日本の医療の未来を考える会

第41回 HPVワクチンの 積極的勧奨再開の必要性について(三ッ林 裕巳 先生)

第41回 HPVワクチンの 積極的勧奨再開の必要性について(三ッ林 裕巳 先生)
子宮頸がんワクチンの積極的勧奨を
再開するために何が必要かを考える

子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の接種は、原因となるウイルスの感染を防ぐ事で、子宮頸がんの予防に有用である事が多くの臨床試験で証明されている。世界中でワクチン接種が行われ、その成果が現れ始めているのに、日本では積極的接種勧奨が差し控えられた状況のままになっている。子宮頸がんにより、年間約1万人が罹患し、約2800人が死亡している現状を考えると、積極的接種勧奨を1日も早く再開することが望ましい。1月22日の勉強会では、「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」の2人の国会議員に講演をお願いし、活発な議論が行われた。

原田義昭・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(自民党衆議院議員)「子宮頸がんワクチンは非常に大事な問題で、『積極的勧奨再開を目指す議員連盟』も出来、多くの議員が関心を示しています。現在の状況は極めて異常で、多くの女性がこの病気になっているのを見逃すわけにはいきません」

尾尻佳津典・「日本の医療の未来を考える会」代表(集中出版代表)「厚生労働省がこのワクチンの積極的接種勧奨を止めてから、この状況の危険性について、十分な議論が行われているとは言えません。子宮頸がんワクチンを止めているのは、世界中で日本だけ。本日はこの問題について議論していきます」


HPVワクチンの
積極的勧奨再開の必要性について

——三ッ林 裕巳・自民党衆議院議員、医師

■世界から取り残される日本

 昨年、「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」を立ち上げました。居ても立っても居られないという思いで、多くの議員が集まりました。厚労省にしっかりと働き掛けを行い、積極的接種勧奨の再開に向けて進めていきます。

 現在の日本における子宮頸がんワクチンの置かれている状況については、本庶佑先生(京都大学名誉教授・高等研究院副研究院長・特別教授)が次のように述べています。

 「子宮頸がんワクチンの副作用というのは一切証明されていない。日本でもいろいろな調査をやっているが、因果関係があるという結果は全く得られていない。厚労省からの(積極的接種)勧奨から外されて以来、接種率は70%から1%以下になった。世界で日本だけ若い女性の子宮頸がんの罹患率が増えている。1 人の女性の人生を考えた場合、これは大変大きな問題だ。マスコミはワクチンによる被害を強く信じる一部の人達の科学的根拠のない主張ばかりを報じてきた」(ノーベル賞受賞スピーチ後の記者会見での発言より引用)。

 まさにその通りであると私も思っています。この問題によって、日本は世界から取り残される事になりました。こうなった経緯を簡単にまとめておきます。2013年4月1日に、予防接種法の一部を改正する法律が施行され、定期接種が始まりました。そして、同年6月14日に、第2回予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会で、「ワクチンとの因果関係が否定出来ない持続的な疼痛がワクチン接種後に特異的に見られた事から、国民に適切な情報提供が出来るまでの間、定期的接種を積極的に勧奨すべきではない」とされたのです。そして同日、積極的な摂取勧奨の一時差し控えを決定した旨、報道発表を行うとともに、自治体への通知が行われました。

■ワクチンの有効性は明らかになっている

 我が国では現在、年間約1万人が子宮頸がんに罹患し、約2800人が死亡しており、20〜40歳代の若い世代での罹患が増加しています。積極的接種勧奨の差し控えから6年が経過し、罹患者や死亡者が増えている事が懸念されています。

 子宮頸がんワクチンの有効性は、AMED(日本医療研究開発機構)が新潟県で実施した「NIIGATA STUDY」でも明らかになっています。20〜22歳におけるHPV16/18型の感染率は、ワクチン非接種者では2.2%でしたが、ワクチン接種者では0.2%で、90%という高い有効率である事が明らかになっています。更にワクチン接種前に初回性交があった人を除外すると、ワクチンの有効性は94%である事が明らかになりました。

 子宮頸がんワクチン接種によるといわれている副反応には、頭痛・関節痛・筋肉痛・腹痛等の疼痛、めまい、痙攣、不随意運動、失神、運動障害、認知機能低下、月経不順等があります。接種者338万人(09年12月〜14年11月)のうち、副反応疑い報告があったのは2584人(0.08%)です。発症日や転帰等が把握出来たのは1739人、回復または軽快して通院不要になった人は1550人、未回復である人数は186人(接種者の0.005%)です。

