講演:厚生労働省労働基準局安全衛生部
産業保健支援室
室長 安達栄氏
第一弾は「企業における『高ストレス者』対策」。厚生労働省・全国中小企業団体中央会・日本商工会議所の後援のもと、月例の勉強会同様に充実した内容で、メンタルヘルス不調による休職者、退職者を減らす対策などを情報発信、政府が進める「働き方改革」を実現できるよう、多角的に考察・議論を行ってまいります。詳細は、月刊誌『集中』8月号にて報告記事を掲載いたします。
まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より挨拶をさせて頂きました。
「当会は毎月一回、衆議院議員の原田義昭先生と主に医療従事者の方々、総勢70~80名のメンバーで勉強会を開いています。今回はその中から『高ストレス者対策』に関して分科会を企画し、企業の皆様にご案内させて頂きました。
2015年12月、厚生労働省は企業に対して年間1回のストレスチェックを義務付ける制度をスタートしました。企業からは負荷がかかる制度という声もありましたが、1年が経ち、予想以上の高ストレス者がいることが分かりました。私どもの雑誌でも、社員が自分のストレス度を測ることが出来る良い契機として高く評価させて頂きました。昨日の日経新聞第一面に『休み方改革』という記事が載り驚きました。今後、高ストレス者、うつ予備軍、休職者を救うために、各企業も様々な活動を行っていかれると思いますが、当勉強会もまた、この分科会で支援させて頂きたいと考えています。」
続いて、この日は、九州豪雨の災害対策で現地入りし欠席となった、当会国会議員団代表の原田義昭・衆議院議員の挨拶を読み上げました。
「高ストレス者対策を扱う今回の分科会は、社会的にも大変有意義であり、制度は今後も推進すべきであることは間違いないと確信しております。本分科会でさらに見識を深めて頂き、また企業側からの改善提案、意見等を積極的に頂ければと思っております。最後になりますが皆様の益々のご健勝をお慶び申し上げ、欠席のお詫びとご挨拶に代えさせて頂きます。」(九州豪雨にて地元朝倉市が被災地となり、現地入りのため今回は欠席、司会者が代読)
当会国会議員団の三ツ林裕巳・衆議院議員からもご挨拶いただきました。
「原田義昭先生の代役ではありませんが、途中ながら急遽駆けつけました。この会にはもっと多くの国会議員が参加して皆様と大いに議論し、業界発展の一助になればと思っております。昨年の8月まででしたが、私は厚生労働大臣政務官として労働分野を担当させて頂きました。今後は「働き方改革」を進めていかなければならないのですが、やはり日本の雇用慣行を正すこと、そして長時間労働の是正、この二つを基本としてしっかり改善するために法改正をする、これが働き方改革の本質であると思っています。ストレスチェックに関しては、産業医の立場・権限の明確化は、私も医師として十分ではないと思っていたところなので、法改正を成立させていかなくてはと、思いを新たにしました。今後ともご指導のほどを願いまして挨拶とさせて頂きます。(国会議員団・三林裕巳衆議院議員=急遽の途中参加のため、講演後にご挨拶頂きました)
第1回は、『ストレスチェック制度の取組状況と今後の対策について』~厚生労働省 安全衛生部 産業保健支援室長 毛利正氏にご登壇頂きました。
実は人事異動で本日着任しました。私は前職でこのストレスチェック制度を安全衛生法に導入するときの法改正を担当、平成22年から、一旦は廃案になるなど難産だった経緯をつぶさに見てきましたので、年月を経て定着しつつある状況をご報告できることは大きな喜びです。本日の資料は、27年12月の施行から1年半経った現時点の普及状況を示す、来週以降にマスコミに公表するのですが、まさに最新の数字を入れています。
ストレスチェック制度をめぐる現況ですが、厚労省 労働者健康状況調査によれば、職業生活で強い不安、悩み、ストレスがあるという労働者の割合は、昭和62年の時点から6割近くで高止まっており、特にメンタルヘルスでの労災補償状況を見ますと、請求件数は341件だった平成14年からどんどん増え、28年には1586件に上っています。うち認定件数は498件ですから認定されるのは約3~4割。自殺に限りますと請求が198件、認定が84件と、認定率が高くなっています。内訳としては製造業、建設業、医療福祉といった業種が多いようです(出典:脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況)。
◎ストレスチェック実施状況速報値を中心に
