
挨拶
原田 義昭氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士)日本は超高齢社会を迎えましたが、お一人さまの問題を解決しなければ、国民は安心して老後を迎えられません。これ迄真面目に国の発展の為に働いてきた人達が最後のステージを迎えた時に、国がしっかりと面倒を見るのは当然の事です。そうした意味で、お一人さまの問題は政治の問題であり、国や自治体等が有効な対策を講じなければなりません。
東 国幹氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員、自由民主党副幹事長)日本社会は主に農村の集落から形成され、やがて都市型社会となりましたが、戦後暫くは3世代同居といった大家族が大多数でした。しかし、生活様式と共に家族や地域コミュニティの形も変化し、身寄りの無い高齢者の増加といった新たな課題も生じてきました。この問題の解決に向けた政治の役割は非常に大きいと思っています。
門脇 孝氏 「日本の医療の未来を考える会」医師団代表(日本医学会会長、国家公務員共済組合連合会虎の門病院 院長)日本は世界に冠たる長寿国になり、人生90年、100年時代を迎えました。今まで世界が経験した事の無い長寿社会で、新たな課題の1つとなっているのが、お一人さまの問題です。誰もが直面する可能性の有る課題であり、社会全体の問題と捉えてアイデアを出し合い、「誰1人取り残さない」社会の実現に向け1人1人が行動しなければなりません。
尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)日本ではこれ迄家族をベースとした制度や仕組みで社会が成り立ってきました。しかし、超高齢社会になり、身寄りの無いお一人さまが増え、その前提が崩れつつあります。実際、身元保証人のいないお一人さまは、住居の確保や介護施設への入所、入院が困難になってきました。こうした課題を解決する為には、制度の抜本的な見直しが欠かせません。
講演採録
■海外に比べ孤立が進む日本の単身世帯
日本社会はこれ迄、他国に比べて家族の役割が大きい点が特徴でした。しかし、40年間で家族の形が大きく変化しました。総務省「国勢調査」から全世帯数に占める世帯類型別割合の推移を見ると、単身世帯は1980年に全体の19.8%でしたが、2020年には38.0%を占める様になり、50年には44.3%に拡大すると推計されています。一方、夫婦と子供からなる世帯は1980年の42 .1%から2020年には25.0%に迄減少し、50年には 21.5%となる見込みです。
又、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、65歳以上の高齢者に占める1人暮らしの割合(独居率)は、男性は20年に16%であったのが50年には26%に上昇します。女性は20年の24%が50年には29%になると推計されています。注目すべきは単身高齢男性に占める未婚者の割合です。20年には34%でしたが、50年には60%を占めると推計されています。同じ独居でも、配偶者と死別した単身高齢者と、未婚の単身高齢者は異なります。未婚の単身高齢者は配偶者だけでなく子供がいない事が考えられる為、老後を家族に頼ることが一層難しくなります。家族形態の変容に対する対応が今問われています。
身寄りの無い人には3つのパターンが考えられます。1つは「家族や親類がいない人」、2つ目に「家族や親類がいても、連絡がつかない状況にある人」、3つ目に「家族から支援が得られない人」です。
東海地方の4つの地域包括支援センターを対象に行った単身高齢者の支援事例調査によれば、身寄りの無い単身高齢者の中で、家族や親類がいない人が約2割、連絡がつかない人が約3割、支援が得られない人が約5割との結果になりました。つまり、家族がいる人も含めて、誰しもが身寄りの無い高齢者になる可能性が有ります。
一方、家族との関係が切れていても、友人・知人や近所の人と繋がっていれば、孤立には陥りません。「孤立」とは、家族やコミュニティと殆ど接触が無い状態を言います。先行研究を見ると、孤立の類型としては、「会話欠如型」「頼れる人欠如型」「手助けする相手欠如型」等が挙げられています。世帯類型別に孤立に陥る人の割合を見ると、単身の高齢男性で高く、会話欠如型が14.8%、頼れる人欠如型が11.1%、手助けする相手欠如型が17.4%となっています。女性はそれぞれ5.4%、4.2%、9.7%なので、単身高齢者の孤立は主に男性の問題と捉える事が出来ます。