 子宮頸がんワクチンについては、リスクとベネフィットを考えるべきでしょう。副反応とされる様々な身体症状が出るのは、報告によれば10万人当たり92.1人です。一方、ベネフィットに関しては、接種により10万人当たり859〜595人が子宮頸がんの罹患を回避出来、209〜144人が死亡を回避出来ると考えられています。

 こうした事を厚労省にしっかりと訴え、積極的勧奨再開に向けて頑張りたいと思います。

■政治が決めきれないのが問題

 子宮頸がんワクチンの接種はWHO(世界保健機関)が推奨しており、それに応えていないのは日本と北朝鮮だけだと言われています。この恥ずかしい状況は、一刻も早く何とかしなければと思っています。この問題に関して、日本は大きく出遅れてしまいました。

 異常行動などの副反応が出たという事で積極的接種勧奨を差し控えてから、既に4〜5年が経過します。この間にも感染が起きているわけです。10年くらいの潜伏期間があるという事ですが、この間に接種を受けなかった人から、たくさんの患者、たくさんの死者が出る事は確実視されています。積極的接種勧奨の再開はもちろん大切ですが、同時にこの空白期間をどうフォローするかも、大きな課題だと考えています。

 医師の先生方は、このワクチンの有用性をよく理解されているので、残されている問題は政治が決めきれない、という事だと思います。医学的な事は医師の先生方にやっていただく必要がありますが、それを国民の理解を得ながら前に進めていく作業は、政治家が国民と向き合うプロとして、しっかりやっていかなければならないと思っています。医師の先生方と我々政治家が、しっかりタッグを組んで進めていく必要があります。

■副反応が出た人達を見捨てずに進める

 先日私のところに、ワクチンによる副反応が出た子どもの親と弁護士が訪ねてきたので、話を聞きました。娘さんは気の毒だったが、その症状が出た事を理由に、毎年7000人が子宮を切除し、3000人が命を落とすのを容認出来ると思いますかとたずねると、それは望んでいないとの事でした。「ただ私達は無視されたのです。相手にされなかったのです」という話をしていました。

 問題がこじれてしまった遠い原因として、副反応が出た患者さんと向き合っていた医師が、「あなたは間違っている」と患者さんを指さした事があったわけです。それを続けていたら、マスコミもあのような反応をせざるを得ないかもしれません。ひょっとしたら、こうした副反応が出るのかもしれないと、最初からきちんと患者さんと向き合って対処してくれていたら、現在のような事にはなっていなかったかもしれないと思うのです。

 厚労省の対応にも問題があります。『HPVワクチンの接種を検討しているお子様と保護者の方へ』というパンフレットを作成していますが、効果よりも副反応について多くのページを費やし、目立つところに「HPVワクチンは、積極的におすすめすることを一時的にやめています」と大きく書いているのです。何のためのパンフレットなのかと思います。救済制度についても説明されていますが、副反応が出たとしても、その一部しか救済されません。税金を使って救済するので慎重になるのは分かりますが、副反応が出て1年も2年も放っておかれたら、不信感を募らせるだけでしょう。

 副反応が出た人達に直ちに向き合う事が出来ていれば、変わったかもしれないと私は思っています。今からでも遅くないので、救済の仕組みを制度としてきちんと作るべきです。そのために必要なら、製薬メーカーからお金を集めればいいではないか、と私は言っています。日本では副反応が出たらすぐに救済してくれる、という制度が作れたら、積極的接種勧奨の問題も前に進むのではないかと思っています。

尾尻「厚労省が積極的接種勧奨を止めた理由は、どういった事だったのですか。どこかから圧力がかかったのでしょうか」

三ッ林「詳細は分かりませんが、ワクチンの接種後に疼痛の続く人がいるという事で、検討会が行われています。そこで一時的に差し控えるという事になったのでしょう」

髙久史麿・地域医療振興協会会長「私は日本医学会会長を辞める前から、子宮頸がんワクチンの積極的接種勧奨を差し控えたりしたら、10年もすれば、先進国では日本だけが子宮頸がんの多い国になってしまうと言ってきました。既にしっかりした研究結果が報告されていたからです。私は基本的に厚労省の責任だと思っています。医師の1人として、医学者として、はっきりさせておかないと責任を問われかねないと思い、厚労省の担当者に言いに行ったことがあります。そのときの担当者の答えは、全国的な調査をやっているので、その結果を見てから決めます、といういい加減なものでした」

