
今年の診療報酬改定では、DPC病院を巡るルールが見直され、自院が今後担う医療機能を見据え、立ち位置を明確にする事が求められている。新設された急性期病院一般入院基本料AとBのどちらを選択すべきか、判断に悩んだ医療機関も多いだろう。診療報酬は病院経営に直結するだけに、慎重に判断せざるを得ない。その背景には、将来の医療需要の変化を見据え、急性期病床の機能分化・再編を進める国の方針が在る。こうした動きを踏まえ、DPC病院はどの様な経営戦略を描くべきなのか。東京都健康長寿医療センター保険指導顧問で、東京医科大学病院医療保険室客員教授の葦沢龍人氏に講演頂いた。
挨拶
原田 義昭氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士)医療に関する議論を自由に戦わせる場を民間で設け、政策にも反映させていこうと尾尻代表と話し合い始まった勉強会も、月1回の会合を重ね、100回を超えました。多くの人からお褒めや感謝の言葉を頂きましたが、更に皆様のご指導やご支援を頂きながら200回、300回と続けていきたいと思います。私も期待に応えられる様頑張って参ります。
三ッ林 裕巳氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(環境副大臣、内閣府副大臣、医師)日本の医療、介護、社会保障制度を、国民に受け入れられ、応援して頂ける形に変えていく必要が有ると改めて感じています。今国会でも、OTC類似薬の保険適用除外や、出産に際する保険適用について議論されます。こうした制度の見直しには、医療現場の理解を得ながら、十分に議論を重ねていく事が必要だと思います。
東 国幹氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(衆議院議員、自由民主党副幹事長、国会対策委員会副委員長)DPCについては、これ迄制度設計に向けて相当な議論が重ねられてきましたが、多くの関係者に納得して貰える形にするには、未だ道半ばだというのが実状ではないでしょうか。今後も診療報酬改定の場等で議論が進められる事になると思いますが、高齢化など今後の社会の変化に対応出来る医療の実現に資する制度設計を進めていく必要があります。
古川 元久氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(衆議院議員、国民民主党代表代行兼国会対策委員長)医療を取り巻く環境だけでなく、日本経済を取り巻く状況がコロナ前の「デフレ、ゼロ金利、円高」から「インフレ、金利上昇、円安」へと変わりました。病院の近代化を進めようとしても、物価の高騰や金利の負担が重くのしかかる事が懸念されます。地域住民の期待に応えられる病院経営を進める為にも、根本的な体制や制度の見直しが欠かせません。
門脇 孝氏 「日本の医療の未来を考える会」医師団代表(日本医学会会長、国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長)2028年には、それぞれの病院が自らの性格を明確にしなければなりません。高度急性期なのか、高齢者救急を中心に据えるのか、ケアミックスを目指すのか、選択が迫られる重要な局面を迎えています。これは病院の経営に関わる問題ですが、引いては日本の医療の未来をどう考えるかという、この勉強会の目的とも重なる大事なテーマだと思います。
尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)前回の7月に勉強会が節目の100回を迎え、多くの先生方からお祝いのコメントを頂きました。今回のテーマはDPCです。やや複雑で難解ですが、病院の経営者にとって経営に関わる重要な制度であり、詳しく知っておく事は非常に有益だと思います。葦沢先生には多忙な中、多くの資料を作成して頂きました。本日は一生懸命勉強したいと思います。
講演採録
■目的は医療需要に応じた急性期の再編
今回の診療報酬改定に伴うDPC制度のルール変更については、既に厚生労働省を始め分析機関等から説明を受けていると思います。しかし、何が変わるかは知っていても、どの様に対応すれば良いか迄は理解が進んでいない医療機関も多いのではないでしょうか。本日は、急性期病院一般入院基本料のAとBの選択と、今回の改定で見直された短期滞在手術等基本料3の解釈について説明致します。