次に、日本の孤立状況を、米国、ドイツ、スウェーデンと比較した調査を見たいと思います。各国の60歳以上の単身者に「病気の時や日常生活で困り事が有った時に頼れる人がいるか」を尋ねたところ、どの国も別居家族という回答が最も多く半数を超えました。一方、友人や近所の人と答えた人が米国やドイツでは各4割程度いたのに対し、日本では各2割程度でした。「頼れる人がいない」との回答は日本が最も高く、約2割という結果でした。日本では今後単身高齢者が増えていきますが、友人や近所の人とのインフォーマルな関係を如何に築いていくかは大きな課題になっていると考えています。
では、孤立すると何が問題になるのでしょうか。1つは、人生の最終段階で、これまで主に同居する家族が対応してきた「日常生活支援」「身元保証」「死後対応」を、身寄りの無い高齢者の場合、誰がどの様に対応するのか、という課題です。もう1つは、孤立状態に陥ると、生きる意欲や自己肯定感が低下する傾向が見られます。
■求められる家族機能の社会化
現在、身寄りの無い人達の支援を担うのは、主に自治体、地域包括支援センター、ケアマネジャー等です。支援の状況を見ると、例えば、身寄りの無い単身高齢者が入院した時に、入れ歯をアパートに忘れたとします。その場合、家族ではない支援者が、誰もいないアパートへ行って家主から鍵を借り、入れ歯を探して病院まで届ける事になります。しかし、そもそもそれが業務なのかという問題が有ります。上司の判断を仰ぐ事も必要になってきます。又、引き受けるにしても、万が一に備えて、2人1組で行く事も考えるべきではないか。その1つ1つの調整に時間が掛かります。一方、身寄りの無い人は、入れ歯が無くては食事が出来ません。結局、支援者がシャドーワークとして対応していくという実態が有ります。入れ歯に限らず、日常生活支援は広範囲に亘ります。公的サービスには限界が有り、家族が担ってきた役割は埋めきれません。
それと同様に身元保証について、公的機関は殆ど関与出来ません。死後対応については、遺体の引き受けに関しては法的に自治体が責任を負う事が定められています。しかし、借家に於ける遺品等の整理については自治体では行えず、家主が処分しなければなりません。この結果、大家が身寄りの無い高齢者に借家を貸し渋るという課題も生じています。
身元保証については、昨年9月に日本医療ソーシャルワーカー協会が纏めた研究報告書に、「あなたの所属機関(病院)から、所属機関以外の病院へ転院相談をした際に、保証人がいないことを理由に受け入れてもらえない病院のおおよその割合を教えてください」と尋ねたアンケート調査の結果が載っていました。それによると、「0割」は18.1%に留まり、「1〜3割」が27.8%、4割以上を纏めると48.4%でした。又、入院申込書に保証人の記載を求めている病院にその理由を尋ねると、「支払いの滞納に備える」が97.0%で、「急変、死亡に備える」が81.3%、「医療同意が必要な時に備える」が67.4%でした。
身寄りが無い事で、金融機関の口座管理や預金の引き出し等の問題も生じています。病院が患者本人に代わって身寄りの無い患者の通帳やカードを保管・管理した事が「ある」と回答した病院は69.3%、同様に患者本人に代わり金銭を引き出した事が「ある」と回答した病院は38.6%でした。病院からは「患者の死後、医療費が金融機関から支払われる」等仕組みの改善を求める声が有りました。
最近は、高齢者の身元保証や死後事務、日常生活支援等のサービスを行う高齢者等終身サポート事業者も増えています。総務省によると、17年に100件だった事業者が23年には400件以上になりました。但し、料金が高額で低所得者には利用が難しいという課題が有ります。事業者によっては、利用開始時に100万円以上の費用が必要になってきます。又、消費者被害が生じている等信頼性の担保にも課題が有ります。料金の妥当性が疑わしい業者も有り、事業者が倒産した場合の利用者の救済も課題です。そこで24年6月に9省庁がガイドラインを作成しました。又、昨年夏頃には業界団体も発足しました。
