢性期に移行する等といった需要は、今後も増すでしょうし、病院にもそうした考えを持って頂くのは非常に有難い。国立や公立、私大病院が集中している地域では、地域医療連携推進法人といったスキームも活用して、上手く話し合いを進めてほしいと思います。

土屋了介・公益財団法人ときわ会顧問 地域医療連携推進法人は、地域に有る医療機関を全て残そうという考え方で限界が有る。今後は医療機関の淘汰も起こらざるを得ない。そうした厳しい環境の中で地域医療構想を推進するのは政治家の責任です。厚労省には政策立案に徹し、それを政治家が実現する形を作って頂きたい。又、国公立病院には戦前、結核等の感染症病床としての役割を果たしていた病院が幾つも有ります。戦後に有効な治療法が確立され、隔離病棟が廃止されて行った。こうした経緯を考えると、今回のコロナ禍で国公立病院が感染症患者を受け入れるのは当然で、元々そうした機能が有りました。厚労省には、感染症治療は基本的に公的病院が担う体制作りに取り組んで頂きたい。

本間之夫・日本赤十字社医療センター院長かかりつけ医は診療所等の医師が担う想定だと思うが、患者側はそう思っていない。私達の病院に通院している患者の中には「自分は日赤のかかりつけ患者だ」と思っている人がいて、具合が悪ければ直ぐに日赤で診て貰えると思っています。「かかりつけ患者」の概念も定義付ける必要が有るのではないか。定義が有れば病院側も「かかりつけというのはこう言う事です」と説明出来ると思います。



植田宏幸・社会医療法人財団石心会川崎幸病院事務部長
物価上昇で、病院経営のコストも増大しています。人材確保には賃金水準の確保が必要ですが、物価高でままならない状況です。診療報酬も物価上昇に柔軟に対応出来る仕組みに出来ないものでしょうか。又、地域医療構想を推進する為の国の取り組みを教えて下さい。

古川 地域医療構想は、地域医療構想調整会議で議論が進められており、課題を抱えている構想区域には国も調整会議に参加して意見を述べたりアドバイスしたりしています。要望が有った所にサポートを行う事業で、近く募集も行います。困り事が有る地域は、是非ご応募頂きたいと思います。

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