本題に入る前に、入院医療制度の変遷について触れておきます。日本の病床数はOECD加盟国の中で圧倒的に多く、1000人当たり12.6床で米英の4〜5倍、平均在院日数も16.0日と米国の約3倍です。2018年にはDPC急性期病床を将来半減させる方針が示され、19年には病院の再編・統合が議論されました。その後、反発やコロナ禍も有って議論は後退しましたが、今回の改定で急性期病床の再編という方向性が再び明確になりました。国の考えは、「患者の医療ニーズと医療資源の投入量に正の相関を持たせたい」という事です。個々の患者の状態に応じて適切に医療資源が投入され、効果的、効率的に質の高い入院医療が提供される事が望ましい。医療資源の投入が患者の状態に見合わなければ、非効率な医療や粗診粗療に繋がる恐れが有ります。この為、病院の役割や機能を分化したいのですが、現実には急性期から回復期・慢性期まで幅広く抱えるケアミックス型の病院が多く、病床削減は進んでいません。ケアミックス病院では、同じ患者でも入る病棟によって1日当たりの診療報酬が異なるという問題も生じます。
一方、ケアミックスが認められていない病院も有ります。これ迄は大学病院等の特定機能病院や、急性期充実体制加算を算定する病院が対象でした。そして、今回の改定では、急性期充実体制加算と総合入院体制加算が統合され、新たに急性期総合体制加算が設けられました。この加算を算定するには、高度な急性期医療に対応する必要が有ります。これは厚労省が病院に対し、「今後、どの様に急性期医療を担うのか」と問いを突き付けているのだと思います。
この方針は地域医療構想でも、25年と40年の病床数の比較という形で示されています。それによると、急性期は50万床から24万床へ半減する一方、回復期から移行する包括期は21.1万床から41.6万床に増えると試算されています。つまり、急性期を減らした分を包括期に転換し、トータルの病床はあまり減らさないという事です。この方針は今年の改定に反映されており、次回28年度改定にも反映される見込みです。
今回の改定で新設された急性期病院一般入院基本料A(以下、A)と急性期病院一般入院基本料B(以下、B)もその1つです。ケアミックス病院は点数の高いAを選択出来ません。又、Aでは、救急搬送件数2000件以上、全身麻酔手術件数1200件以上、重症度、医療・看護必要度Ⅱの割合指数②で34%以上、急性期総合体制加算の取得等の条件が示されました。今後、こうした条件に基づいて絞り込みが行われていくのだろうと思います。
DPC/PDPSは急性期医療の包括評価・支払い制度です。DPCは診断や手術、処置、重症度等に基づいて患者を分類し、14桁のDPCコードで表します。PDPSでは、DPC毎の1日当たりの算定額を医療機関別係数で調整します。入院期間はⅠ〜Ⅲに分かれ、短い程、1日当たりの点数が高くなります。今回、標準的な入院期間Ⅱの基準が平均値から中央値に変わり、期間が短縮されました。DPC/PDPSでは、包括払いだけでなく出来高払いとなる部分も有ります。ですから、病院収入を考える時は包括部分が全体の何割を占めているのかが重要になります。
大学病院であれば、DPC部分が3割程度で、出来高は約7割でしょう。これが月別の1日当たりの診療報酬に反映されます。具体的には、高度な手術を多く手掛けて出来高払いの部分を増やした方が、DPC包括部分が多い病院より診療報酬が増える可能性が有ります。高度な手術や救急医療を提供しなければ、収益性を高める事は出来ません。
■体制整備を求められる急性期A、Bの選択
今回の改定で、AとBのどちらを選択するか、悩んだ病院は多いでしょう。入院基本料から考えると、「急性期一般入院料1」の病院が、Aや「B+看護・多職種協働加算2」(以下、B+加算2)に移った場合、点数は高くなります。しかし、Bは加算が無ければ点数が下がります。多くの病院が、この3つを比較検討したと思います。
私が在籍する東京都健康長寿医療センターは550床のケアミックスDPC病院で、救急車等入院数2498人、全身麻酔手術1318件。Aの基準(救急搬送2000件、全身麻酔手術1200件)を辛うじて上回る一方、効率性・複雑性・救急補正係数は全国平均以下で、Aを継続出来るかは微妙な状況です。重症度、医療・看護必要度では、今回新たに救急患者応需係数が加わりました。1病床当たりの救急搬送受入件数に応じて割合指数が上乗せされる仕組みで、当センターでは4.77%となります。今後は、救急患者の受け入れ実績がより重要になると考えています。Bの場合は、救急搬送1500件以上、又は救急搬送500件以上かつ全身麻酔手術500件以上が基準です。
