日本の医療の未来を考える会

第18回「日本の医療の未来を考える会」リポート

第18回「日本の医療の未来を考える会」リポート

■AI技術の詳細

 機械学習とは、機械が何かを賢く学ぶための方法論の一つです。機械学習をするには、「どんなところに注目したら良いか」という「特徴量」を人間が決め、データを集めます。そのデータから何かしらを機械自身が自分で発見し、自分で学習していけるというのが機械学習の基礎技術です。

 学習方法には、入力と出力の関係から学ぶ「教師あり学習」と、出力(正解)がないのでデータの構造や関係性を調べる「教師なし学習」とがあります。教師あり学習では、正解があるので、予測が間違っていたら修正するということを繰り返します。

 得られるデータから新しい特徴を出させてみようという場合には、ニューラルネットワークという技術が必要になり、脳科学的アプローチという方向に進んでいきます。多層ニューラルネットワークは神経回路の意味を持ち、脳の神経回路のようなネットワークが構築され、そこに電流が流れて情報処理を行います。まさに脳のようなモデルがニューラルネットワークなのです。

 ディープラーニングは、サイエンスとプログラミングも出来る人材でないと作ることが出来ません。日本のディープラーニングの会社が、あまり成果を出せないでいる理由がここにあります。数理問題を扱うデータサイエンティストとプログラミングを行う人の間に溝が出来でしまうのです。9DWでは、AI開発者とは、サイエンスとプログラミングが出来る人であると定義していて、そういう人しか採用していません。だからAIの開発が出来るのです。

■これから求められるAI技術に対する9DWの考え

 今後、医療だけでなく、あらゆる分野で、AIシステムが既存のシステムを改革していきます。それによって、人間は人間がやるべき仕事に従事することになります。医師の仕事であれば、初期問診や事務的な書類を書く仕事などは、AIが自動的に処理していくことになり、医師は人間らしい仕事をする時間を確保していくことになります。

 そういったことを実現させるのが、汎用性AIであると我々は考えています。これは人類最後の発明になるだろうと考えられています。なぜなら、汎用性AIは人間と同じような知性を持つようになるので、このAIが新しい技術を開発することになると考えられるからです。だからこそ、汎用性AIは、軍事産業がない世界唯一の国である日本で開発されるべきです。このシステムで実現されるべきは世界平和なのです。この技術が、戦争の兵器として転用されることは、あってはなりません。だからこそ、アメリカやヨーロッパに先駆けて、この日本で平和利用を前提としたAIを開発することが急務であると考えています。

質疑応答では次のような発言がありました。

尾尻:「ディープラーニングの開発は、それなりのレベルの人しか出来ないということですか」

井元:「現在はディープラーニングを開発すること自体の敷居は下がってきています。ディープラーニングを構築するための様々なツールを提供している会社もあるくらいです。そのため、ディープラーニングのニューラルネットワークを構築すること自体は、そこまで難しいことではなくなりました。しかし、例え出来たとしても、結果が伴わない可能性があるのです。きちんとチューニングしないと、答えを出せないAIになる可能性がありますが、チューニングを自動化してくれるAIはまだありません。そこは開発者がしなければならないため、開発者のレベルの差が出ることになります」

尾尻:「画像診断の話がありましたが、ビッグデータを活用することで、画像診断の性能は高まると考えてよいのですか」

井元:「高まっていくだろうと思っています。我々のアプローチではそうなっています。したがって、医療界で持っているデータを提供して頂けると、どんどん精度は高まります。現在の段階では、提供して頂いているデータが少ないのですが、提供してくれる病院などがあって、データが集まれば、もっと高精度化することになります。具体的な問題として、CTやMRIを撮影するときの設定によって、画像は変わってきますが、多種多様なものを学習させることで、そういったことも考慮して診断できるようになります。大量のデータを、どこかから入手しないといけないと考えています」

長堀薫(横須賀共済病院 病院長):「放射線科医、病理医は希少価値のある存在なので、AIが画像診断や病理診断に寄与することが出来れば、急性期病院にとっては福音となります。出来ることであれば協力していきたいと考えています」

服部智任(社会医療法人JMA海老名総合病院 院長):「学会発表などで使用するデータと同じように、倫理委員会を通したりすれば、コンプライアンス上は問題ないのかなと思います」

井元:「東大と協力して脳のMRI画像の解析も行っていますが、そちらでは東大の倫理委員会を通しています。パーソナルなデータなので、取り扱いには気を付けなければなりません。それもあって出してくれるところが少ないのですが、協力して頂けると、AIの高精度化に役立つことになります」

猪俣武範(順天堂大学医学部眼科教室 医学博士):「シンガポールを見てきましたが、ナショナルベースで同じ規格でデータを集めるといったことが行われていました。そういった試みが世界中で始まっていて、日本もおそらくこのような活動をしなければいけないのだと思います。医療側も一丸となってデータを集めていくことが大切になると思います」

井元:「それは重要だと思います。データを集めたときの規格の統一化はAIにさせることが出来ます。AIが判断して同一規格に直しますので、まずは生データをいかに効率よく大量に集めるか、ということが最大の課題になると思います」

