
2016年4月に発足した「日本の医療の未来を考える会」は、これ迄、行政担当者や研究者等、各分野の第一人者を講師に招き、医療政策への理解を深める情報や病院経営に役立つテーマ、最新の医療情報等、その時々の重要課題を取り上げてきた。日本の医療を牽引する医療機関や大学の経営者・幹部、国会議員が参加し、活発な意見交換を重ね、その成果を行政への提言にも繋げてきた。第100回となる今回は、当会の医師団代表で、日本医学会・日本医学会連合会長、国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長を務める門脇孝氏が、2040年を見据えた医療提供体制、攻めの予防医療、医学研究力、近未来の精密医療について講演した。門脇氏は今年6月、米国糖尿病学会(ADA)の最高賞である「バンティング・メダル」を受賞した糖尿病研究の世界的な第一人者でもある。講演では、日本の医療の発展に必要な取り組みを、自らの経験も交え熱く語って頂いた。
挨拶
原田 義昭氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士)
尾尻代表から「医療や保険制度について勉強する民間の勉強会を設けたい」と相談を受け、多くの方と立ち上げた「日本の医療の未来を考える会」ですが、発足以来、毎月1回休む事なく回を重ね、今回100回目を迎えました。これ迄ご講演頂いた先生方には心から感謝を申し上げます。今後も200回、300回を目指して更なる努力を重ねて参ります。
三ッ林 裕巳氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(元内閣府副大臣、医師)
学生時代は門脇先生の教科書で学ばせて頂いた身として、本日の講演を通じ、研究力の低下こそ我が国の医療の未来にとって一番の課題であると痛感しています。2004年に始まった臨床研修制度で医療人材の資源が失われた事、国の研究支援がまだまだ不十分である事等を肝に銘じ、国会議員団代表として、しっかりと取り組んでいきたいと思います。
東 国幹氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員、自由民主党副幹事長)
日本の医療を取り巻く環境は決して楽観出来るものではなく、特に我々の世代には、少子高齢化の中で医療水準を維持していく為の制度を構築する使命が課せられています。7月に厚生労働省から新たな地域医療構想の指針も示されました。現役世代が減少し、高齢者が増加していく中、大胆な改革を遂行する国力も欠かせないとの思いを強くしています。
古川 元久氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員、国民民主党代表代行兼国会対策委員長)
日本の医療も先進的な技術が進む一方、経済環境が大きく変わる現在、病院を取り巻く環境も厳しさを増しています。そうした中、救える命を救い、治せる病気を治していく為、必要な財政基盤を含めて医療体制の在り方を検討していく時期に来ていると感じます。今後も様々な勉強をさせて頂き、安心して医療を受けられる社会の実現に努力して参ります。
尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)
2016年4月、当時の日本医学会会長の故髙久史麿先生と原田義昭先生に協力を求め、この会を立ち上げました。当時は毎回講師をお願いするのも大変でしたが、回を重ねる毎に知名度や評価が上がり、最近では講師の方から「光栄です」という言葉を頂く事も有ります。この10年、皆様と共に会を継続出来た事に、我々は大きな幸せを感じています。
講演採録
■対策が迫られる2040年問題
先ず、私が会長を務める日本医学会と日本医学会連合について触れ、医療界が直面する「2040年問題」についてお話しします。
日本医学会は、1902年の第1回日本聯合医学会を源流とし、戦後は、GHQの方針により日本医師会の中に位置付けられました。2014年に一般社団法人日本医学会連合が設立され、現在は日本医学会と日本医学会連合が連携しています。
日本医学会と日本医学会連合には同じ145学会が加盟し、両者は学術活動、医学研究力の向上、診療ガイドラインの策定、勤務医の労働環境の改善、研究倫理、ダイバーシティ、医療DX等、幅広い課題に取り組んでいます。対応する為の委員会も多数設けられ、活発に活動しています。