実施状況は、現時点で未発表の最新の数字です。労働基準監督署に報告義務のある50人以上規模の14万1000事業場全体での実施率が82.9%、義務がかかっていない労働者の側から見た受検率が78%となっており、一定の成果が出ているとしてよいかと考えます。勿論、残り2割の事業場には引き続き指導を続けますが、聞けば現在準備中というところも多いようです。事業場規模別に見れば、1000人以上では実施率99.5%である一方、50~90人規模になると78.9%。衛生管理者もおり産業医も選任されているはずですが、やはり事業規模が小さい場合、体制が弱い、あるいは規定を整備しなければならない等々で時間がかかっているものと思われます。
受検率、これは事業場規模に関わらず大体8割弱となっていますが、そもそも労働者の側には義務をかけていませんから、こうした数字が出るのは企業の側からの働きかけが功を奏した結果といえます。検討段階での修正で義務が外れたのは、既に治療を受けている人がいる、受検自体が精神的負担となりかねない等の意見が出たためでしたが、制度の目的はストレスの状態を把握することによるメンタルヘルス不調の未然防止であり、あくまでも一次予防のための仕組みです。やはり全ての労働者の方に受検して頂くのが望ましいので、厚労省としては、プライバシーの保護には十分に配慮した仕組みになっていること、一次予防の趣旨の理解などを周知して受検率を上げていきたいと考えています。
速報値2件目はストレスチェック実施者について。自社の産業医が半数近く担当している一方、外部機関委託が41.8%に及んでいるのが気になるところです。高ストレス者に対応する面接になりますと外部委託は15%に減るのですが、外部機関の中には内容が良くないものも多いようです。いずれにせよ、委託する場合は各事業場が厚生省のHPに用意されているチェックリスト等できちんと把握・チェックして頂きたいですし、本来は、このHPでは徹底的に作り込まれたマニュアル、プログラムも提供していますので、委託しなくても出来るはずではあります。また、産業保健総合支援センターでは1万人が受講する産業医向けの研修なども実施しておりますので、これらの周知をさらに徹底したいと考えています。
もう一つ、速報値でお伝えするのはストレスチェック集団分析の実施率です。メンタルヘルス不調の未然防止には個人レベルと組織レベル、大きく2つのアプローチがございます。組織レベルというのは、ストレスチェックの集団分析を活用して職場単位のストレスの状況と要因を把握・分析することにより、職場環境の改善を進め、職場におけるストレスの軽減を図るというものです。集団分析は努力義務なのですが、全体の実施率が78.3%と、それにしては非常に高い数字が出ており、こちらも規模が大きいほど高いことが分かります。実は我々は当初、特に個人レベルのアプローチを重視していたのですが、国会審議の段階から、議員の方々からも集団分析への期待、高い評価が寄せられていました。
例えば部署ごとのデータを比較することによって特定の部署に負荷がかかり過ぎているのではないか、等々の分析が職場環境の改善に繋がるなら、大変強力なツールになると理解を頂いていると考えられ、ストレスチェック制度の重要な柱の一つとして定着しつつあると受け取っています。厚労省としても、職場環境の改善に取り組むための丁寧な情報発信を示していく所存です。
◎高ストレス者対応の具体例
補足資料の「ストレスチェック制度導入ガイド」7ページをご覧ください。この制度は、基本的には多忙な労働者が、57項目の職業性ストレス簡易調査票で回答を考える中で立ち止まって自らを客観視、本人がメンタル不調の芽に気付く、という導入部が最も重要です。一定の良い結果を上げている事業場は、この部分を研修でしっかりと理解・把握しています。
高ストレス者は受検者のうち10%くらいが判定基準で機械的な集計で出てきますが、面接指導の対象となる方は、さらに各事業場の衛生委員会などで調査審議を行うなどして絞り込まれます。面接は本人の申し出が必須なので、実際に面接を受ける方はさらに少なく1%くらいになるわけです。事業場としては面接を受けて欲しいのですが、多忙、自覚症状がない、自己処理できる、また、その結果が事業場側に提出されるのを嫌う方もいるのですね。
