日本の医療の未来を考える会

第17回「日本の医療の未来を考える会」リポート

第17回「日本の医療の未来を考える会」リポート

キャプティブの仕組み――再保険とは?

 建物を所有している事業会社が火災保険に入るとします。日本の損害保険会社Aに年間保険料として100を支払い、火災が起きたときAは事業会社に1000という保障を提供します。1000という保証を負担しなければならないAは、リスクを分担するため、損害保険会社Bと保険契約を結びます。お客様から100の保険料を受け取ったAは、そのうちの50Bに支払い、火災が起きたとき、B500の保障をAに支払います。Aは、再保険をかけなければ、1000という保障を負担しなければなりませんが、Bに保険をかけているので、500は入ってきます。したがって、Aの最大のリスクは500ですむことになります。ここでいうBが「再保険会社」、ABの間で結んでいる保険契約が「再保険契約」です。Bはほぼ海外の保険会社になります。例えば、ロイズ、AIG、スイス・リーといった大手保険会社です。

キャプティブの仕組み――再保険子会社とは?

 事業会社が、再保険会社を自社の子会社として海外に作っておくことも出来ます。この再保険会社を作るお手伝いをしているのが私の本業です。

 日本での保険契約は今まで通り。A100の保険料を支払い、火災が起きたら1000まで保障してもらえます。この契約を結ぶとき、事業会社がAにリクエストします。何もなければ、Aは海外の再保険会社、ロイズやAIGに再保険をかけますが、事業会社が自分の再保険会社を海外に持っているので、その会社に再保険を引き受けさせてくれと交渉をするのです。Aがこのリクエストを受け入れると、先ほどと同じ構造が出来上がります。Aは再保険会社に50を支払います。事故がなければ、毎年50が再保険会社に入ります。ただ、大きな事故があると、再保険会社はA500の保障を支払わなければなりません。

 このリスクを回避するため、事業会社が作った再保険会社は、ロイズやAIGなどの再保険会社から、500という保障を買ってきます。火災が起きた時、この500の保障でA500を支払うことが出来るので、再保険会社のリスクはほぼゼロになります。ロイズやAIGから500の保障を50以下で購入できれば、その差額が再保険会社の利益となります。

キャプティブ導入の現状

 アメリカでは上場企業の6割超がキャプティブを導入しており、非常にポピュラーなリスクマネジメントの方法となっています。日本には大企業と区分される企業が11000社、中小企業が380万社有りますが、キャプティブを導入している企業は、現在のところ150社に満たない状況です。正確な数字は有りませんが、120社程度と言われています。

 非常に合理的な手法なのに導入が進んでいないのですが、日々の現場でお客様から聞くのは、「こんな方法があるのを知らなかった」という話です。つまり、情報が行き渡っていないという理由で、導入が進んでいないというのが実情なのです。

地震保険導入の活用例

 病院・医療施設等の地震保険の導入について、シンプルにまとめてみました。

 国内の損害保険会社に3億円の保険料を支払い、40億円の保障を受ける地震保険に加入します。国内損保は40億円のうち0.8億円は自社で保障することにし、保険料3億円のうち2.7億円を事業会社が海外に作った再保険会社に支払い、40億円のうち39.2億円のリスクを再保険会社に移します。これが第1次の再保険契約です。

 再保険会社は2.7億円の保険料で、39.2億円の保障を負担しなければいけません。再保険会社は2億円までは自己負担することにし、37.2億円のリスクは大手の再保険会社に移転します。ロイズやAIG0.8億円支払い、最大37.2億円を保障してもらう再保険契約を結ぶのです。

 日本では3億円払って、40億円を保障するという地震保険がありますが、再保険市場に行くと、37.2億円の地震保険を0.8億円で購入できるという現実があります。事業会社の子会社である再保険会社は、国内損保から2.7億円受け取って、再保険会社に0.8億円支払うので、差額の1.9億円がプールされることになるのです。

今回は再保険の仕組みを理解して頂くため、シンプルな形にして説明しました。数値は実際とは異なることをご了承ください。

講演後に、当会国会議員団の冨岡勉・衆議院議員(医師)から挨拶がありました。

「本日は両先生から、リスクマネジメントについて、リスクヘッジをどうかけるかというお話を頂きました。ありがとうございました。再保険会社の仕組みがちょっと分からなかったのですが、要するに、再保険会社を通さないで、事業会社がもっと良い契約をいくつか得れば、もうこういう仕組みはいらなくなると理解していいのですね。その手間暇を省くために、長尾先生は頑張っているということですよね。では、それは、ネット上でよく販売している保険の一覧とか、そういう仕組みに変わっていくのかなと思いました。そうなると、高額なリスクヘッジをかける仕組みが、ネット上に出来てくるのだろうな、と感じました」


質疑応答では、次のような発言がありました。

尾尻:「地震保険の活用例の話ですが、事業会社が3億円の保険料を払って、地震のときに日本の保険会社から40億円の保障を受け取る。ところが、再保険会社は海外の再保険会社から8000万円で372000万円の保障を購入する。ということは、3億円というのが高すぎるのではありませんか」

長尾:「日本には基準となる保険料率というものがあります。一定の保障を買う場合に、一定の保険料を支払わなければならない、という日本独特のルールがあるのです。3億円の保険料を1億円にすれば良いではないか、という理屈がありますが、それは日本の保険会社では出来ないのです。では、この事業会社が、ロイズやAIGから直接購入すればいいのでは、と質問されることもあります。しかし、保険業法186条に、日本の個人・法人は、日本の金融庁が認可した保険会社からしか保険を買ってはいけない、と定められています。日本の保険会社を通さなければ、海外の保険を購入することは出来ません。そこで、このような迂回が必要になってくるのです」

井手口直子(帝京平成大学薬学部教授):「私は薬局を持っているのですが、地震保険には興味があります。再保険の解説を聞いて魅力を感じましたが、小さい会社が海外に子会社を持つというのは、非常に高いハードルです。小さな会社が集まって、共同で海外に子会社を1つ作り、この仕組みの中にはめ込んでいくということは可能でしょうか」

長尾:「今回は再保険についてシンプルな形で説明させて頂きましたが、実際に子会社を作れば、年間の運営費ですとか、維持するためのコストなどもかかってきます。ただ、例えば同じ課題を抱えている10社が集まり、再保険会社を作ることは可能でしょう。数年前ですが、アメリカのメジャーリーグの各球団が、それぞれ入っていた保険をやめ、まとまって1つの保険を購入したことがあります。そういう例もありますし、数社が集まって1つの再保険会社を持つことは可能だと思います。

真野俊樹(多摩大学医療・介護ソリューション研究所所長・教授):「日本のような公的医療保険にも再保険は可能でしょうか。可能だとしたら、世界でそれをやっている国はありますか。日本も公的保険に再保険をかけることは可能ですか」

長尾:「公的保険に関しましては、再保険にしている部分と、自家保険にしている部分があります。リスクヘッジの様々な方法の1つとして、再保険を活用することはあります。日本で公的保険に再保険をかけるとなると、現実的な問題として、保険料に対する給付率の問題があります。それによって再保険料が決まりますので、その兼ね合いで、取れるリスク、取れないリスクはあると思います。ただ、様々なリスクに再保険をかけるということは、理論上は可能です」


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