
挨拶
原田 義昭氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士):10月15日現在、次期首相の指名を巡って政党間の駆け引きが連日行われていますが、これ程の混迷は私も記憶に有りません。自民党単独では過半数に程遠い事から、どの政党と連立を組むか様々な情報が流れていますが、高市早苗総裁を首相に就ける様全力を尽くさねばなりません。国際社会で信頼され、指導力を発揮出来る政権の樹立を願っています。
東 国幹氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(衆議院議員、財務大臣政務官):1980年代から日本人の死因の第1位はがんとなり、死亡率も戦後と比べ5倍以上に増えています。罹患率も男性が6割、女性が4割と、2人に1人ががんに罹る時代です。がん対策基本法が2006年に制定され、対策推進基本計画に基づく取り組みも進められています。今後も着実に実行出来る様、予算措置を講じていかなければならないと思っています。
古川 元久氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(衆議院議員):がん対策基本法制定から来年で20年となります。私は超党派議員による法案作りから関わり、制定後は議連で患者や家族と共に、がん対策に取り組んできました。そうした活動によって一定の成果は出ていますが、新たな課題も生じています。本日は現在の到達点を確認する機会とし、今後も党派を超えた取り組みを続けていきたいと思います。
尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人):がんは年間約100万人が罹患し、約38万人が亡くなる恐ろしい病気です。一方で 22年にはがんの治療費が年間4500億円以上にも上った他、23年には総経済的負担が約2兆9000億円との試算も公表されました。今後、40歳以上の国民にがん検診を義務付ける事も必要ではないかと考えます。本日はがん治療を巡る最新の状況について学びたいと思います。
講演採録
■がん患者は2040年まで増加が続く
国のがん対策の経緯を振り返ると、1962年の国立がんセンター設置が節目となり、近年では2006年に患者や家族の声を受け、議員立法によって制定された「がん対策基本法」の成立が大きな出来事となりました。この法律に基づき、「がん対策推進基本計画」が策定され、対策が実施されています。
現在、がんの罹患者は年間約100万人、死亡者は年間約38万人で、4人に1人ががんで亡くなっています。がんの粗死亡率は戦後から右肩上がりで増え続けていますが、年齢別では粗死亡数が最も増えているのは85歳以上の高齢者で、15〜64歳では寧ろ減少しています。従って、年齢調整死亡率は減少傾向にあり、特に肝臓がんや胃がんで低下が顕著です。がん対策の成果が着実に現れていると言えます。
がん対策基本法の特徴として、患者の声をどの様に政策に繋げるかが明文化されている点が挙げられます。厚生労働大臣が、がん対策推進基本計画案を作成する際には、がん対策推進協議会の意見を聴取する事が定められており、がん対策推進協議会には患者や家族、遺族も委員として加わっています。又、都道府県も国のがん対策推進基本計画と整合を図りながら、それぞれの都道府県がん対策推進計画を策定し、連携しながら取り組みを進めています。
現在は「がん予防」「がん医療」「がんとの共生」を3本柱とする「第4期がん対策推進基本計画」による施策が進められ、がん医療提供体制の均てん化・集約化については「国及び都道府県は質の高いがん医療を提供するため、地域の実情に応じ、均てん化を推進する」「拠点病院等の役割分担を踏まえた集約化を推進する」旨、明記されています。
そしてこの方針を受け、昨年末から「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」に於いてがん医療提供体制の均てん化・集約化の検討を進め、今年8月に報告書を纏めました。検討会には医療関係者や公衆衛生の専門家に加え、患者団体の代表も参加しています。