国の取り組みとしては、居住支援の分野で、昨年10月に「居住サポート住宅」制度が施行されました。ポイントは、身寄りの無い高齢者を含む「住宅確保要配慮者」に対して、都道府県から指定された「居住支援法人」等が高齢者宅に訪問する等して見守りを行い、体調の変化等に気付いて、必要であれば福祉サービスに繋いでいく点です。「気付いて繋ぐ」機能は、「家族機能の社会化」と呼ばれています。居住サポート住宅は、今後10年間で10万戸供給する計画です。
一方、国の社会保障審議会で地域共生社会の在り方について議論を行っており、身寄りの無い高齢者への支援も検討されています。具体的には、地域包括支援センター等の相談支援機関が身寄りの無い高齢者等の相談を受けて、地域の様々な支援に繋げていくという内容です。但し、居住サポート住宅の様に、高齢者への訪問迄は想定しておらず、相談に来られない人達への対応が課題です。
又、「新たな事業」として、契約に基づき日常生活支援や死後事務支援等を提供する事業を届け出制とし、「第二種社会福祉事業」として法的に位置付ける事も検討されています。身元保証等を行う終身サポート事業も、ここに含まれる事になるでしょう。現在は「日常自立支援事業」により認知症の高齢者等、判断能力が不十分な人を対象に福祉サービスの利用を支援する事業が行われています。「新たな事業」では、判断能力を持つ身寄りの無い高齢者にも対象を広げていきます。基本は受益者負担ですが、利用料の減免制度も検討されています。
■伴走者や支援機関の連携・居場所作りが鍵に
身寄りの無い高齢者への支援について、私は3つのポイントが有ると考えています。1つ目は高齢者に伴走する人や機関の存在です。必要な支援に気付いて、社会サービスに繋ぐコーディネートをしていく。訪問等によって普段から声を掛け、困った時には相談に乗る様な信頼関係を基盤にした支援です。中心となる機関は様々で、地域の状況に応じて決まっていくと思います。
2つ目は、「繋ぎ先」として地域の支援機関が連携し、ネットワークを構築する事です。自治体や医療機関、介護事業所、民生委員、自治会の他、不動産会社等も加わって、住宅の確保から死後対応まで幅広く支援していける様に、事前にネットワークを組んでいく。それが、円滑に医療や介護・福祉サービスを受ける権利の保障になる様に思います。
3つ目は居場所や地域コミュニティ作りです。孤立を生まない様に、地域に居心地の良い場を設ける。そして、友人や地域の人等とのインフォーマルな関係を築いていく。これは専門家でなくても、地域の中に中心となる人がいれば出来ます。それにより、互いを見守り、ケアする地域コミュニティが出来ると思います。
最後に、私が関わっている愛知県知多地域での取り組みを紹介します。知多半島では08年にNPO法人の知多地域権利擁護支援センター(現名称)が設立され、5市(現在は4市)5町から委託を受け、成年後見の無料相談を始めました。公金が入っているので、運営には自治体のチェックが入ります。現在では成年後見業務を軸に権利擁護支援等の活動にも取り組んでいます。
同センターによる身寄りの無い人への支援としては、22年頃から「互助会」作りを始め、24年10月から「くらしあんしんサポート事業」を開始して、「見守り・安否確認」「入退院時等支援」「死後事務支援」のサービスを行っています。対象は親族の協力を得られない知多半島の居住者で、契約能力を保有する人です。又、このサポートを受けた人には互助会への参加も条件にしています。互助会は月に1回集まるサロンの様なもので、身寄りの無い人と地域住民が繋がる場となっています。「互助会」と「くらしあんしんサポート事業」をセットで行っているのが特徴です。
未だ試行錯誤をしており、成功事例と言える段階ではありませんが、こうした取り組みをそれぞれの地域で始めていく事が、今後必要になると予想しています。
質疑応答
尾尻厚生労働省が「保証人がいない事のみを理由に、入院を拒否してはいけない」と通知したとの事ですが、実際は入院を拒否している病院が多いという事なのでしょうか。
藤森 18年に発出されましたが、入院費用等を理由に断られるケースが多い。病院側も困惑していると思われ、対策を講じる必要が有ります。
