日本の医療の未来を考える会

第16回「日本の医療の未来を考える会」リポート

第16回「日本の医療の未来を考える会」リポート

 2017年7月26日(水)17:00~18:30、衆議院第一議員会館大会議室にて、「日本の医療の未来を考える会」の第16回勉強会を開催いたしました。詳細は、月刊誌『集中』2017年9月号にて、事後報告記事を掲載いたします。

まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より、挨拶させていただきました。 「今回はAI(人工知能)をテーマに取り上げました。AIは非常にホットな話題になっていて、AIを盛り込んだ企業IRに株価が敏感に反応するといった現象も起きています。現在、多くの企業が、自治体が、研究機関が、AIの研究や導入に取り組んでいます。医療分野でもAIに大きな期待が寄せられています。そこで本日は、世界のAI研究者やエンジニアが高く評価している株式会社9DWの代表であり、システムエンジニアでもある井元剛氏に講演をお願いしました。ご多忙の中、快諾いただけたことを感謝しております」

続いて、当会国会議員団代表の原田義昭・衆議院議員にご挨拶いただきました。 「今やAIという言葉を聞かぬ日はない、という状況になってきました。少し前まで、あと10年、あるいは15年くらいのうちには、と思っていたようなことが、次々と実現しています。たとえば、車の自動運転なども、夢のような話としては、しばらく前からありましたが、すでにほとんど製品レベルで完成してきているようです。

ものすごいスピードで進歩しているわけですが、それについて行かなければ、将来はないと思っています。本日は、医療分野でAIがどのような関わりを持つようになるのかといったことを勉強できると期待しております」 今回の講演は、井元剛氏(株式会社9DW代表取締役)による『AI(人工知能)深層学習が担う未来の医療改革』と題するものでした。以下はその要約です。

■AI(人工知能)とは

 AIとは人間のような知的処理をコンピュータで行う技術のことです。かつては、人間がルールを設定し、それを単純に処理するルールベースアプローチが主流でした。日本では、いまだにこういったシステムをAIということがありますが、世界では「統計・確率論的アプローチ」か「脳科学的アプローチ」が研究開発の主流となっています。その最先端は両方のアプローチの混合で、9DWは機械が賢く学べる方法として、混合アプローチから新しい手法を研究しています。

 現在は、与えられたデータから、答えを出すためのルールを自分で見つけ出し、推論することができる時代になっています。これが機械学習です。計算リソースさえそろえば、人間よりも賢く働くシステムを作ることができるようになったのです。

 ディープラーニング(深層学習)は、機械学習とは違います。機械学習では、結論を導くために必要な特徴量を人間が決めますが、ディープラーニングでは特徴量を機械がデータを解析することで決めます。学習工程に人間が介在する必要があるのか、機械がすべて自動的に行うかの違いです。かなり複雑なニューラルネット(人間の神経構造を模倣したアルゴリズム)が形成できるようになって、ディープラーニングの最新の研究がどんどん行われるようになっています。

 現在実現しているAIは、特化型人工知能に分類されます。たとえば、囲碁ができるAIは、自動運転には使えませんし、医療の診断にも使えません。現在は、9DWでも特化型人工知能しか作れていませんし、世界中を見渡しても、まだ特化型人工知能しかできていません。しかし、海外の大企業を含め、世界の最先端でAIの開発に取り組んでいる人たちは、汎用型人工知能の開発を目指しています。異なる領域において多様で複雑な問題を解決できる人工知能です。汎用型人工知能の登場によって、これまで解決が困難であるとされていた問題も、解決されるのではないかと期待されています。

■医療分野におけるAIの活用例

医療の分野でAIがどのように利用されているか、海外事例と国内事例を紹介します。
・海外事例①幼児の自閉症を検出するAI
 自閉症と診断された子供たちの脳のセンシングデータと、MRIなどの画像データを、AIに学習させることで、脳がどのような反応を示す場合が自閉症なのかを高精度で推定します。将来的には、遺伝性の疾患の出生前診断を可能にすると考えられています。