報告書では、人口構成の変化を踏まえ、40年のがん罹患者数は105万5000人(25年比約3%増)と推計していますが、50年には104万3000人へ緩やかに減少すると見込まれています。都道府県別のがん罹患者数の変化率では、25年から40年に掛けて東京都等で10%以上増加し、神奈川県や愛知県等で5〜10%増となる一方、秋田県では10%減、愛媛県・長崎県等は5〜10%程度減と推計されています。総じて都市部を中心に増加し、比較的人口の少ない地域で減少するという地域差が見られます。
年間のがん患者数を外来と入院で見ると、外来は患者が増加する一方、入院は減少傾向です。平均在院日数も短縮が進み、02年の35.7日から23年には14.4日となりました。罹患数が近年最も多い大腸がんでは、開腹手術に代わって腹腔鏡下手術やロボット支援手術等の低侵襲治療が比重を高めています。
又、3大療法(手術療法・薬物療法・放射線療法)別の治療登録割合としては、22年の症例で手術療法は15〜64歳迄の層で約6割を占める一方、高齢になる程割合が低下しています。割合は異なりますが、薬物療法や放射線療法も同様の傾向です。これらにより、需要推計としては、40年には手術療法は5%減、放射線療法は24%増、薬物療法も15%増と見込まれます。
■消化器外科医は4割減少と予測
次に、供給の観点から考察します。22年時点の医師総数は医学部定員増の効果も有り12年比で約4万人増加しましたが、外科医は過去10年間約2万8000人のままで、横這いの状況が続いています。しかし、手術件数の多い消化器外科の医師の場合、12年比で約10%減、40歳未満に限ると約15%減となっています。
日本消化器外科学会から報告されている将来推計では、日本消化器外科学会に所属する医師の数は40年には現状より40%程度減少するとの結果が出ました。これは、現在最も数が多い60歳前後の医師が順次引退していく為です。先程の、40年には手術療法の需要が5%減少するという分析と合わせても、外科医の減少が上回り、現行水準での医療を患者に提供する事が難しくなります。
その他、放射線治療専門医の場合は年間40人の増加を見込み、40年には25年比43%増の2000人になると推計しています。但し、日本の場合は放射線治療施設当たりの装置数が他の先進国に比べて少なく、多くの医療機関に分散して配置されている状況です。
更に、薬物療法の医師についても推計を行いました。専門医は都市部で増加して行くとの見通しですが、過疎地域では減少する見込みである他、薬物療法は消化器外科や婦人科、泌尿器科の医師も行っているのが実状であり、実態が十分に把握出来ない為、詳細な数字は算出出来ていません。
薬物療法のもう1つの課題であるゲノム医療体制については、現在ゲノム医療連携病院が全国244カ所在りますが、463カ所在るがん診療連携拠点病院の全てで提供出来る事を目標としています。
日本消化器外科学会からは、高度な手術については一定程度症例数が集積し年間手術件数の多いハイボリュームセンターで行う方が、より良い治療成績が得られる可能性が高いというデータが示されました。日本放射線腫瘍学会からも、放射線治療のボリュームと患者アウトカムの間に関連性が認められるとのデータが示されています。薬物療法に於いても、日本臨床腫瘍学会から症例数の多い医療機関ほど副作用を軽減出来るとの報告が有りました。
外科医の確保に当たっては、勤務環境の改善が重要であり、一定の集約化の検討は避けられないと考えています。患者が迷子にならない様に、医療機関毎の診療実績等の情報を見える化しながら検討を進める事が重要です。
放射線療法を例に挙げると、嘗て放射線治療装置の損益分岐点は年間治療数約200件とされていたものの、現在は機器価格の高騰により、200件では償却が難しくなっています。ところが国内では、新規放射線治療患者が年間200人以下の施設が半数近くを占め、経営上の重荷となっています。今後、継続を断念する医療機関が生じる可能性も否めません。そうなれば、どの施設が放射線治療を継続し、何時装置を更新するのかといった情報も重要性が一段と高まります。医療機関同士で設備計画や更新時期を含む情報をどう共有するかが喫緊の課題です。
