日本の医療の未来を考える会

第2回「企業における『高ストレス者』対策分科会リポート

第2回「企業における『高ストレス者』対策分科会リポート
当会の主軸である月例の勉強会から発展し、重要課題を深く掘り下げる趣旨でスタートした分科会「企業における『高ストレス者』対策」。

第2回は「企業の人事・総務が知るべき、メンタルヘルス不調に関する知識」をテーマに、精神科医・立教大学現代心理学教授、香山リカ氏、うつ病治療の最先端治療「TMS」の第一人者でもある「新宿ストレスクリニック」院長、川口佑氏を講師に迎えて9月12日に開催した。
【講演1】企業における「高ストレス」対策 精神科医・産業医の立場から

精神科医・立教大学現代心理学部 教授
香山リカ氏

 私は現在、大学教授、精神科外来での臨床医、そして2か所の事業所で非常勤のメンタル産業医を務めています。主に事業所の人事・総務でメンタルヘルスに関わる皆さんに向け、多彩な現場を知る者として有益な話が出来ればと思います。

 まず職場で起きるメンタルヘルス不全ですが、何と言ってもうつ病です。職場では仕事の成果が求められること、相性は関係なく偶然同僚となった人間関係で長時間を共にすることで、当然ストレスは多くなります。はっきりした原因のない、体の病気に近いうつ病や医師の間でも意見の分かれる新型うつもあり、どんなに気を付けていても発症する人がいる一方、例えば国会議員の方でうつ病はあまり聞きません。病気になるのを待つのではなく発症を防ぐ、元気な人をより元気に、と考える時、個々人のストレス耐性、レジリエンスというものは大事な特性です。心折れてしまう人の割合は、30数年前は100人に1人と言われましたが最近では7人とか。

メンタルヘルス不全のサインと的確な対応

 うつ病以外のメンタルヘルス不調は、適応障害や最近増えている過敏性腸症候群など多いのですが、人事の方は詳しくなりすぎる必要はありません。「何か変だ」、「前と違う」、といった異変に気付き、医師に繋げれば、日本の医師は標準的な力を持っていますから、適切な診療を選んでくれるはずです。食欲が落ちているとか、何度も同じことを言うなどの兆候があったら、必ず他者のいないところではっきり聞く。秘密保持の約束は絶対に守る。まずは産業医への受診を薦めるのも良いでしょう。拒まれたら「いつでも相談に乗る」旨を伝えます。

 今やワーク・ライフ・バランスやダイバーシティは義務ではなく常識となりました。多様性を認めマイノリティーに配慮する職場は一般的な人にも安心でき、モチベーションを上げてくれます。うつ病は怠け、甘えだという精神論、ど根性を持ち出す管理者の意識改革は是非とも必要です。経営者の中には、全員が定時に帰宅すると不安に思う方もいらっしゃいますが、人間としての生活を持つ方が、結局は仕事のパフォーマンスが上がると認識しましょう。また、従業員の皆さんに対して、仕事をさせられているのではなく、自分達の良い人生のために仕事をするという意識を保てるような工夫が、最大のメンタル不調予防と言えます。

【講演2】心の病気?脳の病気?高ストレスの正体と新しい治療

新宿ストレスクリニック院長
川口佑氏

 厚生労働省の「患者調査」によれば、うつ病・躁うつ病患者数は2014年時点で100万人以上。不安や抑うつで明らかに正常の範囲を逸脱している適応障害による「うつ状態」の人は6万7000人となっていますが、実際にはうつ病患者数より多いのではないでしょうか。きっかけを見ると、仕事上の人間関係や業務量の過大など仕事関係を挙げる人が多く、果たして原因は職場なのか本人なのかは、皆さんも大いに気になるところでしょう。予防を目的として始まったストレスチェック制度ですが、高ストレス者に配付されるレポートで「対人関係のストレスが高い、仕事のコントロール度が低い」と言われても、具体的な対策はよく分からないのが実際かと思います。

 従来の薬物によるうつ病治療では、まず副作用と、改善後の減薬の難しさ、そして約4割の人は、どれだけ工夫しても薬に反応しないという問題があります。その結果、副作用と薬だけが増え「精神科に行くと薬漬けにされる」といった過激な報道までされ、復職後の再発率も、厚労省研究で5年以内に半分近くが再発という数字が出ています。

 そこで、うつ病治療の新しい選択肢として注目されるのが経頭蓋磁気刺激治療、TMSです。うつ病患者の脳は健康な人と比べ前頭葉の機能がうまく働かないことが分かっており、それがMRI検査後に改善されることから研究が進んだもので、神経細胞が自ら機能を修整する、脳の機能そのものを修復するため再発率も12%と低く、副作用もほとんどありません。

高ストレス状態も調整するTMS

薬に反応しないうつ病患者の多くは、仕事の時だけうつ症状が強く、特定の上司に反応する対人過敏などが見られる「新型うつ」や、大人になってから問題となる「大人の発達障害」と呼ぶべき特性を持っています。とにかく過敏でこだわりが強く、些細なことにも反応してパニックや自傷に走ってしまう、集団行動が苦手な子供と同様の状態が、思春期を過ぎてから現れて職場で問題となる。レジリエンスが低い人、高ストレス者は、発達障害的な神経特性からくる「生きづらさ」を抱えているのではないかと推定されます。