日本の医療にとって、喫緊の課題の1つが「2040年問題」です。40年は団塊ジュニア世代が65歳となり、65歳以上が全人口の35%を占めます。更に70年には、総人口が8700万人まで減少し、現役世代も人口全体の半数程度となる見通しです。こうした人口構成の変化によって生じる様々な問題を「2040年問題」と呼んでいますが、その中心的な課題の1つが人手不足です。団塊ジュニア世代が現役を退く一方、団塊世代では要支援・要介護となる人が増加します。現役の働き手が減少していく中、誰が医療を支えていくのかが大きな課題です。この問題は、地方では都市部より更に深刻で、35年頃を見据えた喫緊の課題です。
■避けて通れぬ医療機能の分化と連携
2040年問題への対応を見据え、昨年12月に改正医療法が成立しました。新たな地域医療構想の策定、医師偏在対策、医療DX等を推進する態勢が整えられ、原則として27年4月1日に施行されますが、オンライン診療等の重要項目は26年4月1日から順次施行されています。今後、人口構成の変化に伴い、85歳以上の高齢者の救急搬送や在宅医療の需要が増加します。85歳以上の急性期患者は、若年者に比べて手術を要する傷病が少なく、誤嚥性肺炎やうっ血性心不全、尿路感染症等が多いという特徴が有ります。頻度の高い上位50傷病で全体の約51%を占める等、対応すべき傷病が比較的限定される点も特徴です。
こうした高齢者患者の増加に対応するには、医療機関の機能分化と連携が不可欠です。現行の地域医療構想では、15年から25年迄の間に、高度急性期病床の割合は14%から11%、急性期病床は48%から34%へと減少した一方、回復期病床は10%から31%へと増加しました。40年に向けては、更なる機能分化を進めると共に、外来医療、在宅医療、介護との連携や、人材確保を含めた医療提供体制の再構築が必要です。
新たな地域医療構想では、病院単位で担う「医療機関機能」として、高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能、専門等機能が設定される方針です。この中でも、高齢者救急・地域急性期機能は、40年に向けて特に重要な役割を担います。高齢者等の救急搬送を受け入れ、専門病院や介護施設等と連携しながら、入院早期からリハビリや退院調整を行い、早期退院と退院後のリハビリに繋げます。
在宅医療等連携機能は、他の医療機関や介護施設、訪問看護等と連携して24時間対応する機能です。一方、急性期拠点機能を担う病院は今後、一定程度集約され、人口20万人から30万人に1カ所、医師200人以上を目安に、全国で500医療機関程度になると想定されています。厚生労働省は、医療機関機能の併存を基本的に認めない方針で、各病院は地域で担う機能を選択する必要が有ります。
病床の機能区分も、今後は高度急性期機能、急性期機能、包括期機能、慢性期機能の4区分となります。新設される包括期機能は、従来の回復期機能に加え、高齢者等の急性期患者に治療やリハビリを提供し、早期の在宅復帰を支えるものです。厚労省はこうした役割を「治し支える医療」と位置付けています。これらの構想を実現する上では、人材の確保も避けて通れません。今後、高齢者医療の需要が高まる一方、生産年齢人口は減少し、特に人口の少ない地方都市では、4割から5割減少するとされます。限られた医療従事者で如何に効率的に医療需要に応えるかが大きな課題です。
7月3日には、地域医療構想策定ガイドラインが公表されました。27年度上半期頃迄にデータ分析と構想区域の点検・見直しを行い、各地域で必要な医療機能や病床数を検討し、医療機関の役割分担を具体化していきます。病院機能の変更や統廃合も想定され、これらを促進するインセンティブやディスインセンティブも設けられる方針です。28年度末迄に体制を決定し、35年迄に一定の成果を出すという短い工程が示されています。病院経営者は難しい経営判断を迫られる事になるでしょう。
■高齢社会に備え、健康寿命の延伸を
6月30日、経済財政諮問会議で「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026」の原案が示され、「攻めの予防医療」が盛り込まれました。健康増進や疾病予防、早期発見・早期介入に関係機関が連携して取り組み、健康寿命を延ばす事で、「誰もが社会の担い手として活躍できる日本」の実現を目指すものです。
現在、日本人の健康寿命と平均寿命の間には、男性で8年余り、女性で11年余りの差が有ります。この差は介護等を必要とする期間に当たり、平均寿命を延ばしながら、両者の差を縮める事が求められます。高齢者が健康で働き続けられれば、働き手の減少を補う事も出来ます。スポーツ庁の調査では、日本の高齢者は、体力も知力も20年前より約10歳若返っているとのデータが有り、こうした向上が「攻めの予防医療」を支える背景の1つです。