片田直久(フリー編集者):「海外事例として挙がっているAIは、御社でも開発可能なのでしょうか。国内で広がっていないのは、何が障壁となっているのですか」

井元:「ここに挙げた海外事例は、データと資金さえあれば、我々にも開発可能です。日本で出来ていないのは、開発者が育っていないから、というのが最大の理由です」

片田:「健康保険で行っている健康診断のデータの価値について、どうお考えですか」

井元:「AI開発者からすると、データが死蔵されていると感じます。データが電子化されず、ペーパーのままという自治体もあるくらいです。健康な人も、そうでない人も含め、同一人物を何年も追っているデータが、数千万人単位で存在するのですから、非常に魅力的なデータであると考えています。センシングデータがない状態でもできる予防医学の分野で、そのデータがとても役立つのではないかと思っています」

源真里(一般社団法人東洋運勢学会会長):「データを出す側としては、流出したら困るということもあり、安心して提供出来ないのではないかと思います。データや、そこから生まれたものが、どの程度しっかり守られているのか、セキュリティの部分について教えてください」

井元:「わが社のセキュリティについては、会社の秘匿事項になりますので、ここで申し上げることは出来ませんが、強固なセキュリティによって守られています。ただ、データというものは、あるところに止めておくと流出の危険性が高くなりますが、AIで利用する場合、学習済みのデータは不要なデータなのです。そのため、データは一時的に預かるだけで、その後すぐに破棄してしまうので、流出の危険性はきわめて低いといえます。そういった説明が十分に行われていないため、データが集まりにくいのだと思います」

名和利男(サイバーディフェンス研究所 専務理事・上級分析官):「今年5月から改正個人情報保護法が施行されています。そこでインフォームドコンセントの見直しが行われ、オプトアウト手続きという方法が出てきています。これまではオプトインという形で、情報を提供するかしないかということを逐一確認していたのですが、それを積極的には行わず、第3者に提供するということをきちんと書いておき、見やすいところに提示しておきます。そして、やっぱりやめたという時には、きちんと解消することが出来ます。これをオプトアウトというのですが、御社の場合、オプトアウト手続きによってデータを得ることが考えられるのかな、と思うのですが」

井元:「我々が作っているジョイントベンチャーでは、そういった手続きをして仕事をしていくことは視野に入っています。医療分野で扱うデータは、カルテや遺伝子情報など、高度な個人情報と位置付けられていますが、そういったデータも手軽に集められるようになることを目指していきます。この仕事をジョイントベンチャーで行うのは、AI開発者が自分たちでデータを集めず、自分たちの手元には置かないということが、データを提出してくれる側の安心感につながると考えているからです」

「今後、大規模なデータを集める場合、私のデータはやっぱり使わないでください、ということがあると思います。匿名化して保存しているデータや、一時的に使用したデータの権利はどこに所属するようになるとお考えですか」

井元:「法律上もまだ整備されていない部分だと思います。マスキングしてあればいい、という意見もありますし、マスキングしてあっても個人情報に属しているという意見もあります。まだ議論が尽くされていない部分です」

Derek Q(QUEST-ETERNAL GROUP 会長):「人工衛星はビッグデータを集めることが出来ますが、人工衛星とAIをマッチングして、何か役に立つサービスを提供できる可能性がありますか」

井元:「人工衛星の能力にもよると思いますが、地表の写真を高精度で撮影できる人工衛星が複数機あって、地球の全地表の画像データが得られるとすれば、地球を1周するだけで数千枚単位の写真が撮れます。人間には解析不可能ですが、そういう部分にAIを入れると、色々なことが分かってくる可能性があります。NASAが打ち上げた地球観測衛星だと、1ピクセル5㎜の解像度で地表を撮影できます。そういうデータがあると、例えばどこに資源が埋まっているかなど、解析もできるだろうと思います」

松尾成吾(森山記念病院 院長):「昨年8月、東大医科学研究所から、治療に難渋していた白血病の患者がWatsonの診断に従って治療して良くなった、という話が報告されました。それから1年以上がたちますが、AIは臨床の現場で実用化していません。手軽に使えるミニWatsonのようなものは出来ないのでしょうか」

井元:「本来であれば作るべきだと思いますが、パッケージ化は出来ないだろうと思います。何故なら、WatsonはAIといっても、自己学習はしないし、自己改変もしないからです。あの白血病の種類は解析出来ましたが、それだけだと思います。他の事例に関しては、あのシステムではまだ診断出来ていないので、1年たっても何の進捗もないのでしょう。進捗がないので、世の中に出てきていない、という単純な話だと思います。Watsonがやれるのは、自然言語に関わる認知向上です。文章や音声は解析出来ますが、それ以外は出来ないということのようです。しかも、開発者たちはWatsonをAIとは言わず、コグニティブ・システム(認知システム)と呼んでいます。あの白血病に関しても、英語で書かれた論文を解析し、診断書の文章を読み込んだ結果なのです。残念ながらそこに止まっています」


 

 

 

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