宮本隆司 (福)児玉新生会児玉経堂病院病院長 病院でもお一人さまによる医療費の滞納が問題になっています。又、身寄りの無い人の終末医療で治療方針を決められない事も有る。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の推進も必要ではないでしょうか。
藤森 ACPについてはキーパーソンや伴走者のみでは不十分で、地域の連携の中で、ケアの担当者や医療機関も一緒になって治療方針を決める事が必要です。地域の繋がりを如何に作っていくかが重要だと思います。又、キーパーソンとして伴走する支援者への公的支援が乏しいのは、居住サポート住宅でも大きな課題です。昨年、富山大学が「地域の交流イベントに通っている高齢者は、要介護になるリスクが4分の1に減少する」という研究結果を発表しました。医療面では有意な差は認められませんでしたが、介護面でははっきりと差が出た。高齢者の変化に気付いて、早期に適切な支援に繋げる事が出来れば介護費用の抑制となる事も考えられ、公的支援を導入する根拠になると思います。
織本健司 (医)健齢会ふれあい東戸塚ホスピタル病院長 お一人さま支援のシステムを運営する上で、重要なのは法整備と予算だと思います。法整備は進んでいる様ですが、実際にお金が付かないと人は動かない。又、日本には1人が気楽だと考える人も多く、孤独を好む風潮も有ります。こうした日本に合った、人との繋がりを推進する施策は有るのでしょうか。
藤森 居住サポート住宅の身寄りの無い人に伴走し、気付いて繋げるシステムは、家族機能の社会化という点で画期的な事です。只、お金の面は不十分で、居住支援法人の持ち出しになっている部分が有ります。それでは採算を取るのが難しく、持続可能性が有りません。日本には「孤高」という言葉も有り、1人で過ごす時間も尊重されるべきです。しかし、いざという時に「助けて」と言える人は必要です。今後は、医療・介護分野だけでなく、地域作りに取り組む人達とも連携する等、様々な分野の人を巻き込みながら、支援の仕組みを構築していかなければならないと思います。
小﨑慶介 (福)心身障害児総合医療療育センター所長 居住支援法人による支援時間の長い人は、障害者が多く、障害者の支援に手が掛かる事は容易に想像が付きます。金銭的に居住支援法人の運営が厳しくなれば、支援時間の長い障害者は、最初に切り捨てられてしまう恐れが有る。障害者も含めた公的支援の仕組みを検討して頂きたい。
藤森 支援を市場原理に任せ切りでは、支援時間が長い利用者とは契約しないという事が起こり得ます。それでは本当に支援を必要としている人達に支援の手が届かない。支援を持続していくには、公的な支援と理念が必要だと思います。
関川浩司 (医)石心会第二川崎幸クリニック院長 がん治療では、通院患者が予定日に来院しない事が有ります。治療面だけでなく安否も気になり、その様な場合の連絡先に困ります。結局、病院スタッフが自宅を訪問する事も有ります。
藤森 病院のソーシャルワーカーが地域の支援施設と関係を保ち、連携を図る事が大切だと思います。NPOや社協等、支援の中心になっている団体や組織は地域によって異なるので、地域の実情に合わせた連携が重要です。
齊木敏文 (一社)日本医療介護事業連合会副理事長 私は現在弁護士も務めていますが、公証役場の公証人として公正証書を活用してお一人さまの生活を支援する運動に取り組んできました。伴走者や病院が患者の支援をするという場面もよく見られますが、法的権限が有るのかという点でリスクが有ります。しかし、公正証書を作成すれば法的権限を確保出来る。具体的には任意後見人を選んで、どの様な代理権を持つのかを法務局に登記します。法定後見人は裁判所の選任ですが、任意後見人は自分で選べる事が出来、弁護士や行政書士、民間事業者にも依頼出来ます。依頼費用は月5万円が相場です。只、亡くなった後まで代理して貰う事は出来ないので、死後の事も託す場合は、死後事務委任契約が必要になります。これによって、死後の電話契約の解除や入院費の精算等も任せられます。更に終末医療の方針を明確にしておきたい場合は、「尊厳死宣言公正証書」を作成する事も出来ます。公正証書の作成費は5000円程度です。
藤森 任意後見制度は、もっと活用されて良い制度だと思いますが、低所得者の場合、費用面で利用するのが難しいかも知れません。

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