自民党の「攻めの予防医療に関する関係合同会議」では、高市早苗首相に提言を行っています。
注目すべき点は、発症前の予防的措置への保険適用も検討する必要が有るとした点です。従来に無い考え方ですが、「攻めの予防医療」を進める上では、発症前の1次予防に力を入れるのは当然の方向性と言えます。例えば米国では、1型糖尿病を早期に発見し、発症を遅らせる抗体薬が承認され、保険適用されています。日本でも、こうした取り組みが必要になるでしょう。又、提言では肥満症を様々な健康障害の上流リスクと位置付けています。
更に、分野横断的な取り組みも盛り込まれています。ヘルスケア分野でのAIの利活用を進める為、日常の健康作りや健診の場面でデジタル化を推進し、規制や制度の点検や諸外国の状況の整理を行う大臣直轄の検討体制を整備するとしています。研究開発の面では、バイオバンクのゲノム・オミックス情報や臨床情報を充実させ、発症リスクの予測やメカニズムの解明に繋げる事、免疫研究やiPS細胞を用いた病態研究を強化し、実用化への橋渡しを進める事が掲げられました。
■投資の増加で研究競争力の強化を図れ
近年、日本の医学研究競争力の低下が危惧され、その要因の1つに04年の国立大学法人化が指摘されています。法人化により国からの運営費交付金が削減され、国立大学病院は経営維持の為に診療を優先せざるを得ず、医師の診療負担が増えて研究時間が減少しました。最近は私立大学を含め、大学病院の多くが赤字経営に陥り、本来の研究機能や教育機能よりも診療機能を重視せざるを得ない状況です。
研究競争力は論文数や質で測ります。自然科学分野のTop10%論文数で、日本は1999年から2001年には、米英独に続く4位でしたが、09年から11年には中国とフランスに抜かれて6位、19年から21年には13位に迄低下しました。私の専門である糖尿病分野でも、主要専門誌に掲載された日本発の論文の割合は、1996年から99年頃の8%近くから、最近では3%台に迄落ち込んでいます。循環器病や消化器病でも同様の傾向が見られると聞いています。
一方、「世界で最も影響力のある研究者トップ2%包括的リスト」では8731人の日本人が選ばれ、世界6位に位置しています。こうした指標には、日本の研究には依然として高い質が有るものの、研究力が総体的に低下している事は否めません。大学病院に勤務する助教の研究時間は、この15年間で業務全体の32%から15%へと半減した一方、診療等の社会サービス活動は39%から64%へと増加しました。これでは研究力が低下するのも止むを得ません。
医療現場では、材料費や医薬品費、光熱費や人件費も上昇する中、25年度は44の国立大学病院の内31が赤字となり、その合計額は244億円に上る見込みです。私立大学病院も同様に厳しい状況にあります。こうした中、政府や経済界では、研究力を早急に立て直すべきだという機運が高まっています。日本医学会、日本医学会連合は医学研究力向上検討ワーキンググループを設け、昨年4月「わが国の医学研究力の向上へ向けての要望書」を纏め、国に提出しました。その中では、研究と専門医の育成を両立出来る仕組みを構築すると共に、大学院生にも十分な給与を支給する事を求めています。
更に、医師事務作業補助者や研究補助員の充実、海外留学制度の柔軟な運用、国際頭脳循環を進める新制度の創設等も要望しました。
国も、今年3月に「第7期科学技術・イノベーション基本計画」を策定し、トップレベル論文数で世界第3位を目指す目標を掲げました。又、研究開発投資を政府で60兆円、官民合わせて180兆円まで拡充する方針も示されています。基本計画では「知の基盤としての『科学の再興』」が掲げられ、その後の骨太の方針にも同様の考え方が盛り込まれました。総合科学技術・イノベーション会議でも、科学研究費の大幅な増額、人材育成、研究基盤の整備等が議論されています。こうした施策を確かな成果に繋げ、日本が再び科学・医学研究の力を取り戻す事を願っています。
■オールジャパンで最先端の研究を
医学研究力の重要性を示す例として、私の専門分野である糖尿病の精密医療について紹介しましょう。
精密医療の基盤となったのは、01年のヒトゲノムの全DNA解析です。これにより、DNAの所々にSNP(スニップ)と呼ばれる塩基配列の違いが有り、それが個性や多様性の源であると共に、特定の疾病への掛かり易さや薬剤の効果、副作用を左右する事が明らかになりました。ヒトゲノムには約30億個の塩基対が有り、その中に約8000万個のSNPが存在します。個人の遺伝情報を含む様々なデータに基づき、1人ひとりに合った治療や予防を行うのが精密医療です。