今般取り纏めた報告書「2040年を見据えたがん医療の均てん化・集約化に係る基本的な考え方について」では、高難度の技術や高額な医療機器を必要とする治療、並びに症例数の少ない希少がん・小児がんついては集約化が必要であると位置付けました。一方、がん予防や支持療法、緩和ケア等、出来る限り多くの医療機関で提供される事が望ましい領域については、均てん化を進めるとしています。
■都道府県と地域の病院・団体が主体的に協議
がん医療提供体制の均てん化と集約化は、各都道府県の「都道府県がん診療連携協議会」で検討を進めます。都道府県がん診療連携協議会は都道府県と都道府県がん診療連携拠点病院が運営を担い、拠点病院等や患者団体等の参画を必須とします。
今後の医療需給は国でも試算を行いましたが、推計手法は各都道府県に示しており、国の支援の下で改めて推計を行い、議論を深めて頂きたいと考えています。議論に当たっては、地域の病院がどの様な医療を提供しているかを把握する事が重要です。この整理と検討が進む様、院内がん登録データについても国から各都道府県に提供しています。
今回の検討会では、患者団体から「何処へ行けば適切な医療を受けられるのか」という情報の適時発信を強く求める声が上がりました。先行事例としては沖縄県が挙げられ、同県は約10年前から議論を重ね、院内がん登録等を実施する医療機関を対象に、がん種別に診療を担う医療機関の一覧を作成・公表しています。これは、情報提供の在り方として参考になる取り組みだと評価しています。
又、この様な情報整備に当たっては、医療機関の現場責任者等で構成するワーキンググループを設け、協議を進めているとの事です。患者の立場からも非常に分かり易いだけでなく、実績の集約という観点からも有益な事例であると考えます。
がん医療に対する考えは、医師・看護師等の医療従事者、患者・家族や行政担当者等、立場によって異なります。しかし、何れの場合も「患者の為に最善を尽くす活動を実践し続ける」という価値観や心構えを共有する事が何より重要と考えています。
質疑応答
尾尻 医療の集約に向け、国は都道府県に議論を促しているのでしょうか。
鶴田 はい。都道府県には通知を出し、集約化に向けた検討を進める様促しています。取り分け危機感が強いのは外科で、若手医師を確保出来なければ手術の継続が難しいという認識は共有されています。若手医師が外科を選択する為には勤務環境の改善が不可欠であり、労働時間の短縮等を実現する為にも、一定程度の集約化を併せて検討する必要が有ります。尤も、利害が絡む領域ですので、各都道府県で実態を踏まえた緻密な議論が重要だと考えています。
織本健司 (医)健齢会ふれあい東戸塚ホスピタル病院長 医療の集約化や均てん化の進展を評価する為、何らかの指標が設けられるのでしょうか。又、がん対策に於いて慢性期医療の病院はどの様に関わるのか、それに対する診療報酬等のインセンティブは想定されているのでしょうか。
鶴田 がん対策推進基本計画の中で最も重視している指標は、年齢調整死亡率とQOLの向上です。但し、それだけでは均てん化や集約化の進捗を十分に測る事は出来ません。私達の目的は2040年に持続可能な医療提供体制を構築する事であり、その観点から若手医師が外科医を選択し、現行の提供体制を維持出来るかどうかも重要な評価要素になると考えています。最終的には、患者が希望する治療を受けられる事が目標であり、その達成度をどの様に指標化するかは議論が必要だと思います。慢性期病院の役割については、今回の議論では急性期医療の提供体制に力点が置かれており、緩和ケアや支持療法等は可能な限り多くの病院が関与する方向性が示されています。他方、急性期以外の医療分野については議論が十分とは言えず、地域医療構想の議論と併せ、今後更に深めていく必要があると考えています。
関川浩司 (医)石心会第二川崎幸クリニック院長 私達の病院は外来機能を分離し、がん手術や化学療法を多数手掛けています。ゲノム医療拠点病院とも連携し、質の高い医療提供に努めていますが、診療報酬上は殆ど評価されていません。今後のがん対策の中で、私達の様な外来分離型の病院にも是非目を向けて頂きたいと思います。
鶴田 病院にも様々な形態があり、私も全てを十分に把握出来ている訳ではありません。今後は、こうした多様な病院の在り方も、より深く理解出来る様努めていきます。