ケアミックスへの対応を見ると、急性期一般入院料1では地域包括医療病棟と地域包括ケア病棟の両方で可能です。Aについては、元々地域包括ケア病棟を持つ病院は継続出来ますが、2年後の改定でどうなるかは分かりません。B+加算2では、地域包括医療病棟は不可、地域包括ケア病棟は可能です。更に重要なのが急性期総合体制加算で、急性期一般入院料1では算定出来ませんが、Aでは加算1〜5、B+加算2では更に加算5を算定出来ます。
こうした変更を当センターに当て嵌めると、Aを選べば約6000万円、Bなら約2600万円の増収になるという試算でした。そこで、今後の病院機能を考え、急性期総合体制加算を算定出来るAを選びました。しかしAを選んだ以上は、今後、年間で救急搬送2000件、全身麻酔手術1200件等の水準を保っていく為、毎月数字を追っていかなければなりません。水準を保てなくなった場合、急性期一般入院料1に戻るのか、B+加算2へ移るのかという選択を迫られる可能性も有ります。こうした見極めも、28年迄に行わなければなりません。重症度、医療・看護必要度についても、何とか必要度Ⅱの割合指数②で34%という基準をクリアしている状態です。これもクリア出来なくなったら、急性期病棟を転換して対象の病床を減らすか、急性期一般入院料2・3・4等に下げる事も検討しなければなりません。こうした検討が、多くの急性期一般入院料1の病院でなされていたと思います。
現在、急性期一般入院料2・3・4の病院はどうでしょうか。Aの選択は難しいので、Bを選択するかどうかという判断になります。Bは点数が3と4の間ですが、救急搬送や全身麻酔手術件数の基準等をクリアしなければなりません。ケアミックスの対応は、地域包括医療病棟は不可ですが、地域包括ケア病棟は可能で、急性期総合体制加算5も算定出来ます。どう判断すべきか悩んだ病院も多いと思います。Bの場合、基準をクリア出来なくなれば、急性期一般入院料2・3・4のケアミックス、地域包括医療病棟単独という選択が有ります。
24年度に新設された地域包括医療病棟では、手術やリハビリ、心臓カテーテル・内視鏡検査、画像診断等を出来高算定出来ます。今回、7対1病棟を持たない場合は入院料が上乗せされ、1日当たり5万円前後も見込めます。こうした事を踏まえると、A・B選択の判断基準は、急性期総合体制加算を算定出来るかどうかだと思います。又、Bには人口20万人未満の二次医療圏での特例が設けられている事から、国は患者数の少ない地方で急性期医療を担う病院が選択する事を想定している様に思われます。
一方、Aを選択した病院は、完全な単機能急性期病院を目指す事になります。Aでありながら従来通り地域包括ケア病棟を持ち、ギリギリ基準をクリアすれば良いという事にはなりません。急性期総合体制加算を取れない病院は、ふるい落とされる事になるでしょう。A・Bの選択は、急性期総合体制加算への「入場券」とも言えるものです。Aを選択したからと言って、加算を得られる訳ではない。そこから淘汰されるかどうかの戦いが始まるのだと思います。
■手術基本料の見直しで過剰な治療の削減を図る
短期滞在手術等基本料3(以下、短手3)の見直しも、DPC病院にとって大きな改定となりました。これ迄はDPC病院で手術をすれば、全て包括部分と出来高部分で算定されていましたが、今回、白内障手術、大腸ポリープ・粘膜切除、前立腺針生検、下肢静脈瘤血管内焼灼術等、短手3の対象となる手術は定額となりました。これは米国のDRG/PPS(診断群別包括支払方式)の考え方を取り入れたものです。定額化により、過剰な検査・治療や長期入院は病院のコストとなります。米国では1983年にDRG/PPSが導入され、在院日数短縮や日帰り手術増加に繋がりました。
病院への影響を試算したところ、東京都健康長寿医療センターの昨年実績に当て嵌めると、約4500万円の減収でした。東京医科大病院では約1億円の減収という試算が出ました。DPC病院で同様の手術をする場合、殆ど減収になるのではないかと思います。
当然、病院としては対応が迫られますが、私達は消化器領域の主な症例について、診療報酬の変化を分析しました。大腸ポリープ切除では、短手3の導入によって、従来のDPC算定より入院1件当たりの収入が下がるケースが有りました。一方、2センチ以上の病変に対するESD(粘膜下層剥離術)は短手3の対象外で、入院単価も高い為、大きな病変は病院でESD、小さなポリープはクリニックで対応する等の役割分担を進めれば、ESDの数を増やしていけるのではないでしょうか。又、胃の悪性腫瘍のESDでは、病変部を含む3センチ以上の範囲を切除しなければ、点数を請求出来ません。この為、3センチ以上切除した事を所見として、必ず記録に残す様徹底しています。