15年、オバマ米大統領が一般教書演説で精密医療に言及し、対象としてがんと糖尿病を挙げました。その後、米国では100万人規模の統合データベースを構築する「All of Us」プロジェクトが始まりました。参加者は血液と共に、モバイル機器を通じて運動や睡眠等のデータも提供します。ゲノム情報と生活習慣、環境因子を組み合わせて疾病の掛かり易さを解析する試みで、現在は約50万人分のデータが公表されています。日本でも、遺伝的要因や環境因子を解析し、糖尿病の精密医療を実現するプロジェクトが約10年前から進められています。東京大学や理化学研究所、東北大学等、全国各地の大学、研究所の疾患コホートと大規模住民コホートが参加し、私が研究代表者を務めました。それ迄の各研究機関が個別に進めていたゲノム研究を統合し、オールジャパンで取り組む事を提案しました。
欧米人では肥満を背景に発症する例が多い一方、日本人は比較的肥満が軽くても発症し易いという特徴が有ります。日本人は農耕民族として、インスリンを多く分泌しなくても良い生活を長く送ってきた事が関係していると考えられます。しかし、戦後、食生活が変化し、インスリンの分泌が低いという元々の遺伝的要因に加え、高脂肪食の摂取や身体活動の低下等、環境要因の変化による肥満が増加した結果、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が加わって、インスリン作用不足をきたす人が増え、糖尿病患者は戦前に比べて何十倍にも増加しました。
研究の結果、2型糖尿病の発症に関わる28の新規遺伝子領域を特定し、その内20が日本人に特徴的である事が分かりました。更に東アジア人に対象を広げた研究では、新たに61の遺伝子領域を特定しました。日本人や東アジア人は皮下脂肪を溜め難く、余剰エネルギーが内臓脂肪として蓄積し易い体質の人が多いと指摘されてきましたが、これらの特徴を裏付ける2型糖尿病関連の遺伝子領域も明らかになりました。これらの遺伝情報を基に、2型糖尿病の発症リスクを予測する多遺伝子リスクスコア(PRS)を作ると、1滴の血液から評価出来ます。遺伝子の違いだけで、発症リスクに最大8倍の差が生じる事も分かりました。この予測モデルは日本人を始めとする東アジア人に固有で、欧米人には当て嵌まりません。現在、糖尿病の発症に関わる遺伝的要因は30%以上が解明されていると言えます。
PRSは生まれた時点で決まる為、早い時期から食習慣や運動習慣に注意を払えば、発症を防げる可能性が有ります。例えば、遺伝的に糖尿病になり易い人が不健康な生活を送ると、発症リスクは約6倍に高まります。一方、健康的な生活を送れば、発症を約4分の1に抑えられる事も分かっています。又、2年前には、2型糖尿病を8つのタイプに分類出来る事が分かり、国際共同論文として発表されました。
8つのタイプは、インスリン分泌低下型、肥満・インスリン抵抗性型、脂肪萎縮型、肝臓・脂質代謝型等に分けられれ、起こり易い合併症も異なります。例えば網膜症はタイプに拘らず血糖値が高いほど発症し易い一方、冠動脈疾患や脳梗塞、腎症、動脈硬化症等は、血糖値よりも肥満・インスリン抵抗性との関係が強い。タイプによっては、肥満の改善が重要である一方、血糖値についてはより緩やかな目標でも良いかも知れません。こうした糖尿病の遺伝子・病態・合併症のリスクについての分析を重ねれば、患者の体質に合った治療に繋がり、医療費の削減やQOLの向上にも役立つ可能性が有ります。日本には1000万人以上の糖尿病患者がいますが、1000万人の患者に1000万通りの個別化医療を実現する事を目指したいと考えています。
■糖尿病対策基本法の制定を目指す
がん対策基本法が、がん医療の推進に大きく寄与した様に、日本糖尿病学会では糖尿病対策基本法の制定を提唱しています。今年7月6日には、糖尿病対策推進議員連盟も設立されました。課題は、30代から40代の男女で、糖尿病である可能性や治療の必要性を指摘されながら、受診や治療継続に繋がらない人が多い事です。又、患者数が多く、多額の医療費が掛かっているにも拘らず、糖尿病に関する研究費は、がんや感染症に比べて非常に少ない。研究への投資を更に増やす必要が有ります。
1型糖尿病の治療では、血糖値を連続的に測定し、その値に応じてインスリンを注入するインスリンポンプ療法が有ります。血糖値を安定させ、低血糖を減らす効果が期待される優れた治療法ですが、日本では十分に普及していません。米国では63%の患者が利用している一方、日本では13%に過ぎません。1カ月の自己負担額が約3万6000円に上る等、治療費の高さが一因です。治療は生涯続く為、累計では約2000万円にもなります。特に、小児慢性特定疾病医療費助成制度が終了する年代では、経済的な理由からポンプ治療を中断せざるを得ない患者も少なくありません。