具体例で見ますと、A社は、普段からストレスチェック以前に、健康診断で全員面談、心身の状態確認を実施していた事業場です。具体的には各拠点に工場などがあり、ストレスチェック制度については実施事務専従者が全社員に、一次予防が目的であり義務ではないが、自身のチェックとより良い職場環境作りのために前向きに受けて欲しい、個人情報保護にも配慮している、と事前説明、ほぼweb形式により受検率91.6%。高ストレス者の判定はマニュアルにより、結果を丁寧に伝え、協議してオリジナルで作成した面接勧奨文で、医師による面接指導の意義を説明。面接指導を希望しない社員には健康診断時の全員面談で再度確認、代替機能でフォローしています。やはり面接は受けないという者もいたが、ストレスチェック制度が健康管理室では把握しきれなかった高ストレス者を知り、問題が起きる前の事前アプローチが出来るツールとして機能していると考えているとのことです。
B社は、個人へのアプローチと集団へのアプローチを共に重視している事例です。受検率を上げるために①ストレスチェックはメンタルヘルス不調者の炙り出しではなく、未然防止が目的②未然防止には職場の環境改善と社員自身のストレスマネジメント能力の向上が必要と、2種の研修を企画、受検者向け研修では産業医からも関わり方などについて説明、実際に顔を見て安心して相談できる状況を作りました。そのため事前の想定より面接希望者が多かったそうです。また、ストレス負荷がかかるその時の状態を社員が自覚できるよう、あえて繁忙期の3月に実施するなどして、受検率92%を上げました。集団分析では他に比べ、上司や同僚からの支援が低くコミュニケーションが不足している部門がいくつかあったため、執行役員と管理監督者が面談、共に改善策を考えることで結果を活かしたとのこと。
なお、ストレスチェック制度関連では今後いくつかの法改正の予定があり、特に産業医・産業保健機能の強化について、産業医がより一層効果的な活動を行いやすい環境の整備が検討されています。
講演後に、参加者と次のような質疑応答がありました。
㈱ミナジン 代表取締役 佐藤栄哲氏:主に中堅、中小企業向けの人事管理サービスを展開する会社を経営しています。講演でご教示頂いた簡易調査票は、数百社の人事で転用可能でしょうか?
毛利:はい、ご自由にお使いください。この57項目でなければいけないものでもなく、下に示した23項目をお使い頂いても全く構いません。
㈱日本医療データセンター 健康年齢プロジェクトディレクター 久野芳之氏:ストレスチェックの実施状況について、事業規模50~90名が特に低いのは、産業医がいないからということはありませんか? 数字を上げていくための方策は?
毛利:それは即ち法違反ということになりますから、監督署が日夜指導をしているわけですが、地方に行きますと、産業医を引き受けてくれる医師がいない、という問題はありますね。外部委託が増える要因になっている可能性はありますが、実態としてはあまり好ましいとはいえず、非常に悩ましい問題です。産業医が面接指導を嫌がるケースについては、具体的なマニュアルがきちんと整備されているので、それを周知徹底させていきたいと考えています。
伊藤忠テクノソリューションズ㈱ 人事部健康支援室 統括産業医 松井春彦先生:まさに本日、ストレスチェックが終わり高ストレス者の面接指導を終えてきたところです。昨年のレヴューもしていますが、これで本当にメンタル不調が減るのか、会社のメリットに繋がるのか、もう一つピンと来ない気がしています。我々の手腕にもよるのでしょうが、それを立証するデータや具体的な指導が欲しい。また、地域産業ケアセンターなど小規模事業場にも対応していますが、こちらは今後、義務化されないのでしょうか?
毛利:現場の方の貴重なご意見、有り難く拝聴しました。事業場にとってのメリットは最重要課題として環境整備していきたいところです。義務だから仕方なくではなく、やりようだということ、丁寧に実施していくことが良い成果を生むと考えていますので、今後は事例だけでなく具体的なデータを出していきたいと思います。小規模事業場に関しましては、当初の案では全事業場が義務の対象だったわけでして、行政としてはそうしたい。現時点では何ともお答えできませんが、26年の施行時点で「5年後の見直し」も併せて書かれていますので、その時に検討となる可能性はあります。
尾尻:ストレスチェック制度を義務化した結果、多くの高ストレス者の存在が分かりました。今後、その面談は義務化されないのですか?
毛利:前のご質問と同様、現時点では何とも申し上げられません。が、31年の見直し時に面談の義務化が俎上に上ることは、十分に考え得ることと思われます。
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