発達障害を脳の機能バランスの異常と捉えて修整を図るTMSの研究は昔から多く、私のクリニックでも4000名弱の症例がありますが、周囲の音が気にならなくなった、リストカットしなくなった、「ま、いっか」と思えるようになった、などの感想を頂いています。ストレスの治療とは、周囲の環境に適応しやすく、ストレス耐性を高めることであると結論できます。

講演後の感想
原田義昭・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」国会議員団会長
「うつ病の国会議員はいない、との余談がありましたが、私達はいつも政策実現や予算、選挙という大きな目標を掲げて動いているのが良いのだろうと思います」

川口先生
「高ストレス者に共通の『ぐるぐる思考』はネガティブなことが頭を離れないのですが、診療を通して常に感じるのは正に、意識が陰陽どちらに向くかが鍵ということです」


質疑応答

質問:「従業員の人格を否定するような言葉のキツい上司がおり、相談を受けて対応していますが、当の上司は非を認めてくれず苦慮しています」

回答・香山:「仕事の具体的内容についてではなく『こんなことも出来ないなら辞めろ』『死ね』などと言うのはメンタルヘルス以前の大問題。パワハラですね。専門の窓口がないと大変だと思いますが、例えば従業員にうつ病での休職者が出た場合は労災になるなど企業として困る、避けたい事態であることを根気よく伝えるしかないと思います」

質問:「ある部署で休職者が出た途端、周囲の従業員が複数名、ドミノ倒しのようにメンタル不調を訴える事態に。最初の休職で残された同僚従業員のケアは、具体的にどうしたらいいですか」

回答・香山先生:「まず休職者が出た時点で病名や症状、休職期間などの基本的な説明、さらに期間中も、その時々の状況報告が適宜必要です。もちろん本人の承諾を得ることは大前提です。また、その分の負担が他の従業員へかかることになるため『ただでさえ忙しいのに』『尻拭いは御免だ』など不満を抱えがちにならないよう、頑張れなどと言わず、個別に聞いてあげて、あなたを気に掛けている、ということを伝えることも大事です」

質問:「TMS治療の1回にかかる費用を教えてください」

回答・川口先生:「都内で数軒が扱っていますが、現在は保険適用外なので安価ではなく、2万円前後です。今年7月に1社の機械が医療機器として承認されたので、今後は保険適用が審査されると思います」

尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表
「私はストレスと脳疲労の解消を目的に、新宿ストレスクリニックで、TMSを受けました。頭がすっきりし、身体が軽くなったように感じました。皆さんにも、このような投薬以外の最新治療法が身近にあることを知って頂き、検討して頂けたらと思います」


―「高ストレス者対策」に積極的に取り組む、第2回参加企業―
㈱朝日オリコミ、㈱アットワーキング、イー・アンド・エム㈱、インフォコム㈱、(株)エァクレーレン、SBSホールディングス㈱、㈱NTTデータウェーブ、小笠原六川国際総合法律事務所、㈱木下・マネージメント、キャピタルパートナーズ証券㈱、㈱キュービック、協立情報通信㈱、㈱KMYインターナショナル、㈱ココト、㈱コスモス、㈱ささげ屋、ザ・ホテリエ・グループ赤坂㈱、サッポロ不動産開発㈱、㈱シーエスデー、GEヘルスケア・ジャパン㈱、㈱シーズ・リンク、㈱システムトラスト研究所、㈱白川プロ、社会福祉法人一静会、㈱商船三井、新宿ストレスクリニック、㈱ゼネット、センコー㈱、全国中小企業団体中央会、双日食料㈱、㈱大東青果、㈱綱八、㈱TBSテックス、㈱テクノサイト、テンプスタッフ・クロス㈱、店舗流通ネット㈱、東映㈱、東京ケータリング㈱、トオカツフーズ㈱、巴工業㈱、トータルアドバイザー千葉合同会社、㈱日本医療データセンター、㈱日本生物製剤、日本メディカルサポート㈱ 、㈱沼崎商事、ネオアクシス㈱、パーソルテンプスタッフ㈱、パーソルチャレンジ㈱、光運送㈱、 ㈱日立ケーイーシステムズ、福島工業㈱、ファーストコーポレーション㈱、富士テレコム㈱、㈱fUTSU Lab.、㈱ブリングアップ史、㈱プロントコーポレーション、㈱プロフェース・システムズ、 ㈱文明堂東京、フィード・ワン㈱、㈱ベルウェール渋谷、㈱ホンキ―トンク、本多通信工業㈱、三美印刷㈱、三井情報㈱、三井倉庫ホールディングス㈱、三井物産株式会社、三菱地所㈱、メディカルビーコネクト㈱、㈱リオ・ホールディングス、㈱Libra、㈱LIFULL