・海外事例②リハビリテーションのための強化学習AI
 四肢欠損の患者さんに対し、手足の残っている部位に筋肉の電位を検出するセンサーを取り付け、その電位を読み取ったロボットが義手や義足を動かします。このとき、どのように動かすかをAIが制御することで、義手や義足がその人の意思通りに動くようになります。

・海外事例③脳性麻痺・痛みのリハビリでAIが症状に合わせてレベルを調節するゲーム
 脳性麻痺の投薬では痛みを伴うため、それを緩和ケアするためにAIを活用します。投薬中の痛みを緩和するために、AIが考えたゲームを行わせます。患者さんの痛みのレベルなどに応じて最適の内容のゲームを提供します。心理的な緩和効果が得られています。

・海外事例④人間の悩みや疲労による人為的ミスを減らすAI
 医師の会話や、病院内のどこをどう移動したかといったデータから、その医師の疲労や悩みをAIが早期に発見します。そして、「この医師は精神的に疲れている」といったことを、病院経営者に警告し、人為的ミスやケアレスミスのリスクを軽減します。

・海外事例⑤より細かい箇所の手術AI
 人間には難しい細かい手術を、AIのサポートで可能にします。AIはスペシャリストの動きを取り込むだけでなく、さらによい手術方法も自分で考えます。現在開発中で、あと2~3年で稼働すると見られています。

・国内事例①肺の類似の病気、AIで3次元検索
 
富士通研究所によるもので、CTで撮影した症例の画像データから、AIを使って類似の症例を効率的に検出する技術です。現在は肺のみですが、肝臓、脳、骨などにも応用可能と考えられています。AIというには少し弱いように思えます。

・国内事例②最新AIシステムによる整体施術
 来院者の「動かすと痛い」「体のゆがみや使い癖がある」という点に着目し、動きからデータを取って体のねじれを的確に分析し、ベストな体になるためのポイントを特定します。

・国内事例③訪問看護データの集積とAI分析
 在宅アセスメントシステムで集められる訪問看護データとAIを活用し、訪問看護の質の向上と高齢化社会を見据えた在宅ケアの充実、医療介護費用の削減を支援します。

・国内事例④救急患者をAIがトリアージ、搬送先決定も支援
 AIを使って救急搬送中の患者の状態を素早く的確に判断し、搬送先医療機関も選定します。搬送先でも患者情報を共有し、治療開始までの時間を短縮することで、救命率の向上や後遺症の軽減を目指します。

・国内事例⑤GPUを医療機器に取り込むMRIシミュレータ
 AIによるディープラーニングの速度を加速させるためのエンジンであるGPUを取り込むことで、世界最高速のMRIシミュレータが開発されています。

■9DWの開発した事例

9WDでは、医療分野で次のような開発を行っています。

・歯のモデルの自動生成

 歯科技工士の代わりをするAIを開発しています。歯の欠損部分を補うための歯科技工物は、患者の口腔内の型をデジタルデータに置き換え、歯科技工士がCADでデザインし、それを工作機械で自動的に削り出します。こういったデジタル化が浸透しつつありますが、1本の歯のデザインに15分程度かかります。1万症例ほどのCADデータをAIが解析し、学習して、口腔内のデータから、必要な歯を自動生成するシステムを開発しました。AIが存在するクラウド上に口腔内データをアップしていただくと、20秒で1本の歯を生成することができます。 ・MRI、CTスキャンによる画像診断  断層画像のデータを、歯を生成するアルゴリズムに流用することで3Dの構造物として生成し、形の類似性から、どこが病変なのかを高精度に推測します。さらに、それがこのような診断だったと学習させることで、この病変ならこの病気が考えられるというリストを出して、医師をアシストすることが可能になります。最終的には、医師とAIが議論できるようになることを目指しています。

・薬の副作用  薬の相互作用で副作用が増幅されてしまうことがあります。そこで、薬の組み合わせの安全性を自動的に計算し、患者の診断に対して出されている薬が本当に正しいかどうかを評価し、同じ作用で危険度の低い薬の組み合わせを提案するAIシステムを開発中です。

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