炭山嘉伸 東邦大学理事長 私立医科大学は、本院と分院が一体となって教育・臨床・研究を進めていますが、その役割について国に十分理解されていない面が有ると思います。今後の議論では、私立大学協会の意見も汲んで頂きたい。又、集約化や均てん化の達成は何時頃を設定しているのでしょうか。
鶴田 私立大学病院の立場をより的確に理解する為、対話の機会を増やし、今後の在り方について共に検討していきたいと考えています。達成時期については、医療事情や技術の変化に合わせて継続的に議論する必要が有り、都道府県間でも温度差が有ります。各都道府県で議論が進む様、情報共有を図りながらフォローして参ります。
頴川晋 東京慈恵会医科大学悪性腫瘍リキッドバイオプシー応用探索講座教授 私は泌尿器が専門ですが、近年、外科領域で泌尿器科の医師が増えていると感じます。背景には外科の専門医制度が有るのではないでしょうか。制度が「完璧さ」を求める余り、認定迄に時間が掛かり、人材が相対的に短い期間で認定が得られる診療科へ流れている可能性が有ります。厳しいトレーニングを経て専門医となった医師に対するインセンティブが無なければ、外科医の減少には歯止めが掛からないと考えます。
宮入剛 JR東京総合病院院長 集約化を進めるにしても、外科医が4割減少するという状況を放置すれば医療は維持出来ません。緊急対応を担当した外科医へのインセンティブの付与や年俸制の導入等、処遇面での議論が必要だと思います。
鶴田 外科医の給与を引き上げた大学も有りますが、賃金水準に関しては、基本的に各医療機関の判断事項です。一方で、経営が厳しく十分な待遇を示せない医療機関も存在し、このままでは持続可能性に懸念が有る事は私達も認識しています。先ずは問題意識を共有し、処遇と体制の双方について議論を深めていく事が必要だと考えます。
土屋了介 (公財)ときわ会顧問 私も地元自治体の協議会に参加していますが、薬剤師・看護師・メディカルソーシャルワーカーの皆さんは、現場を見据えつつ患者に寄り添った意見を発信してくれます。一方、患者代表は当事者の切実な思いから、どうしても議論が一面的になるきらいも有ります。その為、患者に近い立場の医療スタッフを積極的にメンバーに加えるべきだと考えます。又、治療後に再発する方や緩和ケアへ移行する方もいます。その際、急性期から慢性期、介護施設等へのスムーズな連携についても検討して頂きたい。私が国立がんセンターに在籍していた時は、化学療法を内科医に任せる事も可能でしたが、患者がICUに入ると容易に帰宅出来なくなる現実が有りました。一方、米国等ではICUの分業体制が確立され、専門のスタッフが対応しています。日本でもこうした分業制を導入しなければ、外科医の労働環境は改善しないのではないでしょうか。
鶴田 患者の意見を政策に反映させる為に、患者代表にも議論に参加して頂いていますが、専門知識の面で十分に意図が伝わらない場面も有ると認識しています。看護師や薬剤師等コメディカルの皆様の意見も伺いながら、患者の声が適切に政策へ反映される様取り組んで参ります。急性期から慢性期及び介護施設等への連携については、今回は急性期の提供体制に主眼を置いた議論となりましたが、回復期や緩和ケア、再発後の医療についても、継続して議論を深めていく必要が有ると考えています。
西田修 (医)伯鳳会東京曳舟病院病院長 民間病院ではタスクシェアが進み、診療看護師が術前準備や術後管理等を担う事で、医師が手術に専念出来る体制が整っています。クローズドICUを専従の医療スタッフで運営している大学病院も存在します。外科医不足に対応するには、専門性を発揮する事に集中出来る体制が不可欠だと考えますが、こうした体制作りと人材育成についての考えを聞かせて下さい。
鶴田 働き方改革の観点から、厚労省でもタスクシフト・タスクシェアの推進を検討しています。職種毎に担える業務の整理・提示は既に行っており、現在も医政局を中心に議論を進めています。外科医が専門性の発揮に集中出来る環境整備は重要であり、業務の効率化や役割分担をどう進めていくかについて、地域全体で具体策を検討していく必要が有ると考えています。

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