厚労省は28年迄に、各病院が自分達の立ち位置を決める様求めています。高度急性期を担う為にAを選ぶ病院も有るでしょうが、Aを選ぶ以上は急性期総合体制加算の届け出を目指さないと、ふるい落とされてしまいます。Bを選んだ場合でも、やはり急性期総合体制加算5を取っていく。人口20万人未満の地方であれば、急性期拠点を必ず取りに行く事が欠かせません。これらが無理であれば、ケアミックス病院という選択も有ります。どれを選ぼうと、良い悪いは有りません。恐らく、厚労省は病院がどの様な医療を提供し、そこにどの様な患者さんが来ているのかを、今後2年間、データを収集し分析していく筈です。その結果を、急性期のベッドを半減させる為、次の診療報酬改定の内容に反映していくのだと思います。
質疑応答
織本健司 (医)健齢会ふれあい東戸塚ホスピタル病院長当院はケアミックスですが、急性期から回復期・包括期への転換が進み、ケアミックス病院が増えた場合、既存の病院への影響が懸念されます。又、A・Bの基準の内、救急患者の受け入れ件数は、病院個別の事情だけでなく、地域の医療需要や要望等に応えているのかという点も重要ではないでしょうか。
葦沢 厚労省は急性期病床を減らし、回復・包括を増やす事を地域医療構想の中で示しているので、ケアミックス病院が増えていく事は予想されます。只、高齢患者は今後40年まで増加していく事が予想される為、それ程悲観的になる必要はないと思います。AとBの基準については、厚労省も病院が掲げる医療機能を、実際の患者の重症度や医療需要に対応させようと試行錯誤している段階だと思います。病院が「Aを選択する」と言っても、実際の医療提供実績に基づいて、算定出来る入院料や加算が評価される事になる。医療需要に対応出来ない病院は経営的に淘汰されていくのではないかと思います。
宮本隆司 (福)児玉新生会児玉経堂病院病院長 当院は療養型病院で、地域包括ケア病棟を来年作る予定ですが、必要な設備や物品、人員を揃えるには資金が必要です。厚労省が補助金を出すという話も聞きますが、急性期病床の改革を優先的に進めている様に見えます。療養型やケアミックス病院の将来、及び支援についてどう考えているのでしょうか。
葦沢 厚労省が急性期を優先する理由は、救急患者が受け入れ先を見つけられず、市民から苦情が寄せられるという喫緊の課題が有るからです。特に東京等の都市部で深刻な為、病院機能を集約し、役割を分担すれば対応出来る筈だとして、急性期改革を先行させているのだと思います。厚労省は大きな予算規模を持つ省庁ですが、予算の使い道は殆ど決まっていて、補助金等の政策の幅を広げ難いというのも実情です。
土屋了介 (公財)ときわ会顧問 DPCが導入された当時、厚労省の担当者からDRG/PPSへの移行を目指す」と聞いていました。しかし、その後は診療行為毎の細かな評価が増え、出来高払いに近付き、当初の目的とは逆行している様に見えます。又、外来でも出来る白内障手術や大腸ポリープ切除を入院で行っている病院も有り、これでは急性期病床は減らないのではないでしょうか。
葦沢 DRGの実現に向けて、現在はかなり環境が整ってきたのではないかと思います。全国からビッグデータが蓄積され、病気や治療毎の医療資源投入量の標準的な分布を把握出来る様になったからです。医療資源投入量のばらつきが把握出来る診療については、今後DRG型の包括評価へ進む可能性が有ると思います。厚労省も今回の改定の資料の中で、僅かですがDRGについて触れています。外来で対応出来る手術については、将来的に外来化を進めようとしているのだと思います。しかし、現在の診療報酬では、入院させた方が病院の収入が高くなる場合が有ります。こうした現状では、外来への移行が進まないのではないかと懸念しています。
宮入剛 JR東京総合病院院長 当院は急性期と回復期リハを併設しており、急性期総合体制加算4の要件を満たすのが難しい状況です。Aを選べば増収になりますが、回復期リハ病棟を無くして迄Aを選ぶべきか、それともBを選択すべきでしょうか。
葦沢 単にAとして届け出るだけでは意味が有りません。急性期総合体制加算まで取れる様な、本格的な急性期医療を目指すべきだと思います。その為に回復期リハを辞めるという選択は有り得ます。一方、そこ迄急性期機能を強化しないのなら、無理にAを選ぶ必要はないでしょう。今後、Aを選択する病院が多くなれば、急性期医療の実績によって、病院がふるい分けられる事も考えられます。十分な実績が無ければ、将来的にAとしての評価を維持する事が難しくなるのではないでしょうか。

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