最後に、「糖尿病」という病名についてお話しします。日本糖尿病学会等では、「ダイアベティス」への呼称変更を提案しています。「糖尿病」という名称から、尿に糖が出る病気、或いは甘いものの食べ過ぎ等が原因だとの誤解や、本人の不摂生によって発症したとの偏見が生じています。しかし研究が進み、糖尿病は単に尿に糖が出る病気ではなく、インスリン作用不足による慢性高血糖を始めとする多様な病態や様々な合併症を有する疾患である事が明らかになっています。病態をより正確に表し、国際的な標準呼称にも合致する「ダイアベティス」への変更について、社会的な理解と合意形成を進める必要が有ります。
■2040年へ、皆で知恵を出し合う
最後に、2040年を見据えた医療提供体制について、改めて申し上げます。人口構造や疾病構造の変化に伴い、医療の需要は量的にも質的にも大きく変わります。高齢者救急や在宅医療の需要が増える一方、従来の急性期医療の需要は多くの地域で減少します。生産年齢人口の減少により、医師や看護職員等の担い手の確保も、益々困難になります。
地域毎に大きく異なる人口動態に留意しながら、必要な医療提供体制を如何に確保するかが問われています。医療機関の機能分化と連携強化は必須であり、医療と介護の連携、更には一体的な提供も求められます。地域によっては、医療機関の統合・再編や地域医療連携推進法人の活用も避けられないでしょう。担い手の確保では、AIやICT技術の利活用にも期待しています。財源をどうするかという課題も残ります。診療報酬、補助金、基金、医療の消費税の問題等、議論すべき点は多く有ります。
2040年問題への対応、攻めの予防医療、医学研究力の向上、そして精密医療の実現は、それぞれ別個の課題ではなく、国民の健康と日本の医療を支える上で相互に密接に結び付いています。何より大切なのは、国民の安心・安全を支える医療提供体制を皆で知恵を出し合って築いていく事だと考えています。
質疑応答
土屋了介 (公財)ときわ会顧問 大学病院等の研究競争力を高める為、国は研究費を増やすべきという意見に賛同しますが、大学や研究者にも自助努力が求められます。米国ハーバード大学は年間150億〜250億円の特許収入が有り、補助金減額にも対抗出来る基盤が有るとの事です。日本の大学もTLOが前面に出て、収入確保に取り組むべきではないでしょうか。
門脇 日本の大学はTLOの立ち上げが他の先進国に比べ遅れ、目利き人材も育っていません。人の命やウェルビーイングに役立つ「研究の種」を見つけ育てる目利きを養成し、産業界との連携も強化すべきです。産業界にも基礎研究への投資増を期待します。日本にはノーベル賞級の研究の種が数多く有り、社会実装されれば活力や成長、研究競争力向上の好循環が生まれます。高市内閣もこうした方向性を打ち出していると感じます。
炭山嘉伸 東邦大学理事長 研究力の低下には、専門医制度導入で大学院進学医師が減った事も影響しています。日本私立医科大学協会加盟大学では給付型奨学金を設ける等、進学者を増やす取り組みを進め、本学でも進学率は10倍近くに上がりました。今後も国等の支援は不可欠だと考えています。
宮本隆司 (福)児玉新生会児玉経堂病院病院長最近の大学病院では収入面から、研究より専門医取得等の臨床を選ぶ若手医師が多く、「研究は1円にもならない」との声も聞きます。大学病院は高度医療を要する患者を中心に診て、高齢の救急患者は地域病院で受け入れる体制が必要です。地域医療連携推進法人は約10年前に出来ましたが、全国で60法人程度、東京都にも殆ど有りません。10年後には「高齢者パンデミック」とも言うべき事態が予想されますが、対応は遅れています。同法人を増やすには、どの様な方策が必要でしょうか。
門脇 新たな地域医療構想ガイドラインは方向性とインセンティブを打ち出していますが、十分とは言えません。しかし今回の診療報酬改定で大学病院・特定機能病院の入院基本料が引き上げられた事には大きな意味が有り、高度医療を要する患者の集約に期待しています。高度急性期病院と地域包括ケア病棟を持つ病院が機能分担・連携しなければ共倒れの恐れも有ります。それを促進するインセンティブとディスインセンティブを設けて進める必要が有り、猶予は有りません。現状を直視し、改革すべきです。

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