大岡「厚労省の人達もよく理解していますから、本音ではやりたいのだと思います。ただ、訴訟がある、国民に理解が浸透していない、次に止まったりしたらいよいよ再開出来なくなる、といった不安を抱えて判断しきれないのだと思います。最終的に誰が判断するのかと言ったら、政治しかないと思っています。政治家が正しく判断し、国民に正しく説明する必要があります。その時に、副反応が出た人達も納得出来るような形で進める必要があります。その人達にしっかり心配りして政治が決断出来るか。そこがキモだと思います」

髙久「このワクチンは筋注なので、他のワクチンに比べても痛いのです。その痛みに過敏に反応する人がいるのは当然だと思います。そういう人達には、何らかの補償をして、安心してもらう必要があるし、社会的・精神的治療を行えば、症状は必ず治まるはずです」

土屋了介・ときわ会グループ顧問「医療界も責任を感じないといけないのではないでしょうか。厚労省の健康局長が勧告を出したのは、第2回予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会が、そういう勧告を出すべきと言ったからです。専門家集団がそう言ってしまったわけです。この時、髙久先生が言ったように、副反応かもしれない方の救済まで考えた上で、それでも大局的に見てワクチン接種は進めるべきである、という結論を出していれば、あのような勧告にはならなかったわけです。専門家集団が専門家としての役割を果たさなかったのが、大きな問題だったのだと思います。今からでも、日本医師会なり日本医学会なりが中心となって、専門家の意見を国民に向けて出すべきだと思います。その上で、政治家にも動いていただきたいし、厚労省も考えていただきたいと思います」

森内浩幸・長崎大学大学院医歯薬学総合研究科小児科学教授「現れた症状は機能性身体症状で、ワクチンとは関係がないものだという結論は早くから出しています。また、17の学会から成る予防接種推進協議会は、積極的接種勧奨を再開すべきと繰り返し声明を出しています。完璧ではなかったかもしれませんが、アカデミアとしての責任は果たしてきたのではないかと思っています。大岡先生から指摘があったように、確かに有害事象として訴えている人の中には、医師や医療従事者が十分ではない対応をした事がトラウマとなっていて、今も回復していないようなケースもあります。症状が回復していない0.005%の人というのは、そういう人達が中心になっていると私は思っています。思春期における心と体の関わりで起こる病態について、しっかりした認識を持つ医師が十分にいなかった事も問題なのでしょう。積極的接種勧奨の再開に当たっては、そういった事も考えていく必要があると思います」

石渡勇・石渡産婦人科病院院長「裁判が起きたのは2016年です。厚労働の研究班の研究で、ワクチンを打ったマウスの海馬だけに異常な沈着が見つかったという事でした。これがいろいろな症状を出している原因ではないか、と受け取れるようなテレビ報道があり、それをきっかけに国が患者集団から裁判を起こされ、積極的接種勧奨が差し控えられる事になっていきました。その結果として、毎年約1万人が子宮頸がんになり、約3000人が命を落としています。多くの女性が子宮を失う事で、生まれてくるはずだった赤ちゃんが失われています。国は少子化対策を国是として行っているのですから、ワクチンの積極的接種勧奨を早急に再開すべきだと思います」

木口一成・東京都予防医学協会検査研究センター長「東京の産婦人科医会でワクチンの問題を検討していますが、小児科の先生とも協力して、東京都から分かりやすいリーフレットを出したいと努力しているところです。子宮頸がんを防ぐのに有用であるという事をメインにして、理解しやすく親しみやすいものにしてほしいと思っています」

北村邦夫・日本家族計画協会理事長「大物議員が集まって議員連盟が組織されても、なかなか前に進まないのが不思議です。政治が決めきれないと言う話でしたが、何を怖がっているのでしょうか。何かをやって失敗するのと、何もやらずに失敗するのは、どちらの罪が重いのかを考えていただきたいと思います」

大岡「後ろを見たら誰もいないという事だと、なかなか決められないのかもしれません。そこで皆様には、各方面にいろいろ意見等を出していただき、後ろを見たら俺達がいるぞ、という支援をいただきたいと思います。積極的接種勧奨の再開に向け、前に進んでいる事だけは間違いありません」

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